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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
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18

前回のあらすじ。


リノに貴族イベント発生。

 このところ、ルルちゃんの元気がない。どこかさみしげで、儚げだ。もともとの可憐姿も相まって、花の精のようにも見える。庇護欲を掻き立てれるその姿に、視線を送るその姿も少なくない。

 これはうかうかしていられないぞとリノに言いたくなったが、その肝心の彼はここにはいない。数日学園を休んでいて、もちろん部活にも顔を出していない。


 ――ああ、なるほど。ルルちゃんの様子の原因はこれか。リノがいないからか。

 そう当たりを付けて、窓際の花瓶に触れているルルちゃんに近づいた。


「お水を変えてくださったのですね」

「はい。もともと私が持ってきたものですから。リノと選んだんです」


 笑ったあと少しだけ陰った表情に、なんと声をかけようか迷い肩に手を添える。少し驚いた表情をしたあと、ルルちゃんは柔らかく笑った。


「ありがとうございます。さみしくは思ってますが、今生の別れというわけではないから、平気です」

「え? 」

「リノが言ったんです。必ず戻ってくるから、待っててって」


 手紙ぐらいは欲しいけど、と今度はきれいにルルちゃんは笑った。本当によく笑う子だ。これがヒロインかと感心する。


「今日の放課後の時間、私に下さる? 」


 悪役よろしく微笑んで見せると、ルルちゃんは頷いてくれた。




 放課後の城下町は活気にあふれていた。それはお祭りがあるのかってレベルで。


「日にちを間違えたかしら」


 学園から乗ってきた馬車を降り、先導してくれているセザールの後を追う。こんなに人がいるとは誤算だったと眉をしかめれば、ルルちゃんの鈴を転がしたような声が聞こえてきた。


「本当に人がいっぱいいてびっくりしますよね。いつもより人は多いけれど、大体こんな感じです」


 人の多さに気後れした私を気遣って、ルルちゃんは手を握ってくれた。そうだった。この子はお姉ちゃん属性も持っていたのだった。自分より少し小さい手と、その柔らかさを脳内のリノにレポートしていると、いつの間にか目的地についていた。


「お嬢様、終わりましたらお迎えに上がります」


 セザールに別れを告げ、ルルちゃんと手をつないだまま建物に入り、予約していた場所へ案内してもらう。外に出るほど続く長い行列を見て、予約しておいてよかったと改めて思う。


「あ、あのマーティナ様? ここってまさか」

「ええ。最近有名だというパティスリーよ」


 最近元気がなかったルルちゃんを見て、前々から予約が取りにくいというこの店を予約しておいたのだ。ちょこっと、ほんの少しおうちの名前を使ったけれど、何も悪いことはしていない。すべてはルルちゃんに元気になって欲しくてやったことである。


「この世のものとは思えないほど美しいケーキを食べられるらしいのよ。楽しみね。あとでリノに言って悔しがらせるのもいいわね」

「マーティナ様……ありがとうございます」


 ルルちゃんはそう言うと、ついに泣き出してしまった。ずっとそばにいた人が顔を見せないのだから、さみしく感じるのも当たり前だ。

 ルルちゃんの頭をなでながら、この国のどこかにいるリノに念を送った。


 ――さっさと帰ってきなさい。リノ。


 私に責任がないとは言い切れなけれど。


 ***


 リノがなかなか姿を見せないのは、私のおかげというか、せいもあるのだ。

 時は少しだけ遡って、リノから貴族イベントについて聞いた後のことである。


「リノ、これを」


 部室のソファに座り、リノは眉間にシワを寄せながら今日出た課題を睨み付けている。まるでいけないものでも取引するように、ルルちゃんの目を盗んで書類を手渡すと、数回瞬いてこちらを見た。


「まさか、例の? 」

「ええ。この程度、うちの力を持ってすれば、楽勝です」


 ドラグランジュ家のことについて軽く調べてもらったのだ。敵の本拠地に乗り込むのなら、情報は必須だ。


「断りに行くだけなんだけどな」

「備えあれば憂いなしというではありませんか。何かあったときのために、準備はしておくべきです」

「まぁ、そうかもしれないけど。ありがとう」


 珍しく素直に言ったかと思えば、資料を読み始めたリノ顔はだんだん曇っていった。感情をそぎおとしたような顔に、不安になっていく。そんな内容だっただろうかと近くにいたセザールに聞くも頭を傾げている。


「なに不自由もなく、不満もなさそうなのに、何が目的なんだろう。マーティナは、これ見た? 」

「ざっとですが。やはり、跡継ぎがリノでなくてはならない理由は、見当たらないのですよね」



「目的は君か、君の母親か。どちらかだろうね」



 突然背後からかけられた聞き覚えのある声に振り向くと、ここにいるはずもないエド兄さまがいた。


「は、え、何故ここに? 」

「先生に用があってね」


 エド兄さまは眠りこける先生に目をやり、穏やかに微笑んだ。


「どういう、ことでしょうか」


 優雅に足を組み、セザールに入れてもらった紅茶を飲んでいる。リノに尋ねられ、鷹揚に頷いた。


「マーティがなにか調べるよう言ったみたいだから見させてもらったけど、君と本当に血縁関係にあるというなら、血にこだわっているという線もある」

「母からは、一度も父の話を聞いたことはありません。縁も切ったと言っていました」


 時系列的に、今の奥方と婚姻を結んだ時期はリノの生まれた半年後。リノの母親は商家の娘だったらしいが、特に関係性は出てこなかった。


「可能性の話に過ぎないけどね。困ったらうちの名前を出してもかまわないよ」


 そう言ってエド兄さまは私の手を取り立ち上がった。どうやら私も連れて帰るつもりらしい。


「先生への用事はよろしいのですか」

「ああ。急ぎではないから。帰ろうか、マーティ」


 エド兄さまがスタスタと行ってしまうので、ルルちゃんにも声をかけてから帰ることにした。特に緊急性のあることもないので大丈夫だろうという判断だ。


「この国の男は厄介なんだよ」


 その小さな呟きを問い返すも、意味を教えてもらうことはなかった。

 マーティも身をもって知っているだろうと言われたが、さっぱりだった。


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