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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
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4

 今日は朝から図書館に籠っている。先生も調べてくれると言っていたので、私も何か手掛かりは掴んでおきたいところだ。


 魔王といえば私の秘密基地であった巨大樹に封印されていたわけであるが、それと人間たちの関係については崇めていたということしか分かっていない。

 以前見つけた本を探し出し、巨大樹が書かれているページを開く。

 改めて見ると、生き生きとしているが確かに見覚えのある巨大樹だし、そばの大きな水溜まりも湖に見えなくもない。絵が書かれているページには具体的な説明もなく、よく分からなかった。御神木かなにかだったのだろうか。とすると、祀っていたと言うほうが正しいのかもしれない。そのようには見えなかったけれど。



 この国はこれといって信仰しているものはない。以前は属性に感謝していた風習があったそうなのでそれは近いかもしれないが、現在はその習わしも一部を除きなくなってしまった。他の国を調べればあるのかもしれないけれど、表立って何かを信仰している人はいないだろう。


 しかし巨大樹には何かがいたようである

 絵に書かれた巨大樹の周りを囲む人々は、巨大樹を通して何かを見ているように見えた。


 **


 学園が長期休暇に入って、私は久しぶりに領地のお屋敷に帰ってきた。去年はいろいろあって帰ることはなかった。領地自体には秘密基地に行く名目で帰ってきていたが、お屋敷にはずっと足を踏み入れてはいない。だからお父様や、お屋敷に居る人に会うのも久しぶりだ。


「ただいま帰りました」


 中に入ると、エド兄様とお父様、屋敷中の人が出迎えてくれた。喜びを噛み締めた後、お父様の書斎へ呼ばれる。


「おかえり、マーティ」


 お父様と対面の椅子に腰掛け、紅茶を貰う。タウンハウスで飲むものとは別の、懐かしい香りがした。


「それで、ミラルダ殿のことであったか? 」


 学園から帰る前に、お父様にミラルダ先生について教えて貰えないかと手紙を送っていた。

 整えられた美髯をさすり、お父様が目を細める。疲れが滲んでいるようだったけれど、それさえも整ったお顔には哀愁漂う、良いスパイスとなっていた。


「ミラルダ殿と母様の紹介で出会い、一緒に冒険をしていた話はしたかな」

「はい」

「そうか。知っているのは師団に入る前のことだけだ。ミラルダ殿はこの国の出身ではないようで、たまに故郷のことを懐かしむように教えてくれた事があった」


 ミラルダ先生は、ソーサリーというこの国からずっと遠くの所で生まれ育ったらしい。山に囲まれた場所で周辺諸国からも隔離された場所だとか。独自の文化を築いていたのだという。


「そんな遠くの国から、どういった経緯でこの国へ? 」

「……戦だ」


 遠くの国や、この国が関わる程の戦いということだろうか。

 私は必死に歴史の教科書の内容を思い浮かべ、直近の大きな戦いを思い出す。が。


「お父様。その戦というのは、世界大戦で間違いありませんか」

「ああ。そう言っていたな」


 いや、待ってくれ。それだと計算が。


「に、二百年も前ですよ。ミラルダ先生が伝え聞いたと? あれ、でも生まれ育ちはソーサリーで……」


 私の反応が面白かったのか、お父様はくぐもった笑い声をあげた。騙されたということだろうか。


「少なくとも二百歳は越えているということになるなぁ」


 なぁ、では無いのですよ、お父様。

 常々ミラルダ先生は年齢不詳だと思っていたが、これ程までとは。


 ごほんとお父様が咳払いをしてから、笑って緩んだ表情を引きしめ話し始めた。


「大戦のことは知っているだろう」


 二百年前の大戦は、世界中を巻き込むものだった。

 魔法大戦とも呼ばれるもので、魔力の多いもの達が集まるこの国、エレーン王国を他の国が相手取り、連合を作った上攻め入った。

 エレーンは国土も他より大きく、優秀な人材も狙っていたのだろう、とはエレーン側の記述である。

 そのエレーンは大国というだけあって、何枚も上をいく国だった。攻撃を防ぎ跳ね返せるだけの軍事力があったにも関わらず、他国からさらに優秀な者を集めようとした。多額の報奨金をぶら下げて。


「それで、この国に来たわけですね」


 なるほどと頷けば、お父様は首を縦に振った。


「初めは来ることを拒んだミラルダ殿でだったが、故郷のもの達を人質に取られたそうだ。それは、この国か他国であったかそれは教えてくれなかったが。ミラルダ殿は、自身を守るためにも、エレーン側に付かざるを得なかったそうだ」

「ずっと昔から、ミラルダ先生は欲される力を持っていたのですね」


 魔力に優れ、沢山の国が人質を取ってでも欲しがった力。そんな力を持つ人に、私はずっと教えて貰っていたのだ。小さい頃お遊びのためにも魔法を教えて貰ったことは、今になってくだらないことをさせてしまったと後悔している。けれども、とても誇らしい気持ちだった。


「人質となってしまった方はどうなったのですか」

「解放されたようだが居場所はずっと分からなかったそうだ。けれどもミラルダ殿には安全であるという確信があった。何処にいても繋がっているのだと」

「固い絆で結ばれていたということでしょうか。いつかソーサリーという国に行ってみたいです」


 ミラルダ先生が生まれ育った国というものを見てみたい。そう続けると、お父様は静かに首を振った。


「もう、ソーサリーという国はないんだ。地図からも、地形からも消えてしまった」


 山間にあったというソーサリーは、三十年ほど前に大雨が何日も続き、狭い国土はそれによって起こった土砂崩れに埋められてしまったという。


「そういえば、マーティが言っていた巨大樹だけどね。それと関連するかもしれないが、ソーサリーの人々は自然と共存していたなかで、山の奥深くにある大きな木を祠としていたそうだよ」


 大きな木であれば、それ自体を祠とすることも可能かもしれない。

 あの森の中の巨大樹も、そういう風に使われていたということだろうか。そう考えると、ぽっかり開いた穴も説明がつくし、本に書かれた人々が崇めていたのは、巨大樹の中に置いた何かだということになる。



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