12 ミラルダ視点 その2
11、12はミラルダ視点です。入れ忘れました。
時が経ち、自由を作れるようになった頃、再び冒険者として駆け回ることが出来るようになった。
魔法の研究や訓練をするのは楽しいけれど、やはり実地で生ものに触れるのが一番いい。メキメキと自分の力が上達していくのが、目に見えて分かった。
その頃不思議な少女に会った。
自分の力に食われそうになっている、内に力を秘めたご令嬢。世にも珍しい無属性を持つお方だった。私をミリーと呼び慕ってくれ、貴族でありながらお転婆で、落ち着きがない。体が元気なら今にも飛び出して行きそうなほどだった。
最初は仕事として出向いていたが、次第に打ち解け厚かましくも姉妹のように仲が良くなった。
彼女の体調が落ち着き、冒険に着いてくるようになった頃、転機が訪れる。
故郷、ソーサリーが地図から消えた。
何千年に一度ともいわれているほどの災害が起き、大雨が降り続く。その雨が山を削り土砂崩れを起こして、小さな小さなソーサリーは埋もれた。生存者がどれほどいるのか、そんな情報が私に届くことはなく、大分後になってから、ソーサリーの住人は先祖が残してきたものを守ることを選んだらしいというのを聞いた。
悲しみにくれる私を癒したのは、憎いはずの自然である山の中で見つけた大木だった。大木は触れると、モヤモヤと渦巻く嫌な気持ちを吸い取ってくれる。けれど空いた心の隙間を埋めてはくれない。私はそこに通うようになった。
休息を過ごしている時に、大木の裏側に文字が刻まれているのを発見した。私はその見覚えのない文字に引かれ、魅入り、本を読みあさり、机にかじりつく。文字に飲まれていくようだった。
マーティナを教える立場になったのは偶然だった。
姉妹のようにしていたあの子が亡くなり、あの子に金魚のフンのように付いてきていた公爵の息子と再会し、それからたまに連絡を取るようになった。あの子の娘らしく、活発で、器用に魔法を操る姿からは魔法をするのが楽しいというのが溢れ出ていた。
そんな彼女のそばにいると、魔法そのものへの興味がさらに湧いてくる。彼女に触発され、私はまた本を読み漁り、隙を見ては大陸中を調査と言い張り巡った。大木に刻まれた文字と同じものを見つけたのは、王宮の図書館にあった禁書の中だった。
『魔王』
確かにそう書かれていた。
その禁書があったのは王族限定の区域であったが、何度か忍び込んだものの、読むことが出来たのはその一時だけだった。
私は魔王について研究し始めた。
きっと、この心の隙間を埋めてくれる。そんな確信があった。
***
その声に応えたときを、正確に覚えている。
地面に広がった魔法陣が光を帯び、室内を気味の悪い霧が覆う。肌が粟立ち、立っていることもままならない。ただ、漠然とした恐怖が私を支配している。私は恐怖を抱えながら、僅かな望みを持って交渉していた。
もう一度、一瞬でもいいからあの人たちに、あの人に会いたいと。
いつしか体、思考、力、私の全てを捧げていた。
残虐さについては、何度も聞いていた。魔族のみならず、人々を苦しめ、先祖が力を得るきっかけになったものだというのは確かに理解していた。私の行動は、身のうちに巣食うそれの復活のため。そのためだけに動いていた。
環境を整えるために魔物を呼び、恐怖を植え付け、適当な器を探す。器がダメなら捨て、新たに魔物を呼び出し、仲間を増やす。
それだけが生きている意味のように感じていた。
けれど、そんなことはなかった。
私にとって最後とも呼べるチャンスが訪れ、途切れ途切れに浮上する意識の中で、目の前に悲しげな教え子の姿を見た。
私の生み出した魔物との戦いにより疲労困憊になってもなお、その目にはしっかりとした力を宿していた。周囲には揃いのローブを羽織ったものたちの姿もある。
なぜ忘れていた?
私を見ていてくれた彼女を。仲間を。
憎い存在に成り代わったドライアドに締め付けられながら、己の魔力が抜けていく。知識としてあった無属性とはかけ離れた使い方をする、と感心する暇もなかった。
***
牢の中に置かれたベッドの端に腰掛ける。
首には魔封じの首輪が着けられている。力がせき止められているため、普通の魔法さえも、外に出すことは出来ない。その力はというと、尽く抜き取られているため、体にはほとんど残っていない状態である。
大変なことをしてしまったと自覚しているが、後悔はしていなかった。
きっと私は……。そう思考に沈みかけたところで、突然扉が開き人が入ってきた。そちらに視線を向けずに気配だけを感じていたが、その人物は一つ呆れたように息を吐いた。
「では、そのままで。ミリー殿」
私をそのように呼ぶ者など、もう居なくなっていたと思っていたが、厄介なやつを忘れていたようだ。
重要な立場に就いていたはずで、こんな所に来るはずがない。何か無理に押し通したに違いない。思えば昔から妙に悪知恵の働く奴だった。教え子の父親で、かつての冒険仲間、ベルナルド・トラヴァース。
「よもやうちの子たち、いや国中に迷惑をかけるようなことをするとは。あなたは昔から活動的でしたが」
子煩悩なところは置いておいて、活動的の一言で片付けてしまうのだから、大したものだ。
「意味があっての事だったのでしょう。被害を少なくしているところも、あなたらしい」
ふっと笑って言う奴の言葉を聞きながら、目を瞑る。
「……買いかぶりすぎですね」
渋々出した言葉を聞いた後、奴が懐から手紙を取り出し受け取る。覚えのある魔力を感じ、ふと懐かしさから口元が緩む。
「あの子は、あなたを慕っていた。師団の一員としてのあなたを慕う者もいた。それを裏切る行為をしたのです」
「ええ、わかっています。あなたより先に、お転婆なあの子に会うことになるだろうことも」
牢に入れられてすぐ、国を混乱に陥れようとしたとして大罪人として罰せられることを聞いた。奴も聞いていたのか、眉間に皺を寄せ、私の手元を見ている。
「一言だけでもいい。あの子に返事を貰えるだろうか? 」
手紙を書き終えたその日の夜、夢の中で友人が迎えに来た。




