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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
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16

「あの、やっぱりさっきの言葉はなかったことにしてください」


「へ? 」


 距離を置いてから告げると、殿下らしからぬ声が聞こえてきた。顔は青ざめていて、酷いことをしてしまったかもしれない、と思うが撤回はしないでおこう。


「好きかもしれないと気づいたけれど、まだそれまでなんです。自分でこの気持ちを噛み砕いてから。それからでもいいですか、私の気持ちを伝えるのは」

「……はい」


 意気消沈した様子の殿下に庭園を案内してもらい、殿下に別れを告げそのまま逃げるように王宮を後にした。



「何かあったのか? 」


 無意識にタウンハウスではなく実家の方に来てしまった私は、突然の帰宅に驚いたエド兄様に手厚くもてなされていた。

 実家の方からも学園へは通えるけれど、幸い明日は休みなので泊まる旨を伝えてもらい、サロンに移動する。きっとセザール達は心配しているだろう。


「エド兄様。男性の方は試すようなことをするものですか」

「……されたということか」

「はい。破棄以外にも方法があると言われて。騙された気持ちになってしまって」


 ぽつぽつと経緯を話す私に、エド兄様は優しく頷いてくれている。殿下に足りないのはこの包容力ではないか。


「それで、1回無しにしてもらったんです」

「無しに……傑作だなっ」


 エド兄様は私の言葉を聞いて笑い転げてしまった。え、そんなに笑うことだろうか。


「きっと学園に戻ったら何らかのアクションがあるだろう。その時に、マーティはまた考えるといいよ」


 何か考える素振りを見せてから、エド兄様が微笑んでそう言うので、そう思うことにした。


 ***


「マーティナ、ちょっといいかい」


 学園がまた始まり、昼休みが始まった頃殿下に呼び出された。

 スサナ様に断りを入れてから連れてこられたのは、花々が咲き乱れる庭園だった。先を歩く殿下が振り返ると、花を背負うような形になる。ゲームであったなら、スチルにして収めておきたいほど綺麗な構図だ。

 軽食を買い、ベンチに並んで腰掛ける。ちょっとしたピクニック気分を味わっていると、ぽつりと殿下が言った。


「先日の話だけど」


 やっぱりらしくなく、自信なさげな殿下に少しだけ罪悪感を感じた。でも殿下のやり方に不満を感じている私は、そのちらつく気持ちに見ないふりをする。


「なんでしょう」


 横に座る殿下を仰ぎみると、片手で顔を覆い隠して上を見上げていた。耳はほんのり赤くなっている。

 意を決した様子の殿下は、私の前に膝をつき片手をすくい上げた。


「アルノルフ様、そんなことっ」


 突然の行動に顔を赤くし、王族にそんなことをさせていいのかと青くした。

 そんな私にはお構い無しで、口元に手を寄せる。ほんのり温かく柔い感触に、己が何をされたのかに気づき赤面した。湯気が出そうな程である。先日頭にされた時には他のことに気を取られ、恥ずかしいという感情を忘れてしまっていた。しかし、今この瞬間には何も思考を阻害するものは無い。

 つまり赤面など不可避であった。


「ああ、本当に君は僕を意識してくれているんだね」

「当たり前です。無闇矢鱈にドキドキさせないでください」


 めちゃくちゃな言い分になってしまった。恥ずかしさでさらに顔が赤くなる。

 殿下がクスリと笑い、私の方を真剣な顔で見つめる。


「僕と結婚を前提に付き合って下さい」

「はい? 」


 今何と言ったのか。開いた口が塞がらない。驚きすぎて、顔に集まっていた熱が散っていく。


「市井ではそのようにいうのだろう? 」


 驚く私を無視して、本を読んで勉強したのだと照れて笑う殿下は、可愛らしい。確かに、前世で読んだ少女漫画でも、昼休みに呼び出して告白するシーンはあった。しかし、結婚前提など見たこともない。

 第一、既に婚約者同士である私たちに、そのやり取りは必要なのか。


「先日のあれは、やっぱり良くなかったのだろうと思い至ってね。さあ、返事をくれるかい? 」


 答えなど既にわかっていながら、殿下は催促してくる。

 待っていて欲しいと言ってから、まだ数日しか経っていない。好きだという気持ちは日を追う事に増していき、気持ちの整理がついてるとは言い難かった。

 そしてもちろん、ノーという返事は持ち合わせていなかった。


 少し下にある殿下の目をちらりと見て、深呼吸をする。立ってくれるように頼んだが、立ってくれなかった。きっと私が返事をするまで、殿下はこの状態でいるつもりなのだろう。


 上目遣い気味に小首を傾げていて、殿下が少しだけ幼く見えた。胸がキュッと締まるような感覚がある。このあざとい顔も、いつもの王子然とした表情も、照れた顔も、怒った顔も、心配している顔も、全部全部好きだ。私は殿下の顔がタイプだったのか。本当にゲームだったなら、推しになっていただろう。

 改めて認めよう。顔も含めて、アルノルフという人物に私は惹かれている。努力家で、優しく、時に強引で、私の好きなことを尊重してくれて。

 そんなところが、好きだと思えるのだ。


「はい。末永く、これからもよろしくお願いします。アルノルフ様」


 そう言うとようやく立ってくれたアルノルフ様は、その腕の中に私を閉じ込めた。私もそろりと腕をのばし、抱きしめ返す。恥ずかしかったけれど、少しだけ頑張ってみた。

 私のしたことに驚いたらしいアルノルフ様は体を跳ねさせた。


「君は僕を翻弄するのが好きだね」

「なんのことですか」


 耳元で笑われて、耳がこそばゆい。それから低く艶のある声で囁いた。



「愛しているよ、マーティナ」


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