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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
47/62

5


 翌朝、私は早い時間に起きて秘密基地もとい巨大樹に向かった。天気も良く、心地よい風も吹いていて過ごしやすい陽気だ。

 森の入口に着き、私はピタリと足を止め、思わず声を漏らす。


「こ、これは……」


 しばらく誰も来ていなかったのか、草が生い茂り道を塞いでいた。今日はあまり裾の広がっていないワンピースを着ているが、葉っぱがついて汚れてしまうのは困る。というか叱られてしまうだろう。

 手をかざし、風属性の魔法を使って無理やり切り開きながら進んでいった。



 巨大樹のそばまで来たわけであるけれど、いつもとは違い、穴の中には入らず立ち止まり思案した。

 この穴は祠として使われていたかもしれないのだ。大変罰当たりなことではないか? そんなことは今更かもしれないが。

 とりあえずからっぽの巨大樹を拝んでみる。


「今までのご無礼をお許しください」


 祠だった場所に入るわけには行かないので、私は地面にハンカチーフを敷いて腰掛けることにした。

 草の陰から、木漏れ日を受け輝く湖が見える。湖に怯えていた頃が嘘のように、不思議と何も感じなかった。離れているからかもと思ったけれど、そういう訳でもないらしい。湖の畔に立っても、心は凪いでいた。

 落ちないギリギリの所でしゃがみこみ、透き通った水を掬う。ひんやりとしていて、その冷たさが少し染みた。臭いもなにもしないけれど、飲めるほど綺麗なわけではないだろう。手からゆっくりとこぼれ落ちる水滴が水面に波紋を描く。

 ゆっくりと広がっていく様は、ずっと見ていられた。


「ミラルダ先生」


 昨日お父様にミラルダ先生について聞いた後、ミラルダ先生の行方についてもそれとなく聞いてみた。この国屈指の魔法師も動いているようだったが、依然として足取りは掴めていないらしい。


 覗き込んだ水面に映る私の顔が揺れている。こんな泣くのを我慢する子供のような顔なんて、ゲームでは一度も出てこなかった。泣くのをこらえている悔しげな顔でさえ、マーティナは気高く美しかったというのに。


「ダメだな、私」


 私は、ひとっつも成長してない。

 はっきりさせなければ、進めないこともあるだろうに。どこか、踏み込めないでいた。


 大きなため息を吐き出した。


 **


 いつの間にか日は高くに昇っていた。朝食もろくに食べず足早に屋敷を出てきてしまったので、軽食なんかも持ってきているはずもなく、グーグーと女の子らしからぬ音を鳴らしているお腹を押えこむ。つまりすごく、とってもお腹がすいている。

 もう戻ろうと来た道につながる場所に出て、ふとなにかに呼ばれたような気がして後ろを振り返る。もちろん後ろには森が続いているだけで、人などいない。

 不思議に思いながら、身体を真後ろに向けた。お腹がすいていたけれど、そのピークもそろそろすぎるだろう。今は何故か、森の奥に興味を惹かれていた。


 奥に続く道も入口同様草で覆われているので、風で道をひらく。何度も森に入ってはいるけれど、一度も奥に来たことはなかったな、とふと思う。

 道はずっとずっと奥まで続いているようで、こんなにこの森が広いとは思っていなかった。

 しばらく歩いていると、大きな壁にぶち当たった。木々や蔦に覆われているが、何かの建物のようである。これは普通に通りかかっても分からないだろう。人なんて通らないけれど。

 その建物の周りをよく観察してから、風で蔦を切ると、土で汚れた外壁が現れた。指で擦ってみると、白い地肌が見える。この国では取れない種類の石だ。遠くから運ばれてきたものだろう。


 壁伝いに歩いていると、ようやく扉と思しきものを見つけた。出来てから長い年月が立っているからか、その木で作られた扉は深い色合いで存在感がある。鍵はかかっていないようでギギーと錆び付いた音を立てながら、押開けた。

 教会のように長椅子が並べられている中は、両サイドが蔦で覆われ薄暗いが、目の前には大きなステンドグラスがあった。そこから光が差し込み、キラキラと輝いている。その神秘的な様子に魅入られ、ゆっくりと近づいてみた。

 ステンドグラスを真下から見上げ、観察する。巨大樹と手前には湖が描かれていた。湖の上に立っているのは、白い布を纏った美しい女性。

 今は信仰していない、神様かもしれない。


 しかし、いつからこの建物は建っていたのだろうか。今までそんな話は聞いたことがなかった。

 お父様たちにも見てもらいたいとこだが、生憎記録するための道具も、方法も開発されていない。


 すごく残念に思ったけれど、また後で来ればいいと家に帰ることにした。

 なんてったってお腹が空いていたのだ。教会いや、神殿のようなものを見つけて忘れてしまっていただけで、お腹が空いていることに変わりはない。

 走って帰ってもいいが、転移を使ってみた。これなら早く家に着き、かつ疲れることは無い。しかしいきなり帰ってきては皆に驚かれてしまうと思うので、とりあえず巨大樹のところに行くことにする。何度か練習しているので、多少は上手くなっているだろう。



 練習の成果なのか、無事巨大樹の所に到着した。が、家への道を塞ぐように誰かがたっているのが見える。一瞬セザールかと思ったが、彼よりも背丈は小さい。

 そして何よりも違うとわかるのは、腕が樹木のようなしゃがれた色をしてとても長いところ。枝のように長く伸びている。

 その腕に、私は確かに見覚えがあった。



 ――魔王の森にいた青年だ。


 魔王との戦いに向かう途中、若木を傷つけてしまったことで、彼は自我を失い私たちを攻撃してきた。そしてそんな仲間思いの彼を目覚めさせるために、私は攻撃してしまった。

 こちらに気づかれ、あの時のことを蒸し返されなどしたら申し訳ない。それに攻撃されたら、生きて帰れる自信などない。


 どうにかバレずにいられる方法はないかと考え、もう転移で帰ってしまおうと思いついた時、



「そこにいるのは誰だ」



 青年が振り返らずに、けれどこちらによく聞こえる声で言った。私の姿など見えていないはずなのに、しっかり認識されているようだった。



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