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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
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14

 久しぶりの学校は、静まり返っていた。休み明けは騒々しくなりがちなような気もするが、そんなことはない。

 それもそのはず。つい最近まで魔物がうじゃうじゃ王都にいたのだから。

 長期休暇中に遠方のに帰っていた人や領地に引っ込んでいた人からしたら、様子見をしたいところ。遠方の人でそうなのだから、王都近辺、王都に住む人も中心部にある学園に行きたいと思うわけがない。いくら魔物を倒したとしても。

 そういうわけで、学園にいる学生はクラスの半分にも満たなかった。道理で静かなわけだ。


 そんな静かで学級閉鎖にでもできるクラスに登校している私を、誰かに褒めてもらいたい。心配するお父様とエド兄様を振り切り別邸に戻り、自主休講を勧めてくるセザールに惑わされず、魔法の勉強がしたくてやって来たのだから。

 もう脅える心配はないに等しいと知っているのに、学校を休む理由が何処にあるというのか。いやない。


 しかし、木枯らしでも吹きそうな教室を眺めていると、セザールの勧めに乗っておくべきだったかもしれないと思えてきた。


 王立図書館で借りてきた本を取り出す。それは魔法について書かれたものだった。私は魔法を楽しむためには、一から勉強し直すことが大切だと考えた。

 魔法で使われる大まかな属性。メモを取りながら読んでいると、後方から名前を呼ばれた。


「おはよう、マーティナ」

「アルノルフ様、おはようございます」


 長い足で、気品と色香を漂わせながら近寄ってきた殿下は、私の隣の席に腰を下ろす。隣の席であるはずの学生は遠方の生まれであり、例に漏れず休みである。少し遅れて、殿下と同じクラスのクレイグもやってきた。


「どうされました? 」


 殿下はニコニコとしているが、クレイグは少し焦ったようにしている。まさかまだ危機は過ぎ去っていないというのか。

 不安になる私に、殿下は安心させるように微笑みかける。


「聞いていないかい? 学生がいないから、クラス合同になるらしいんだ。それで急に僕がマーティナのところに行ったものだから、その話を知らなかったクレイグは慌ててついてきたわけさ」

「俺までも撒くのはやめてください、アルノルフ」


 撒くほどの速さであったはずなのに、殿下には一切疲れは見えない。クレイグは振り回されてしまったのだな。可哀想に。

 殿下は普段ちゃんと自制なさる方だが、撒くほどに私のクラスに来た理由はなんだろうか。


「クレイグには悪いと思っているけれど、嬉しくて、つい早歩きになってしまったんだ。今年はマーティナと違うクラスで、しかも例の件以来会えていなかったから」


 殿下とのお出かけのつもりが戦闘になってしまい、その後また誘わせて欲しいという手紙が届いたが、結局予定が合わず殿下と出かけることは無かった。

 ほんの数週間会わなかっただけだが、それはそれは綺麗な顔で嬉しいと頬を染めて殿下が笑うので、伝染ってしまったかのように私の頬も熱を持つ。



「ゴホンッ」


 わざとらしい咳が聞こえたところで、ここが教室であることを思い出した。前方の扉から入ってきた年配の男性教員が、しかめっ面をして前を向くように促している。いつの間にか来ていたらしい。

 クレイグは近くの席にすんとすまして座っていて、気づいていたのなら教えてくれれば良かったのに、と恨めしく見てしまう。


「マーティナ、君は僕だけを見ていればいいよ」


 咄嗟に顔を抑え俯く。勢い余って顔がちょっぴり痛い。

 殿下、またそんなことを言ったら私は茹でダコのようになって怒られてしまうではないか。


 ***


 殿下にお昼を一緒に食べようと誘われ、食堂へ移動する。スサナ様はお休みで、クレイグもいないので二人きりだ。休暇の続きということなのかもしれない。


「マーティナ、長期休暇はどうだった? 」

「そうですね……ソーサリーという国があった場所に行きました」


 正確には、ソーサリーがあった近くまでお父様に頼んで連れていってもらった。ミラルダ先生の生まれたところをこの目で見たいと思っていたのだ。埋まってしまったのは昔のことなので、現在は一つの小さい山のようになっている。馬車をとばして、それでも往復して一瞬見るだけで休暇はなくなってしまった。


「ソーサリーには僕のご先祖が眠られていたはずだよ」

「そうだったのですか」


 世界大戦で亡くなった第四王子が当時の王へ送った手紙で、最初で最後の願いとしてソーサリーに墓を建てて欲しいと願ったそうだ。


「ソーサリーは土砂に埋もれてしまったそうだが、ご先祖の墓だけは埋もれることはなかったそうなんだ」


 殿下が思い出すように話す。この国だけではなく近隣諸国のことも勉強していると聞いたことがあったが、ソーサリーのことまで知っているとは思わなかった。

 ミラルダ先生のご友人がどんな方だったのか聞くことはなかったけれど、きっとその方こそが迎えにいらしたご友人だったのだろうと思った。


「アルノルフ様は、とても忙しくされていたのですよね」

「ああ、そうだね。けれど君とまた出かけるためだと思えば、造作もないことだよ。結局休みが明けても終わらなかったけれど」

「……私はいつでも予定は空いておりますので、しっかり休むことも忘れないでくださいませ」


 飄々と疲れているだろうに、なおも寝ずに頑張るしかないとつぶやく殿下が心配になる。疲れは見えないけれど、よく見ればうっすらと隈ができている。私は寝ずに何かをしていてぶっ倒れた人を、前世で知っていた。

 体に良いハーブティーでも調べてみようと考えていると、視界の端の殿下が破顔した。そのキラキラに当てられ思わず目を背ける。


「心配してくれるんだ」

「もちろんです。婚約者の心配をすることは、当然のことですわ」


「……婚約者であるから」

「ええ」


 顔を背けている私は気づかない。殿下が黒い笑みを湛えていたことを。


 膝上で組んでいた手を殿下に絡め取られた。ビクリと体をふるわせると、どこ向いているの、と笑みをこぼされる。さすがに失礼であったか。

 振り向いた私に、殿下がニコリと笑って言った。


「もう少し落ち着いてから、改めて手紙を送るけれど。今度王宮においで。僕が案内するよ」


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