2章5
部室の前へ到着する。
「はいどうも、およよ? 思ったより早かったねえ。ルリ子のことだから一時間くらい教室で休憩でもすると思ったんだけど」
「うんー、そうする予定ではあったんだけど思わぬアクシデントがあってねー。しかもそのアクシデントさんが休まず行けって言うんだもん」
「うわーなかなかのスパルタさんだねえ!もしかして高嶺くんってなかなかSだったりするのかい?」
「いや、だって……ここ、ルリ子が受けてた教室からすぐ横の階段1つ上ったら後廊下ですよ?」
「ほらこうやって私をいじめるんだよー」
「なんてひどい奴なんだ! ルリ子をこんなに歩かせるなんて!」
かつてこんなに理不尽なアウェイがあったことだろうか。まあ確かに今日も実は学校まではルリ子のお父さんが送迎してくれていて実際のところルリ子の教室から部室まででも総歩行量で考えると十分の一程度にはなるのかもしれない。しかしそうだとしてもここまで攻められる筋合いはないのである。
全くなんでこんなに歩かないのに程よくふっくら体系で済んでいるのか謎である。
「ささ、部室に入ってー」
そう言われ前川さんに部室の中へと招かれる。とそこには今朝とは違い前川さんとは別に二人の対称的な容姿をした男性がいた。
「あ、そうそうこの二人がここの部員ね。このヒョロくて白いのがチュパカブラでこっちの大きくて黒いのがビッグフットね」
「うす」
「はいざんす」
部員二人はそれぞれにルリ子の方を向いて挨拶をする。
「(いや少なくとも黒い彼をビッグフットっていうのは違うだろ。そして彼らはそんなあだ名で良いのか。というかこの二人って……)」
こんなにクセの強い二人を見間違うはずはないし、似てるだけだとしたらこの学校は魔境であると言わざるを得ない。
「お譲。でこの方は我が部に何の用なんです」
ビッグフッドの方が前川さんに質問する。
「(前川さんここの部でお嬢って呼ばれているのか)」
「おいフット! だからかずにゃんのことをお嬢っていうの辞めるざんす! かずにゃんはお譲って呼称よりもっとかわいらしいピッタリの『かずにゃん』って呼称があるざんす!」
「ええい何がかずにゃんだ! お嬢をそんなその辺の地下アイドルにいそうな名前で呼びやがって!お嬢にはもっと誠意を持った呼称こそがふさわしいのだ」
「なにおう!」
「やんのかゴラア!」
どうやら前川さんはオカルトに匹敵するレベルの個性あふれた部員さんを捕まえていらっしゃるようだ。
「(ということはもし僕が生きててこの人達と順調に友達になっていたら今頃僕もここの部員だったのだろうか。もっともこの二人に釣り合うほどの個性を持ってる自信はないのだけど)」
「まあまあ二人とも! 今日はそんなことよりも大事な情報を持ってきたのさ! 聞いて驚かないでね? 今なんと目の前に幽霊がいるのさ!」
「「え?」」
二人して顔を見合わせきょとんとする。
「お嬢、最近何か忙しそうにしてたようには感じてましたがさすがに休まれた方が。これ以上はお身体に影響が出てしまいます」
「そうざんすよ、かずにゃんに何かあったらあっしどうしたらいいやら」
「あーもう! 全然そういうんじゃないよ! 真面目な話!」
前川さんはバタバタと必死にここにいるよと僕の型をジェスチャーしてくれるが二人には全くもって信じてもらえる見込みがない。
そしてそれから数分後、前川さんは色々な手を講じてやっと少しだけ信じてもらえたところで僕達はこれからの流れを確認することになった。
「それでさ、どうすれば高嶺君を無事成仏させてあげられると思うって話だけど私は存在力を貯めるにはやっぱり『神格化』が一番だと思うね!」
「神格化?」
ルリ子は聞き慣れないといった具合に首を傾げる。
「そうそう、昔の時代西洋ならキリストは普通の人が成し得ないことをして神として祀られたわけだし霊的な面でいうならコックリさんとかは儀式をして何かを代償に願望を叶えてもらったという噂があるように要は人助けさね。高嶺君に何か別の名前をつけて誰かがお願いしたらそれを助けてあげる。そうすれば自ずと高嶺君の存在力は上がるってわけ!」
「あ、それお父さんも似たようなこと言ってたー!」
「まあこれは今の現状だと一番ベストなわけなんだけど一つ問題があるのよね」
「問題?」
「うん、結局願いっていうのは他の人が出来ないような価値があるから崇拝の対象になるわけ。だから、逆に言えば価値のない願いを高嶺君の力でなんとかしたとしてもそれはあまり認識されない可能性があるのよね」
「そりゃ誰かと仲直りしたいとか友達を作りたいとかだったらその人の努力次第なとこもありますもんね」
「そういうこと!だから時間が有限である分結構厳選していくことになるかもね」
「うーん、でもそんな都合よく良い条件の願いなんて集まるのかなー、後一ヶ月ちょっとしかないし」
「何今から弱気になってんのよ!これだけ人数がいるわけだしなんとかなるわよ!ささっそれじゃあさっそく!」
そう言うと前川さんは後ろの棚から四角い木箱を取り出すと黒いペンを持って構えた。
「で、なんて神様にする?」
「そんなの良くありましたね」
都合よく現れたそのボックスに僕は思わずツッコまざるを得ない。
「いやー、実はウチの部活こんなだから部費集まらなくてさー。駅前でしょっちゅう三人で募金乞食してんだよね。まあ、全然集まんないんだけど」
えへへと笑いながら頭をかく前川さん。礼は駅前で三人が募金している様子を浮かべてみる。
「(まあそりゃそんな面白おかしいアンバランス集団でかつそんな部活名のところにお金を入れる奴がいるのだとしたらそいつは色んなことに散財していて年中金欠になっていることだろうな)」
「ここは我々の名前を売り込むためにもオカルト神なんてのはどうざんすか」
「私達が裏で手を引いてるとすぐ疑われるから却下!」
「即否定ざんすか!」
「あはは、お前はお嬢のことを何も分かってないな。お嬢! ここは武神高嶺にしましょう!強くて俺ならつい崇めちゃいます!」
「そんなヤクザがカチコミ前にしかお願いしに来なさそうなのは却下! っていうかそんなの暴力沙汰の願望しか来なくなっちゃうじゃない!」
「「しょぼぼーん」」
二人して見事に撃沈であった。
でも確かに願望の対象になりやすい名前というのは難しい。
「うーん、高嶺君はどんな風になりたいのー? 高嶺君が好きなものやなりたいものに因んでつけたらいいと思うよー」
「僕のなりたいもの?」
礼は一つだけある人物が浮かんだ。それは最近読んでいた本である『俺が異世界に行ったらロボット工学を駆使して無双しちゃった』に描かれている主人公だ。
「僕は……俺ロボの主人公みたいになりたい」
「ん? 何それ?」
目を点にする礼以外の全員。ただその中でもチュパカブラはほほぉと意味深な笑みを浮かべている。何か通じてはいけないシンパシーのようなものを感じられてしまった。
しかし、他になりたいものと言われても中学二年から延々と本を読むか看護師さんと世間話しかしてこなかった礼に浮かぶものなどその程度しかない。
「(いや待てよ? これは今や若干マンネリ化してきていると揶揄されている『なろう小説』を広めるチャンスなのではないか)」
礼はこのジャンルこそはこれからの文学における新地開拓になると信じてやまない。しかしそのためにはまず知ってもらわないといけないのだ。
「よく聞いてくれましたね。そもそも僕が読んでいるこのジャンルの歴史は」
「え? なんか急に目が輝き出した!?」
礼は周りに『なろう小説』のなんたるかをきっちりと教えてあげる。
「(話が脱線している? いや、文学を広めるためなら僕のどちらにせよあまり変わらない寿命なんて多少は……惜しいけど目を瞑れる気がする)」
「どうですか? 素晴らしい世界観の溢れた作品だと思うんですけど」
「(どうだ、これで周りもこのジャンルの素晴らしさに興味を示し即座本屋かWEBサイトに閲覧しに行くに違いない)」
「んー、ごめん途中からほとんど頭に入ってこなかった!」
「スースー」
「前川さん!? ってルリ子寝てるし!」
ついでに野郎二人組も特に興味を持てなかったのかかたやベンチ上げ、かたやアイドルフィギュア鑑賞に浸っている。
「いやー、とりあえず高嶺君がその…『なろう系』? っていうのが好きなのは分かったよ!じゃあねー、『なろう系の神様』ってことで『なろ神』ってのはどうかな?」
そう言うと前川さんは名前が決まってうきうきの様子で木箱に『なろ神』と書いた。
そして礼は暫定『なろ神』という名前で世のため人のため生き残るために人助けをすることが決まったのだった。
次回は今日の夜九時です。




