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目の前では、酷い惨状が広がっていた。
騎士や師団、生徒たちの体には木の枝のようなものが絡みつき、締め上げている。切っても、燃やしても絶えなく枝は伸びてきて、キリがない。
こんなことになってしまったのは、ハゲワシのような敵と戦ったすぐ後であった。
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発端は数時間ほど前。
魔物との戦いに、我々は苦戦していた。大きな翼を広げ空中に飛び上がり、攻撃を避ける。空中からの攻撃もなかなか威力のあるものだ。
何とか勝利を勝ち取り、今のうちに休憩を取っておこうとした所で、事件は起きた。
テントを張ろうとした場所に、とても邪魔な木があったのだ。その木を騎士の人が切ろうとした。そこまで太い木ではなかったので、腰元の剣でも切れそうなもので、剣を振り下ろす。スパッと一刀両断された。
すると、切り落とされた方の木からにょきにょきと枝が伸びてきた。次第にその枝が切り落とした騎士に伸び、絡みつく。耳や口、鼻といった身体の穴という穴に入っていき、騎士が苦しそうにもがいている。周りの人も枝を剥がそうとするが剥がれず、結局騎士は動かなくなった。
「人間、見損なったぞ」
どこからともなく、声がした。木の影に何かいるような気がして、直ぐにそこから何者かが現れた。青年のように見えるが両手は木の枝のようになっていた。
切り落とされた木を撫で、その青年は悲しそうに目を伏せた。
「ここは人が入っては行けない場所だ。部外者が、勝手なことをしおって」
「悪かった。そうとは知らず」
騎士団の人が代表して謝罪を口にした。けれどその言葉も青年の耳には戯言のように聞こえるらしい。鼻で笑い、侮蔑の目を動かなくなった騎士へ向ける。
「悪かったで済むと思ってるのか? 我が子を殺したも同然」
そう口にし、冒頭へ戻るわけである。
青年は怒り狂い、木の枝を鞭のように振り回している。正気を失ったのか、枝は他の真っ直ぐに伸びた木さえも倒していた。このままでは、辺り一帯の木がなぎ倒されてしまうかもしれない。
「マーティナ。本体を狙いなさい。情けは無用です」
ミラルダ先生が、捕まってしまった人を助けながら助言をくれる。
情けは無用だと言ったけれど、元は私たち人間が木を切ってしまったことが問題だ。この青年は、ずっと森を守ってきたのかもしれない。そんな人を殺してしまえば、何かが起こることも考えられる。
殺さず、戦意を喪失させる方法を考える。
数秒考えて、風の刃を向かわせた。足止め程度になればいい。
腹を切り裂いたが、血などは出てこなかった。やはり樹木であったのだろか。緑の液体が流れている。その液体を見た青年は、はっとした顔をして辺りを見渡す。
木々が倒れ、視界も開けていた。
呆然と立ち尽くし、絡みついていた枝からも、力が抜けている。
「なんてことだ……」
膝を落とし、頭を抱えている。もうこちらを見ようともしない。興味を無くしたのだろう。
その隙に、私たちは急いでその場を離れることにした。
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木々が鬱蒼と生い茂り、辺りが暗くなっていく。空気も薄くなっているのか、少し息苦しく感じた。遠くから鳥と、何か獣の声がしている。
やがて石造りの洞窟の前に到着した。ずっと奥まで続いているようで、真っ黒に染まった中を確認することは出来ない。
手元に火を灯した騎士が先頭を歩き、その後を着いていく。それぞれが魔法で足元を照らしながら、奥まで進んでいった。
足を踏み入れてすぐに羽音がひびき、中からコウモリの群れが飛び出してきた。その数何十匹。驚き身を竦ませる。リノも同様に驚いたのか動きが止まっていた。
「怖いのですか? リノ」
「驚いただけだよ! 」
意地を張ってそう主張しているリノが、とっても可愛く見えた。いけない、いけない。助言をしてあげよう。
誰のルートにも入っていなそうなルルちゃんを見て、私は密かにリノを応援していた。きっと今からでも遅くないはずだ。
私はリノだけに聞こえるように話しかける。
「可愛いですね」
「!! ……そんなこと言わないでよっ」
失礼だと怒っているが、私の中で助言のつもりだったのだ。可愛く見えてますよ、という。よく分からなかったらしいリノは、頬を膨らませていた。そんな顔も可愛く見えるというのに。それではいつまでも弟のままだぞ、と言ってやらなくもない。
「俺は俺なりのやり方があるからいいの」
「可愛く見せることですか? 」
皮肉でもなんでもなく素直に疑問に思ったことについて尋ねれば、そっぽを向いてしまった。
「そう言うマーティナは、俺のことに構っている暇あるの? 」
リノが目を向ける先を見なくても、誰のことについて言っているのかなんて分かっている。勘のいいリノだから分かったのか、はたまた他人にも今までとの違いが分かってしまうほどなのかは分からない。けれど早めに解決しておきたい案件に違いはなかっった。
殿下はいつの間にか、私に構ってくることが無くなった。それが寂しいけれど、私も殿下にどう接したらいいか分からないので、近づくことなど出来ない。
頬を軽く叩き、気合を入れる。今は魔物との戦いに集中しなくては。きっとそろそろ魔王の居る場所につく頃だ。考えるのはまた後でもいい。
殿下とのことを、私は先延ばしにすることにした。
洞窟を進んでいくと、木製の大きな扉が構えているところに着いた。両脇にはいかつい斧を持った人型の像がある、いかにもな場所である。
警戒しつつ師団の人が扉に手を伸ばすと、両脇から斧が落とされた。間一髪で避けたが、ローブの裾をかすり少し切れている。
「また来るぞ! 」
誰かが叫び、像の方へ注意を向ける。大きく重そうな体を動かし、台座から降りようとしていた。肩に被った砂埃が、滝のように落ちてくる。
私たちの方に向け、足や斧を振り下ろしてくる。大きいからか動きが遅く、逃げられない程ではなかった。けれど攻撃は蚊に刺された程度の威力でしかない。
逃げる中、地面の割れ目に躓き顔から転んでしまった。とても痛い。
「マーティナ! 」
背後から風を切る音と、殿下の声が聞こえた。振り向くと、土色の天井が近づいてきている。いや、像の足であろう。横に逃げ、躱す。ドシンと粉塵を上げ像の足が下ろされた。
ホッと胸を撫で下ろし、私がいたと思われる場所を確認する。すぐ側に下ろされていたようである。
「マーティ、大丈夫か? 」
「ええ、大丈夫です」
鉄の匂いはするが、恐らく大丈夫であると思いたい。
一旦端に逃げて像を観察する。的は大きいのに、急所と思われる場所が見当たらなかった。その間にも他の人が攻撃を受けていたが、危機一髪で避けることが出来ているようだった。
「マーティ、あの像の材料はなんだと思う」
「土か何かでしょうか……あっ」
「試しにやってみよう」
土には水である。二人で片方の手を狙い水を浴びせる。すぐに溶け、泥になって落ちていった。
「皆さん! 水です! 」
エド兄様が叫び、それにならい水属性で攻撃し始めた。水流が像の大きな体を突き抜ける。動きが止まり、像は腰を下ろしてしまった。
「やったか? 」
騎士の一人が確認するために近づく。するとゆっくりと像の口が動く。
【ありがとう。これでやっと自由だ】
何者かに操られていたらしい二体の像は、長い眠りにつきもう何も話すことはなかった。
「何と言っていましたか? 」
「ありがとうと。自由になれる言っていました」
ミラルダ先生に尋ねられ聞こえたとおりに伝えると、苦々しい顔をしていた。




