2章3
三日と経たぬ間に見た光景がそこにはあった。死んでからほぼ皆勤賞を狙いにいってどうなるというのだろうか。
「まさかこんな早くまた来ることになろうとは」
しかし、今回は前回とは違う。隣でルリ子が目の下にクマをつけうなだれている。
「あー、安々引き受けてしまったけど昨日のゲームの徹夜が完全に身体にきてるー。どうしよう。今からでも帰って……」
「ダメだよ、僕には時間があまりないんだから」
「いやでもまだ千時間以上あるわけだし」
「時間換算っ!」
「(うーん、明らかに役に立ちそうにないぞこの子。お父さん実は自分が忙しいからこの子に押し付けただけなんじゃ)」
「いいから行こうよ」
礼はだだをこねたまま校門の前に立っているルリ子を押して学校の中へ入った。
「(僕こんな積極的なキャラじゃなかったと思うんだけど)」
学校の中では昨日と全く変わらない景色が広がっていた。
「(こう見ると学生って毎日毎日怠惰に過ごしてるよな。同じ人と下らない会話をして時間になったら席について将来役に立つのかどうかも分からない授業を受ける。よっぽど家でだらだらしてた方が有意義に感じる僕はある意味病院で長期入院出来る適正があったのかもしれない)」
「着いたよー」
ルリ子が四階の奥の部屋で止まる。
ちなみに四階は囲碁部だの新聞部だのと見る限りどうも文化部の集まりという感じだ。
ちなみにそんな中礼達が足を止めた部活は『オカルト研究部』であった。
「まさかとは思うけどここに頼もしい相手がいるわけじゃないよね?」
「え? そうだよー?」
ルリ子はきょとんとした顔でこちらを見てくる。まさかのビンゴなようだ。
「あの、確かに僕の存在ってオカルトにはオカルトだとは思うけどさ、こういうとこってなんていうかUFOや陰謀論とか色々手を出しはするけど結局どれも妄想の域の推論が多くて真実である部分が浅いイメージというか」
「え? そんなことないよー? ここにいる部長さんはとても優しいし、私よりも全然そういうことに熱心だよー」
「(そんなオカルトマニアに熱意で負けていいのか、というかオカルトに力を借りるってある意味自己否定じゃないのか。神の使いよ)」
「じゃあ入るねー」
「えっちょっ」
ルリ子はそう言うと勢い良く扉を開けた。そこには一人の少女が長机を挟んで座っていた。
「おはようっルリ子! 私に話があるなんて珍しいねっ!」
その少女は太陽が弾けたようにニカッと笑うと朝のテンションとは思えないほど溌剌とした声で挨拶してきた。
「まあ、私としては朝から部室に来るのは少し大変ではあったんだけどね!」
「(一見皮肉にも聞こえるその言葉ではあったが顔や雰囲気を見る限りこの人は感情のストレートしか投げられないタイプなのだろう。ルリ子と気が合うのもなんとなく頷ける)」
「ごめんねー、和紗いつも講演とかで放課後忙しそうだからさ。朝なら時間あるかなって思ったんだよー」
「何言ってんだい!私はルリ子のためなら講演の一つや二つ潰したって構わないよっ」
そう彼女はなははと笑い答える。
「(うむう、この勢い。ペースを乱されそうな若干僕の苦手なタイプである)」
「ありがとう和紗っ。で相談なんだけど、実はこっちの方がね」
「おっ! そいつルリ子のボーイフレンドかなんかだと思ったら違うのかっ! どれどれ〜」
その少女は礼の顔の前に来るや否や目を見開いてじろじろと顔を舐め回し、次に目を閉じて今度は鼻ですんすんと匂いを嗅いでくる。
まるで警察犬が何かを見分けるような様である。
「ってこの子も僕が見えるのかっ」
「あ〜なるほど。君、幽霊なんだね。存在力が小さ過ぎて逆に気付かなかったよ。あ!自己紹介しなきゃだねっ! 私の名前は前川和紗。ここ『オカルト研究部』の部長をしてるよっ! よろしくっ!」
和紗は思い出したようにアクセルを爆上げしたようなテンションの上がりようで自己紹介をし、握手をしようと両手を握ろうとしてくるがそれは見事に空振り。しかし笑顔のままわははと笑う。
「どうも、高嶺礼って言います。よろしく」
と、それに対して完全についていけてない礼はボソボソと最低限のトーンで返す。
「礼だから霊になっちゃったのかっ! なるほどねっ!」
「お、おう」
やはり中学生活はひっそりとし入院生活でもあまり誰とも話してこなかった礼にとってこのタイプは経験値が少なすぎた。
「和紗はすごいんだよー、こう見えて色んな超常現象を研究していて全国から毎日のように講演の依頼が止まらないんだから」
「えへへ、そう褒めるな褒めるなー。ってこう見えてってのはなんなのさっ!」
和紗は腕組みをし口元は笑いながらぷんぷんっと怒る。
「まあ、それはいいや。で?この高嶺君について私にどうして欲しいわけ」
少しだけ真面目な声の調子になる前川さん。その顔は真剣なものだった。
「うんっとねー、和紗には高嶺君を今から47日以内に無事成仏させてあげるために存在力を貯めるのを手伝って欲しいの」
「ほほう? そりゃまたとても高く付きそうなご依頼ですねえ。ちなみに高嶺君は後何日くらいこの世界にはいたいんだい?」
「んー、出来たら最後まで」
「へえ、最後までいたいだなんて君変わってるねえ。普通早く成仏したいってみんな願うものだけど?君一体何が未練なんだい?」
いきなり核心を聞き出す前川さん。
「あの、実は初恋の人がいまして……」
「え!? 告白!? そりゃあ君叶わないよ!だって君死んでるじゃん!」
「恋愛事だったのー!?」
がははと腹を抱えて笑い出す前川さん。
「(それは分かってるけどはっきりそう言われると傷ついてしまう。ルリ子もルリ子で意外だというように目を丸くさせているし)」
「で、相手は誰なんだい?」
「……その、福本智紘さんという方で」
「ああ! あのいつも理科室にいるって有名な!」
「え!? 知ってるんですか」
「そりゃあ知ってるよ。二年のでしょ?あの子はなあ……そりゃあ長丁場になりますわ!」
なるほどと納得してしまう前川さん。どうやら智紘さんは悪い意味で有名人らしい。
「……」
「ふむふむ、じゃあとりあえず結構な取引になるがそれでもいいかい?」
そう言いながら前川さんは手をこねこねと怪しい動きをしだす。
「(まさかとてつもない額を請求する気なんじゃ)」
「うーんっとね。とりあえず週一で七でどう?」
「おほう!! さすがルリ子っ! 話の分かる子はあたしゃ好きだよお!」
礼を他所にどうやら取引は成立したみたいで、くるくると上機嫌に回り出す前川さん。一体この一瞬で何が行われたのか。
「あのー、何がどうなって」
「高嶺君よ、世の中には知らなくても良いことってものがあるのだよお。では君について詳しい会議をするからまた放課後」
そう言って和紗は礼の肩付近に手を浮かせポンポンとした仕草をするとルンルンッとスキップをしながら部室を出て行った。
「じゃあ、また放課後出直そっかー」
その後ルリ子は授業を受けるためクラスに向かった。ちなみにルリ子の学年は第三学年であり礼や智紘さんより一つ年上であったようだ。
「(あの雰囲気からしててっきり同学年か年下だと思っていたのにまさか年上だったとは。ってことはさっきの前川っていう部長さんも年上なのか)」
クラスに入るとクラスメイトの若干の視線を感じる。
「ん? どうかした?」
「い、嫌。別に」
ルリ子は礼のちょっと気まずそうな顔から何か察したのか聞いてくる。
「(やっぱりいくらクラスメイトでも巫女服着た女の子がクラスにいたらなかなか耐性なんかつくわけないよな)」
「おっはールリ子、冬は良いよねその服。結構厚着にもなりそうだし」
そんな中クラスメイトの一人がルリ子に話しかけに来る。
「まあねー、夏だってこの下ワイシャツにしたら通気性抜群だよー」
「はえー、年中いけるなんていいなあ。私も巫女デビューしちゃおうかな」
「うん、絶対似合うと思うよおー」
「(そんな誰でも着ていいものなのか巫女服って)」
そんなたわいもない会話をしていると予鈴が鳴り教室に先生が入ってくるとみんなそそくさと席に着く。
「(どうやら目立ってはいるようだけど別にハブられたりしているわけではなさそうだな)」
ルリ子が授業を受けている間最初は隣や教室の周りをふわふわと浮遊し時間を潰していた礼であったが、昼後のコマになると色々痺れを切らしあるところに行くことを決心した。
次回は今日の夜九時にあげます。




