3章1
Xデーまで三十五日。
黒ずくめ(暫定犯人チュパカブラ)との戦闘から一週間と数日という月日が流れた。
チュパカブラはその後何時間も前川さんが詰問をしたのだが一向にボロが出ることはなく、むしろ記憶がない部分が多いとチュパカブラ容疑者は主張を繰り返したがため事件は謎を増すばかりだった。
しかも、前川さんはそれを全部信じてあげるものだから余計にそれ以上進まない。しまいには刑事ごっこ飽きた! なんて言って匙を投げる始末だった。
「はあ、目安箱ももう何日もいたずら手紙ばかりで依頼なんてこないし……こうやって部室でただだらだらしてていいのだろうか」」
「ちょ、ちょっと! みんな大ニュース!!」
ドアが勢いよく開き部長である前川さんがやってくる。
「ふ、ふぇ!? 何、何事!!」
ルリ子はその勢いに飛び上がり慌てて辺りを見回す。机にはよだれの水溜りが出来ている。
「ついに! ついにきたのよ! 依頼が!」
前川さんは目を輝かせながら三枚の紙をこちらに見せてきた。
「(なんということだ、待ちわびてはいたけど本当にあんなのに入れる人がいたなんて」」
その紙の内容にそれぞれ目を通す。
一つ、
『ねこまるをたすけて』
平仮名でバランスが悪くそうとだけ書いてある。
「(っていうかこれ明らかに高校生の字じゃない気がするんだが……。ってか猫丸って誰だよ。新しく最近誕生したゆるキャラか何かだろうか)」
二つ、
『初恋のあの子に告白をしたいです』
それに対し次の一枚はなんとも普通の字でそう書いてある。いわゆるこういう相談箱ではありきたりとも言える内容だ。オカルト研究部と大々的に書かなかったこちら側に非はあるのだがなんとも部にとっては則しない依頼である。
三つ、
『ある人の無実を証明して』
「(おお、急にシリアス全開な感じのがきた。自分で言うのもなんだけどこんなこと誰かも詳しく知らない僕達に相談して大丈夫なのか)」
うーん、三つの紙のどれもがパッとしない。幽霊である必要性が微塵も感じることが出来ない案件ばかりだ。
「ねえ、これじゃあ解決しても僕の存在力には繋がらな」
「ねえねえどれにする! 私丁度最近探偵とかしてみたいって思ってたんだよね! この無実って奴陰謀臭いししたい!」
「えぇ〜、それ危ない奴だよきっとー、この猫丸ちゃんの奴にしようよ〜、安全だし依頼者も女の子だよきっと」
二人供全くそんなことは範疇にすら入っていないご様子。
「あ、あの……」
「えー! 無実証明がいい! 何者かによる陰謀を暴き世界の謎を解き明かしたい!」
「やだよー、かわいいのがいいよー」
「あ、あの!!」
「「何!!」」
えーっと、間取って選んでない依頼からとりあえずしてみるのはどうかな。
二人のワクワクに満ちた空間にそんな些細なことすら言えないのだった。
「な、何でもないです」
「で、一応紙の裏の詳細欄で来てみたはいいけど」
「こ、ここは」
「私の教室だねー、同級生なのかなー」
結局二人で話し合った挙句間なら公平だろうという話になり二つ目の『初恋のあの子に告白をしたいです』という依頼を受けることになった。
事前に詳細欄の電話番号にかけてみると最初はあなた達誰ですか! と不審がられたものの目安箱の話をすると普通に依頼をお願いしてくれたのだった。
教室で待つこと幾分か。おそらく依頼主であろう人がこちらに声をかけてきた。
依頼主の容姿は明らかにオタクよりの見た目をしていて告白相手との関係や特徴を聞く限りどうやら片思いなようだ。いや待てよ? というかそれって……。
礼は依頼主のちらちらという謎の挙動不審の正体に気付く。
「(なるほど、そういうことか)」
「あの、前川さん」
「ん! なんだい?」
「おそらくだけど依頼主の告白したい相手って……」
「ふむふむ、何!? 依頼主はルリ子のことが好きなのかい!!」
「え〜! そうなのー!」
「わっ、ど、どどどこでそれを」
前川さんのその向かいの山に向かって山彦でもするかのような声は瞬く間にルリ子や依頼主どころでなく教室中に響き渡る。
今後前川さんには相談事はしないでおこうと心に誓うのだった。
「え、ええいこうなったらヤケクソだあ!あ、ああああの! そ、しょういうことなんで僕と結婚して下しゃい!」
はあ。噛々な上に小学校三年生レベルのその告白内容には若干呆れるが依頼主である以上なんとかして解決しないといけない。
というか依頼主もよく女生徒二人、うち一人は告白相手っていう状況で告白出来るものだ。
「(普通に濁して後日手紙とかで個別に呼び出した方が良かっただろうに。まあ、そう出来ない状況にしたのはもれなく僕と前川さんであるのだが)」
「で、君はさ! ルリ子といきなり結婚してどうするわけさ」
前川さんが割って入っていく。
「あ、そ、それもそっか……。じゃあまずは僕とデ、デートして下さい!」
いきなりのデートの誘い。
「(結婚もそうだがこの依頼主からは少し危ない匂いがしてきたな)」
「ルリ子、この依頼主は危ない。今回は断って別の依頼にしない?」
「とりあえずオッケーしといたらいいよー。私に考えがあるから」
ルリ子はそう言うと目でウィンクをしてくる。
「あ、あのルリ子さん?」
「うん、いいよー、じゃあ明日の昼過ぎに駅前に待ち合わせね」
訳も分からないまま、駅の待ち合わせが決まってしまった。
次回は今日の夜九時




