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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
45/62

3

 世の中は、自分の知らない事ばかりだ。だから、知りたいと思えるのだ。

 ミラルダ先生の呟いていた言葉だって、魔王が封印されていた巨大樹についてだって、よく分かっていない。



 学校の魔法書を読み漁り、何ら収穫を得ることが出来なかった私は、部活の時間が迫っていたため急いで部室へ向かった。部室が遠いので、早めの移動が必要となる。もう少し近くにあれば良かったのに、と思わなくもない。

 先程何も収穫は得なかったとはいったが、ひとつだけ分かったことがある。

 あの呟いていた言葉は、今使われているものではない、ということだ。


 そもそも、魔法の発動には呪文というのを必要としないし、この世界の言語はどこも似たようなもので差はないので聞き取ることが出来ない、ということは無い。


 考え事をしながら歩いていた私は、遠くから聞こえてきた声にピタリと足を止めた。端により、バレないように身を隠す。


「ほら、急いでリノ。遅れるよ」

「ん、わかった。わかってるから、手を……いや、このままでも。いや、もう子供じゃないから……もう」


 ルルちゃんがリノを引っ張る形で手を繋いでいる。リノは恥ずかしそうにしているが、満更でも無さそうだ。

 あの様子では、異性と見られているか謎だ。本当に弟としてしか見られていないのだろうか。


 二人が通り過ぎてから、私もひっそりと影から体を出し部室へ向かう。


「盗み聞きですか? この場合は盗み見でもありますね」

「……セザール。いつから居たのかしら」


 後ろを振り向くと、表情をどこかに置いてきてしまったセザールがいた。


「そんなお嬢様のようなことは……いえ、失礼しました。私は先程来たばかりですので、お嬢様がお二人の様子を凝視していたことなど、見ておりません」

「見たと言っているようなものよ、それ」

「いいえ、そんなことは」


 つん、と済ましている(ような)顔をしているセザールに何とか言ってやりたいが、ここは我慢する。何故なら部活の時間が迫っているのだ。無駄に時間も、体力も消費したくはなかった。

 よって、部室へ向かいながら、弁解することにする。


「何もいけないことをしたつもりはないわ。ただ、仲の良さそうな男女の声が聞こえてきたから、道を譲っただけよ」


 我ながら、あっぱれな言い訳だ。まあ、嘘は言っていない。うんうんと頷きセザールを見ると、少しだけ目を細めていた。


「そういうことにするおつもりなのですね。私は、お嬢様の意を酌むことに致します」

「え、本当よ! 本当です! だから、お父様やエド兄様には言わないでちょうだい。ね! 」


 セザールはそれっきり何も言わなくなった。

 私も定期的にお父様やエド兄様に手紙を書き近状を伝えているが、セザールは報告することを義務付けられたのか、二年生に上がってから頻繁に手紙を送っているようだった。つまり、恐ろしいことになんでもかんでも筒抜けである。


「報告することでもありませんし、言いませんよ」


 落ち込む私を見かねてか、セザールがそんなことを言ってくれた。が、そこで終わらないのがセザールである。


「これからは、トラヴァース家のご令嬢としてちゃんとなさってください。まして、貴方様は殿下の婚約者で在られる。その意味はご存知でしょう」


 と、お小言が始まった。

 このセザール。従者でありながら、私のお目付け役も担っているのである。


「分かっているわ」


 令嬢としてしっかりあろうとしていたけれど、どうやら私はボロが出やすいようだ。まあ、人様の前ではそんなことはないので許してもらいたいとは思う。

 そうこうしているうちに、やっと部室に着いた。



 これからは転移の魔法でも使ってみようかな。


 **


 部室には、先生が持ち込んだと思われる魔法書が沢山置かれている。壁一面が本に覆われていて、先生はやる気がなそうに見えて本当は勉強熱心なのだろうか。

 先に着いていたルルちゃんが熱心に本を読んでいるのを横目で見ながら、目的の本はあるかどうかと端から探していく。今の時代の言葉でなければ、それより昔のものかもしれない。

 しかし、本の数が多い。図書館ならちゃんと番号で整理されているが、如何せん個人の本棚である。バラバラであまりまとまりや、規則性がない。


「先生、ちょっといいですか? 」


 開いた本に顔を突っ込んで眠りこけている先生を、無理やり起こし尋ねる。


「んあ? なんだ? 」


 ヨダレが出ていて、本が汚れていないか心配になった。というか、この人は本当に攻略キャラであったのだろうか。忘れかけている記憶のなかから引っ張り出してみるが、良さというものが思い出せなかった。


「呪文を使っていた時代がありますか」

「断定的な言い方だな。ああ、確か、書かれていた本があったはずだ」


 ヨダレを袖で拭い、先生が立ち上がる。先生の頭の中には、どこになんの本があるか入っているようだった。その証拠に、立ち上がって直ぐに本を持ってきてくれた。


「これは……魔法の歴史書ですか? 」


 この国の歴史を読んだことがあったが、魔法の歴史書があったとは知らなかった。

 中は今の私たちが読める字で、現在の魔法の原理、つまりイメージが大切だということに辿り着くまでが書かれていた。黙り込み読んでいる私に、先生が新たに本を抱えて近づいてきた。


「これと、これ。あとは、この辺りにも書いてあるはずだ」


 いくつか見繕ってくれた本も読み進めていき、何冊目かに具体的な呪文が書かれているものがあった。日常的に使える魔法が多く書かれている。しかし、どれも私が読めるものばかりだった。


「それで、何が知りたいんだ」

「え? 」


 私が読んでいる様子を見て、何かを探しているのだと気づいたようだ。案外、だらしがないだけではないのかもしれない。


「魔王と戦ったあと、ミラルダ先生が何か呟いていたのです。光っていたとか、外的に変化はありませんでしたが、ロニーはその後亡くなってしまいました」

「俺も見ていたが……そうか、トラヴァースは傍に居たんだったな。俺には何も聞こえなかった」

「そうですか」


 部室にいる、魔王との戦いに向かった二人も話しているのが聞こえているようだったが、何も言わない様子を見るに呟いた言葉は聞こえていなかったのだろう。


「人間の言葉であるとは思うのです。聞き取れなかっただけかもしれませんが」

「それで、かつてあった呪文を知りたいと」

「はい」


 先生は何か考え込んでいるようだった。


「つまり疑っているのか、君は。魔王であった者を殺したのではないかと」

「そういうわけでは」

「そうは思いたくないがな。君もそうだろう」


 先生に問われ、頷く。何もちゃんとした証拠がないのに、人を疑うような真似はしたくなかった。

 けれど一番話を聞きたい相手であるミラルダ先生はいない。


 先生はカップに入った飲み物を飲み干し、本を取り出しめくっていった。

 あるページを開き、私の前に差し出してくる。


「ここに昔の文字が書いてある。読み方もだ。この中に聞こえたものがあるか分かるか? 」


 本を受け取りじっくり見つめてから、首を振った。近い文字はあったが、それであるかは分からない。


「この辺にあるものは近いかもしれませんが、はっきりとは……」

「……魔王が封印された時代だな。まあ、俺も調べてみるよ」


 魔王が封印された時代か。以前見つけた、巨大樹の絵も同時期のものだった。探るべきは、その辺か。

 いや、それよりも。


「調べて下さるのですか」

「ミラルダ殿のことも気になるが、単純に興味がある」


 分かったことも、共有してくださるようだ。なんと気前がいい。正直に言おう。先生を見くびっていた。

 感謝の言葉を言うと、ただ個人的な好奇心だと言われた。先生も、教師だということを除けば一、魔法の研究者であるらしい。本能に忠実だ。



 これが、探求者というものか。と、一人感心した。


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