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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編 2
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1

 魔王討伐隊の帰還から、数週間後。短縮バージョンで卒業式が執り行われ、エド兄様やルイ兄様を始めとした3年生が卒業していった。

 エド兄様は領地に戻りお父様の手伝いをすることになるので、タウンハウスには私と数人の使用人しかいなくなってしまい、寂しい。



 そして、私は2年生になった。

 ロニーを取り戻すことは出来なかったが、もうこの世界には魔王が居なくなった。それはゲームの終わりを意味する。これからはゲームと切り離した、新たな生活が始まるのだろう。


「いや、まだ終わってないよ」

「へ? 」

「誰とも結ばれていないのに、終わるわけないでしょ」


 そう言うのはリノである。部室へ向かう途中、たまたま二人きりになり、久々にゲームの話をした。セザールは何やら領地に呼ばれて、今日はいない。

 記憶持ちであるリノはかなりこのゲームにハマっていたらしく、転生した現在でも色濃く覚えているようだった。


「はやくリノが落とせばいいのでは? 」

「なっ!? そ、そんなこと、出来るわけないでしよ? 」


 顔を真っ赤にして、狼狽えている。真に可愛らしい。そうだな、こんなに可愛いのだから、落とされる側か。


「ごめんなさい、無粋な真似を」

「……とにかく、アフターストーリーがあったはずだよ」


 アフターストーリーとは。私はプレイしてないし、初耳だ。


「新キャラとかはいるのですか? 」

「本当に何も知らないんだね」


 意趣返しのつもりか呆れたようにリノが言って、説明し始めた。


 アフターストーリーはヒロインが誰とも結ばれなかった時のみ、プレイすることが出来る。今回はその条件にピッタリ当てはまった。誰とも結ばれていないことの他に、魔王がいないことも重要になるらしい。


「そして! このストーリーでは、クレイグが攻略可能になる」

「クレイグが? 」


 元々殿下に繋がるサブキャラであったはずだが。そう言うと、思った以上の人気により追加されたらしい。

 それも分からなくはない。大柄で無口な怖そうな人に見えて、表情豊かで面白いことが好きなノリのいい人である。ゲームでの描写は忘れてしまったが、人気が高いのも頷ける。


「では、うかうかしていられませんね、リノ」


 横からかっさらわれないようにね、と続けると、また真っ赤な顔をして、とうとう走り去ってしまった。


「もとより、僕に見向きもしてくれてないんだよ! 」


 ――泣かせてしまったようである。


 **


 リノが私を置いて行ってしまったので、一人で長い廊下を進む。中庭に面したところで、足を止めた。青々とした芝生の隅の茂みの前で、大きな背中が見えたからだ。


「クレイグ様? 」


 話をすればなんとやら。件のクレイグである。

 こちらの声に気づいたらしいクレイグが振り返る。何か困っているようで、眉を垂れさせながら近寄ってきた。


「どうされたのですか? 」

「実は……」


 内緒話のように、茂みの中から助けを呼ばれたのだと言った。クレイグは自然好かれているので、武道場にいるところを葉っぱに連れてこられたらしい。ここまでとても離れている場所だ。


「それで、どうして困っているのです? 」

「どうやら、この中のようなのです」


 そう言うと、茂みを指さした。人ひとり入れるような隙間はあるが、大きな体のクレイグでは入っていくことが出来ないだろう。


「小柄な方を待っていたのですが、生憎俺の話など信じられないでしょうから」


 困っていたところ、私が現れたということか。クレイグの事情を知っている、小柄な人物と。


「分かりました、ちょっと待っていてください」

「あ、いえ! 貴方のような方にそのようなことをさせるわけには」


 まあ、普通に考えて、公爵令嬢で王子殿下の婚約者がこのようなことをしないだろう。が、


「友達を助けるだけです。それに、私がこのようなこと得意だとご存知でしょう? ……ああ、怒られても困るので、貴方が影になっていてくださいな」


 割りと前から知り合いなのだ。こんなことをする人物だと知っているはずだ。クレイグは私の言葉に頷こうにも出来ないのか微妙な顔をしていた。

 それに元はと言えば、クレイグが助けて欲しそうな顔をしていたのだ。何か聞かれたら誤魔化すやら何やらして欲しい。苦手かもしれないけれど。


 そう考えながら、私は茂みの中に入っていった。

 少し進み、目的のものと思われるものを発見する。そっと手を伸ばし、声をかける。


「体の大きなクレイグ様の代わりに参りました。じっとしていてくださいね」


 それは、人工物のような紐が体に絡まって、身動きが出来ないようだった。優しく触れて解き終わると、とてとてと走りよってきた。


 それを片手に乗せ、後ろ向きで茂みから出る。


「大丈夫でしたか? マーティナ様」

「ええ。あ、手を出してください」


 私の言葉に首を傾げながらも、クレイグは両手を前に出し広げた。剣を扱っているからか、ごつごつとした大きな手だ。

 私はその手に、ふわりとそれを乗せる。


「!? 」


 それを見て、目を見開き固まっていた。

 それ、とは双葉の苗のような元である。大きさは10センチほど。けれどただの苗では無い。根っこと思われる下の部分が二又に別れ、足のようになっている。手のような根っこも横から生えていた。


「クレイグ様に助けを呼んでいたのは、その子のようです」


 魔物ようではなさそうな、不思議なものだ。クレイグの手のひらに体を擦りつけ、嬉しそうにしている。顔とかはないが、何故かそう見えた。


 クレイグが野に返そうとしたそれは、手にしがみつき、なかなか離れようとはしなかった。それどころか手のようなものを伸ばし、指に巻きついている。まだ小さく細いものだったが、その様子は以前対峙した森を守る青年に似ていた。


 結局、心根の優しいクレイグは諦め、少しの間そばに置くことにした。名前はないようだったので、クレイグがふたばと名付けた。そのままだな。後ではなちゃんに会わせてみたいものだ。




 体についた葉っぱやらゴミを魔法で払い遅れて部室に行くと、部室の角っこにはいじいじしたリノが座っていた。真っ黒なもの体の周りに漂わせている。魔王のものに似ているが、それとも違う。――ああ、リノの魔力だ。

 さっきの話を気にしているのだろう。ルルちゃんも先生もいないので、感情を垂れ流していたようだった。



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