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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
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 恋愛もので、思いが通じあった途端にバカップル化したりするものを、白けた顔で見てしまった自分もいたが、今なら少しだけ分かる気もする。きっと、抑えていた感情や欲求が、我慢していた時の分を埋めるように外に出てきたしまったのだろう。


 そんなことを考えながら、背後から腹部に回った腕に手を添える。肩には暖かな重みを感じていた。

 現在の位置、アルノルフ様の足の上である。


 どうしてこうなったのか。

 嫌だと感じているわけではないのだ。触れあうことを嬉しいと思っている。その証拠に、心の臓がバックンバックンと鳴っているし、口元がにやつきそうになっている。


「どうされました? 」


 世間が落ち着き、元の日常に戻りつつある今日この頃。

 妃教育を何故か前倒しで受けることになったため、王宮に足を運ぶことも多くなった。そうなると、公務のあるアルノルフ様と王宮内で会うこともあり、たまに休憩を共にするようになった。

 いつもなら、隣り合って会話をする程度であったが、今日は違っていた。


「もう少し、このままでいいだろうか」


 疲れているのか、沈んだ声音でアルノルフ様が耳元で言う。

 思えば部屋に入ってきたときも、覇気がなかったように思う。お茶を貰い、できるだけの人払いをしたアルノルフ様はソファに座り、私を手招いた。腕を引かれ流れるように、気づいたときには抱き締められていた。


「どうぞ、時間の許すまで」


 幸い今日の予定は終わっており、私の方はもう帰るだけだった。

 ぎゅっと力が強まるが、加減がされているようで苦しくは感じない。寧ろ安心できた。


 拒絶をされるようだったら止めよう。

 そう思いながらそろっと肩にかかる重みに手を伸ばす。触れると一瞬反応があったが、何も言われることはなかったので、そのまま撫で続けてみる。


 さらっさらだ。


 濃紺の髪は、絹のようとまでは言わないが、思っていたよりも柔らかく手触りが良い。

 撫でながらそのさわり心地を堪能していると、腕の力が弱まり、少し体が自由になる。抜け出すことも出来たが、アルノルフ様の反応を待ってみた。


「僕は、君のそばにいると、安心するんだ。このまま連れ去ってしまいたいけれど……今日はよそう」


 クスリと笑い私を持ち上げ、そっと横に移動する。もう少しこのままでもよかったと思ってしまったのは内緒の話だ。


「馬車までですまないが、送ってくよ」


 立ち上がったアルノルフ様に、エスコートの手を差し出され手を添える。この世界で生まれて、20年近く。紳士的な扱いにも驚かなくなってきた。


「私も、あなたを癒したい」


 こぼしてしまった言葉に、隣で息を飲む気配がする。私もきゅっと、口をつぐむ。


 そんなこと、言うつもりはなかった。そんなことを思うなんて。

 顔中が熱を持ち、顔を背ける。


 驚くことは減ったけど、それでも驚くものはある。それは、人を想うことを知った自分自身だ。

 正直前世でその手の経験は皆無だったので、感情やそれにともなう行動は初めてのことばかりだった。


 もしここに前世の自分がいれば、白けた顔をしていたに違いない。


 ***


「ねえ、話を聞いてくれるよね」


 どんよりとした雰囲気を纏うリノが、こちらを見ている。彼の深い海のような瞳も、荒れた嵐の時のような色に見えた。


 とある日の放課後、ルルちゃんと一緒にしか見えないリノが、ルルちゃんが休みにも関わらず部活にやって来た。

 珍しいこともあるものだと思っていたら、有無も言わせない態度で話を持ちかけてきたので、驚いてしまった。


「聞きますが。どうしました? 」


 本棚の整理を頼まれていたのでそのまま尋ねると、不服そうな顔をしている。


「これが終われば、魔法書を見せて貰えるのです」


 マッケラン先生が、そんな取引を持ちかけてきた。ようは、片付けを頼みたかったのだろう。

 ミラルダ先生と知り合いであったらしく、昔貰ったというのを見せてくれるらしい。

 だからリノには悪いが、私としては魔法書を優先したい。


 リノは私の言葉に渋々頷き、話しだした。ルル姉には黙っていてと前置きをして。


「イベントが発生しちゃったんだ」

「イベントというと、リノの生い立ちに関わる? ……いや、これはゲームではないからイベントとは言わないのかしら」

「ねえ、もうゲームとは違ってるけど、ゲームじゃなかったの? 」


 神さまがそういったのだから、そうなのだ。


「そうみたいです。それで、どうしたのですか」

「え、それだけ!? いいや、まあ、お貴族様が僕のとこに来たんだよ」


 血縁上の父が現れたということか。

 確か、リノは伯爵家がずっと探してた庶子で、唯一の男子であるらしい。ゲームのようなものでは、貴族か平民でいるか選択を迫られるのだ。

 まあリノも言っていたように大分変わっているので、跡継ぎが彼の他にもいる可能性はあるが。


「あなたの答えは決まっているはずなのに、何を悩んでいるのです? 」


 ルルちゃん一筋と名高いリノである。離れるなんて選択をするとは思えなかった。それなのに、私に話を聞いてほしいとは。


「何か、厄介事ですか」


 そう聞くと、何か喉につまらせたような顔をしてこちらを見る。図星であるらしい。


「正式な跡継ぎは、僕だけらしい。考えてほしいと言われた」


 それはどうなのだろうか。

 一般的に男子が跡継ぎになることが多いが、女子がなるということもないわけではない。婿や親戚筋から養子にとる方法もある。


「お名前はお聞きしても? 」

「ドラグランジュ伯爵だよ」


 その名前を聞いて、記憶の中に叩き込んだはずの貴族名鑑を思い出す。妃教育が、こんなところで役に立つとは思わなかった。


「ご息女がいらっしゃったはずです。分家もあったはずなので、唯一の跡継ぎというわけではないはずなのですがね」


 にもかかわらず、リノをずっと探していたという。

 考えられる可能性はというと……リノの持つ魔力だろうか。

 身分に限らず国民が魔力を持つこの国では、貴族ほど魔力量が多い傾向にあり、またそれを重視される。就職や結婚にも関わり、魔力の多い者を知るためにも学園は存在する。

 入学にも魔力量は関係している。魔力量が多ければ問答無用で入学させられるらしく、ルルちゃんは魔力量と珍しい属性に目を付けられたわけだ。学力で入学したらしいリノだが、並の魔力量ではないはずだ。

 でも、それだけだろうか。


 これは調べることがありそうだ。不安そうなリノに笑いかけ、本を並べていった。


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