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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
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13

 ベッド脇に、何かがいる気配がする。体は縫い付けられているかのように動かせなかったが、不思議と恐怖心は持たなかった。


 視線だけ動かすと、そこには白い服を着た女性が立っていた。以前夢に出てきた風貌から察するに、神さまであるのだろう。現実に出てくるとか。確実に近づいてきている。あの有名な曲がつい頭で流れてしまっても、私は悪くない。


「先程、あの方がご友人に連れられてこちらにいらっしゃいました。ああ、こちらとはわたくし共のいるところです」


 ふふふと穏やかに笑われても、内容が不穏でしかない。頷くなんてことな出来ないので、そうですかと返すと、神さまは少しだけ怒った口調でそれだけですか、と言った。


「それだけも何も。体を動けなくしているのはあなたではありませんか。向かい合って聞きたいことも、聞けません」

「いいでしょう」


 そう言うと神さまは私を亜空間とも呼べる場所に連れてきた。とてもとても広い場所で平衡感覚を奪われそうになる。


「あら、驚かないのね」

「これが必ずあるべき試練だと思っていますので」


 やはり神との対面は絶対あるものだったのだ。私は死んですぐお腹の中にいたが、こういうものは必ずと言っていいほど神らしきものと対面する。私は少し遅れてしまっただけなのだ。そうに違いない。


「まあ、いいわ。あのあなたの恩師でもあるミラルダさん? 亡くなったの」

「……そうさせたのではなく? 」

「どうしてそう思ったのかしら」

「私がこちらに来た理由を考えていたんです。その理由がミラルダ先生を止めるためだったら、あなたは元凶に罰を与えるのではないかと」


 だから私は、無属性を使い力を使えなくした。ミラルダ先生を傷つけることは嫌だから。できるだけ穏便にすませたかった。


「そうね。ああでも、わたくしはかつてあげたものを返してもらったってだけで、亡くなったのはただの寿命よ。ようやく体に年齢が追いついたのね。ご友人が迎えに行きたいって言うから、せめてもの慈悲で案内してあげたの。感謝されることはあっても、恨み言を聞かされる筋合いはないわ」


 失礼しちゃうわと、肩をすくませている。

 ミラルダ先生は二百歳を超えていたはずで、寿命だとさっき言っていたが、結局何歳であったのだろう。寿命で苦しむことはなかったのだろうか。そんな思いが浮かぶ。けれどご友人が迎えにいらしたというのだから、寂しい思いはしなかったかもしれない。


「最初は不安だったけど、あなたに任せて正解だったわね」


 ぽつりとこぼされた言葉に、やはり私はこの人に呼ばれたのだと確信すると共に、疑問を持つ。


「なぜ、私だったんですか? 」

「こういっては誤解を与えるかもしれないれど、たまたまよ」

「誰でも良かったってことですか!? 」


 突然声を張り上げた私に、やっぱり誤解してるとむくれ、神さまはそっと私の頬に手を添えた。怪訝な顔をして見る私に、微笑みかける。


「あなたが落ちて死んだ湖があったでしょ? あれ、私の一部なの」

「は? 」


 つい気の抜けた声がもれる。


 神さまが説明してくれたものを整理してみると、あちらの湖がこちらの、トラヴァース邸の森にあった湖とたまに繋がるそうだ。湖に力を流して神さまは様子を見ていたそうで、その時にちょうど私は落ちてしまったらしい。

 普通ならこちらの湖にたどり着くところ、私は残念ながら狭間を彷徨い息絶えてしまう。そこをお得意の慈悲とやらで転生させてくれたそうだ。慈悲深い神さまであるらしい。しかし、どうせならと密かに使命を与えた。


 それが、イレギュラーの動きを止めること。


 ずっと管理していたものが手の内から離れ、イレギュラーな動きをし始めているのを止めさせようとした。そのイレギュラーがミラルダ先生。本当なら、ソーサリーが無くなるその時が命日であったらしい。

 そのために、こちらの情報をゲームに似せて私の脳に送った。記憶が曖昧であったのはその情報が大まかなものであったからなのだろう。


「あの、私、いえマーティナを序盤で死んでしまうキャラとしたことにはなにか意味が? 」

「その方が、危機感が煽られるでしょ? 」


 まんまと私は乗せられ、フラグ回避をしようとしていたわけか。


「わたくし、慈悲深いでしょ? だから、人間に力を貸しちゃってね。偉い人から怒られてしまったのよね」

「……はあ」



「この結果は、望んだものでしたか? 」

「及第点てところね。魔王も消滅したし、余分な芽も積んでもらったし。それに、あなたは勝ったのよ。いい働きをしてくれたわ」


 満足気な神さまは、自分で蒔いた種の回収を私に任せた訳だ。私は何か文句を言ってもいい立場ではなかろうか。

 文句のひとつでも言ってやろうとしたところで、私はベッドに引き戻されてしまった。


 これで本当に何もかも終わったということだろうか。けれどどこかモヤモヤした気持ちを抱えていた。


 ***


「マーティ、おいで」


 朝食を食べ終えて食後の紅茶を頂いている時、お父様から気遣わしげに声をかけられた。エド兄様も不思議そうにしていて、私もなぜ呼ばれたかもわからないまま近寄る。


「なんでしょう」

「これを。後で……そうだな、エドウィンと一緒の時に読みなさい」


 お父様から受け取ったのは、真っ白な封筒だった。封蝋もなく見た目から宛名は分からないが、お父様から貰ったものなので変なものであるはずがない。

 エド兄様のお仕事が終わるのを待って、サロンのソファで隣合って座る。


『親愛なる私の教え子』


 その文言から始まった手紙に、読み進めていくうち耐えられなくなって嗚咽を漏らし始めた。

 ミラルダ先生が行方不明になった頃、渡せたらとお父様に託していた手紙は、しっかりと届けられたようだ。

 泣きながら読む私の背を、優しくエド兄様が撫でてくれる。おかげで読み終えることが出来たが、きっと一人では耐えられなかっただろう。お父様がエド兄様と一緒にと言った意味がよくわかった。付き合わせることになってしまったエド兄様には申し訳ないが、居てくれることでとても安心していた。


 手紙の内容は、思い出話をするように、目の前に本当にいるように書かれている。それがもう二度とないと分かっているから、涙が次から次へと止まらない。

 エド兄様の心地よい温かさに、身を委ねた。


 手紙の最後は、こう締めくくられていた。


『まだまだ特訓が必要ですね。けれど、それ以外の目的を見つけなさい』


 私はミラルダ先生を納得させられる場所には至っていない。ああ、もやもやの意味が少し分かった気がする。一人で勝ったような言い方をされていたからだ。あの勝利はみんなの協力がなくてはならなかった。私一人では取るに足らない。それをミラルダ先生には見抜かれていたのだろう。

 しかし、魔法向上以外の目的を見つけろとはどういうことだろうか。私は生き残りたかった。そのために魔法を鍛えようとしていた。けれど今魔王はいなくなり、必死に鍛える必要はなくなった。

 ミラルダ先生と初めて会った時を思い出す。本当のことを言えず私は遊びたいと嘘をついたけど、それが本心だったのかもしれない。別の目的と考えた時に、楽しみたいとしか浮かばなかったのだから。





 ミラルダ先生が亡くなったという知らせをお父様が受け取り、それを私たちが聞いたのは翌日のお昼のことだった。



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