11 ミラルダ視点
魔王が猛威を奮っていた時代。人間と魔物、当時は魔族と呼ばれていたもの達はそれぞれ別の国を持っていた。
けれど魔族を支配するだけに飽き足らず、魔王は人間の国にまで手をのばし始めた。
そこで神は信仰者であった人間に、力を与えることにした。悪に立ち向かう、抗うための力を。それは強大で、魔族を凌ぐほどの魔力である。魔族に流れるものとは画一した、神力にもほど近いものであった。
その後、力を与えられた人間達は、歓喜に湧く中心部からひっそりと離れ身を隠し、何年も経ってから国を興す。
それが森に囲まれた小さな国、ソーサリーである。
今は地図上からも消えたソーサリーであるが、かつては自然に恵まれた、豊かな土地だった。
ご先祖は国を興す前から森の神様に祈りを捧げていて、ずっとその風習は続いていた。その関係で、ドライアドという精霊とも近しい間柄であったと小さい頃から聞かされている。
ソーサリーの人々は力を与えてくれた神と、豊かな自然をもたらしてくれるドライアドに祈りを捧げながら日々を過ごしていた。
だから、庇護が一時的であったと知り、柄にもなく取り乱してしまったのだろう。毎日毎日、朝晩と祈りを捧げていたソーサリーの人達。ソーサリーが無くなるその瞬間まで共にあることを選んだというのに。
信仰心と優しさに溢れるソーサリーの人達。
私は自然に囲まれたソーサリーと、そこに住むみんなが大好きだった。
***
小さい頃から、親に口うるさく言われていた。
「言葉に気をつけなさい。言葉には力が宿るのだからね」
その言葉の真意を知ったのは、私が初めて外の人と対面した時だった。
森に囲まれ、世間とは離れているソーサリーには、行商人や迷い込んだ旅人ぐらいしかやって来ることはない。その行商人でも、年に数回程度。迷い込んだ旅人など、そうそうお目にかかることは無い。
いつも私は置いていかれてばかりだった。年の離れた兄も村の子も、私より体が大きく、魔法を扱うのが上手で、私は落ちこぼれ。
その日も魔法の模擬戦でボロボロに負け、兄たちははるか先を歩いていた。
突然現れた外の人は、見たことも無い風貌の輩だった。獣の皮と使い古された服を纏っている。知識だけで知っている盗賊というやつだった。
その盗賊は横柄な態度でズカズカとやって来て、土足で安寧の地を踏み抜いて行った。
むしゃくしゃしていた私は、いつもなら禁止されている魔法を使おうとした。だがコントロールの下手な落ちこぼれのもので効くわけもない。
油断した隙に、盗賊の1人に腕を掴まれてしまった。
「大人しくしな、嬢ちゃん」
悪人面で、卑下た笑みを浮かべている。もがくも、子供の軟弱な力では抜け出すことなど到底無理な話だった。
離して、離してと、この声に気づいて誰かが来てくれると信じ叫び続け、何度目かにチリリと辺りに火花が散った。驚いた盗賊の男は慌てるが、手を離すことは無い。
「このっ! そんなもの使いやがって」
口振りから、目の前の人物が、魔法を使えない側であることがわかった。その声には、明らかに魔法を使える者への嫌悪の色が含まれていた。
汚らわしいという視線を向けられている。汚らわしく、不潔な盗賊に。
その途端、目の前が赤くなり、脳内が沸き立つようだった。私のイライラは、魔法を使えるソーサリーのみんなを侮辱されたように感じ、怒りへと変わった。
それからよく分からないまま、拙い魔法で近くの岩を砕き、命令した。酷い怪我を負わせろと。ほとんど本能的な行動であったように思う。魔力を帯びた岩の欠片が男たちに向かっていく様を見ていた。
騒ぎを聞いた大人たちがやってきた時には、無事であるものなど一人も残っていなかった。大人たちが上手く処理してくれたらしい。
その夜。母からこっ酷く怒られた後、ソーサリー特有の力について聞いた。言葉に力を載せることが出来るのだという。私が他の人より魔力が多いことに気づいていた母は、危険性を理解していたからこそ、このことを黙っていたのだろう。
私はその後から、より一層魔法の練習に力を入れることになる。
やがて成長して、故郷を出て冒険者として生計を立てることになるが、そこで初めて私たちが長命であることを知った。どうやら緩やかに時が流れているらしいと判明した時には、故郷を出てから100年近く経っていた。
私はしばらくひとつの街で稼いでから、顔に年齢の変化が出る頃、また別のところに移るという生活をしていた。
そんな私が、エレーンに200年以上留まることになっているのは、全土を巻き込んだ大戦が原因だった。
私は、強大な力を持っている。それを買われてエレーン側で戦った、ということになっている。実際は、戦狂いの王様が上手いこと口車に乗せて戦争を吹っ掛けさせたところ、前々から目をつけられていた私が、同じような手に引っかかったのだ。ソーサリーを戦火から遠ざける代わり、戦うようにと命令された。
激しく戦い、沢山の人々が死んだ。ソーサリーの安全を引き換えに、疲弊するまで力を奮った。
そこで初めて、親しい友人が出来た。彼は身分も感じさせない、感じのいい人だった。どんな人にも同じように接する。相手の門を切り開くのを得意としているようで、それでいて自分では線を引いているようだった。口が上手く、懐に入るのが上手い。敵味方関係なく懐柔されていく様を、よく目にした。
本当に、王族には舌を巻くものがある。戦場のただ中にいながら、彼は王族の血を引く一人だった。
「貴方はここにいるべきではないのではない? 」
そう私が聞くと、彼はカラリと笑った。彼に背中を預けながら言う台詞ではなかったかもしれないが、彼も場違いなほど明るい声で言う。
「そうかもしれないね。でも、俺は比較的自由な王族だから、それを生かさないと。それにこの戦いもそろそろ終わる。その先を見たいじゃないか」
彼の言葉通りそれから直ぐに戦いが終結したが、彼はそれを見ずに死んだ。
初めは、戦が終われば故郷に帰るつもりだった。故郷で一生を終えるつもりだった。
ところが、王様は私に魔法師という職を与える。要は、私の力を縛り付けておきたかったのだろう。
私は彼の見れなかったその先を見るために、残ることを決めた。




