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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
50/62

8

間あきました。すみません

 綺麗に整備された石畳の上を、僅かな揺れと共に馬車に乗って進む。時折小石を弾く音がして軽く車体が動く以外は、快適な道のりだ。

 が、目の前には落ち着いた色合いの服を着た殿下が座っており、目が合えば目を細め微笑まれるので、心の方は落ち着かない。


 朝から変にそわそわしっぱなしの私は、殿下に対し曖昧に笑みを返す。


「君がそんなに楽しみにしてくれているようで、僕は嬉しいよ」


 私よりも楽しそうに、嬉しそうにしている殿下にそう言われ、何故だか気が抜けてほっと息を吐く。これはあれだ。慌てている人を見て逆に落ち着くという現象ではないか。

 少しだけ平常心に戻った私は、今日のことについて尋ねてみた。あまり手紙では詳しく書かれていなかったのだ。


「今日はお誘い頂きありがとうございます。観劇ということでしたが、どういった演目なのですか? 」

「魔王討伐を元にしたものらしい。今流行っているそうだよ」


 みんなで力を合わせて敵を倒す、そういう冒険ものなのだという。


「あくまでフィクションだけれど、元になった人物として感想が欲しいと言われてしまってね。君を付き合わせることになってしまって悪かったね」

「いいえ。では、他の方とは劇場でということですか? 」

「いや? 彼らはそれぞれ見るだろう。それにこれは、デートのつもりだったんだけどね」


 殿下のその言葉に、私は自分がそわそわしていた理由を思い出した。



 それは今日着るための洋服を選んでいた時のこと。

 自分よりも意気揚々と着飾らしてくれるメイドの言葉が原因だった。


「せっかくのデートなんですから、とびっきりのオシャレをしませんと」


 デート、デート……と心の中で反芻して、顔どころか体中が熱くなっていった。

 デートと呼ばれるものなんて、恥ずかしながら前世から数えても初めてのことだった。二人きりでのお出かけだなんて!



「どうかしたのかい? 」


 回想に耽っていると、不思議そうな顔で殿下に見られてしまった。

 いけない。貴族令嬢たるもの、気丈に振る舞わなければ。


「いいえ、なんでもありませんわ」


 恥ずかしくなって、髪の毛を意味もなく耳にかけていると、「おや」と殿下が目を瞬いた。首を傾げると、それと共に横に流していた髪が揺れる。それと同時に、ふわりとお気に入りの匂いが香った。


「手紙と同じ香りだね。いや、あの手紙がマーティナの香りだったのかな」


 また優しく微笑み、恥ずかしげもなくそう言われ、血が巡っていくのを感じた。そんな心とは別に、気づいてくれたことに嬉しく思っているのだから、不思議なものである。


 ***


 演劇の内容は、概ね聞いていた通りだった。一つ間違いがあったとするなら、演目が冒険ものではなく恋愛ものであった点だろう。

 生徒のうちから選ばれし者を選び……云々はいいとして、囚われの姫を魔王から助け出すものだった。姫と将来を誓い合った恋人が仲間と共に奮闘する。その恋人が、殿下のように見えたのは気の所為では無いだろう。

 自分達を元にされたものだと考えないようにすれば、胸を熱くする内容だった。


 観劇を終え、二人で近くのカフェテリアに移動すれば感想会を開くことになった。もともと感想を求められていたので、自然の流れと言えよう。

 頼んだケーキと紅茶のセットが運ばれてきて、それを食べ終えたのを見計らい、殿下が視線をこちらに向けた。


「じゃあ、劇について話そうか」

「はい。あの、アルノルフ様。冒険ものではなかったのですね」

「ああ……嫌だったかい?」


 少しだけシュンとして、小首を傾げられてはなんの反論もできない。失礼に当たるかもしれないが、その姿は少し可愛らしい。


「いいえ! そんなことは。大変素晴らしいものでしたね」


 それから互いに感想を言い合い、殿下は伝えるためかメモをとっていた。サラサラと手帳に筆を走らせているため俯くと、艶やかな前髪が端正な顔に影を作る。その様子を見ていて、やはりと思う。


「主役の方は、殿下をイメージされていたのですね」


 躍動感の動きと共に揺れる髪は殿下と同じ髪色で、知的さも勇敢な姿勢もよく表現されていたのだと今になってわかった。本物と比べてはいけないけれど、それでもかっこよかった。

 そうみたいだね、と大したことでもないというような殿下に微笑み返すと、破壊力を伴い倍になって返ってきた。




 カフェテリアから出て、少し待っていて欲しいと言われた私は、噴水の傍のベンチに腰かけていた。

 風で噴水がミスト状になり少しだけ流れてくる。人々の賑やかな声も聞こえ、穏やかな時間が流れていた。あまりにもそのゆったりとした日常になんの違和感も持たず、このまま流されていくような気さえした。


 その時だった。


 ゴオッという大型獣の鳴き声のような音ともに、背後の噴水が吹き上がった。

 慌てて距離をとり、噴水を見上げる。高く高く立ち上り、天まで届きそうだ。周りにいた人々も、何事かとあんぐりと口を開け、見つめている。




「ミラルダ先生!! 」


 人混みに紛れ噴水の傍、そこに立つその人に私は思わず声をかけていた。


お読みいただきありがとうございます

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