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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編
38/62

11

 ロニーの雰囲気は、まるで違っていた。かけていたメガネも、真面目そうな様子も消えている。


「ふむ。この器はいい。我の力と同化しているようだ」


 満足そうに、魔王が笑っている。手元に黒いもやを纏わせ、手慰みにしていた。

 魔王がそのモヤを側にいた龍に向ける。うねうねと蛇のように動いていた。龍の体に絡みつき、真っ黒に飲まれて姿が見えなくなる。何の音も聞こえず、魔王が手を払って初めて大きな音を立てて龍が倒れた。

 見た目に変わりはないが、生気を感じなくなった。


 息を飲み、様子を黙ったまま見つめる。


「我は魔族の王。妙な動きはするなよ、人間」


 そう言って魔王が睨んだ先の上級生は顔を青くし、身をすくませた。龍を殺したことは、単なる見せしめだったのだ。


 恐怖を植え付けていった魔王は、そのまま消えてしまった。


 **


 翌日には魔法師団の方が学園にやってきた。曰く、


「特訓を受けたもの、並びに魔力の高いものには協力して欲しい」


 と。魔王の討伐を計画しているらしい。乗っ取られたロニーのことについては、一切触れられなかった。師団は死んでしまったと見ているのかもしれない。


「そんなことしたら、皆、殺される! やらないぞ! 」


 魔王に睨まれていた上級生が、声を張り上げて言った。同調している人もいる。けれど、師団の人は気にした様子はなかった。


「やりたくなければ、やらなくても結構だ。我々は強制するつもりはない。だが君たちのために言っておく。ここに留まっているからといって殺されない訳では無い」


 辺りが静まり返る。

 これまでも、魔物の脅威に晒されてきたのだ。その上魔王が復活してしまった。被害が拡大することも想定できる。

 嘘だと、否定することなど出来ない話だった。


「戦力は、そのまま食い止める時間に繋がる。我々は、多くの人を助けたい。選択の時間を与えよう」


 戦うことを選んだ者がその場に残った。余りいないだろうと思っていたが、それでも半数に満たない人が残っていた。その全てが特訓を受けていた者たちだ。


「残ってくれた者には感謝する。魔王の潜伏場所がわかり次第、出発だ」


 後日、生徒の名前が書かれた隊列表が送られてきた。ひとつのかたまりは生徒数人に、加えて先生の名前も書かれている。

 後方から探していき、中間の辺りで自分の名前を発見した。エド兄様や、殿下といったゲームの面々と同じ組み分けだった。プラスされている先生も、マッケラン先生でこれもゲームと同じ。

 プレイしている時は気にしなかったが、魔力の高い者が集中している。分けた方がいいのではと思うが、師団の人が組み合わせたものなので何も言えない。

まあ、戦闘力がせっかく高いのだから、どんどんやっつけて行こう。



 表が送られてから何日か経っていたが、師団の方からは一切連絡が来なかった。潜伏場所を探すのが、難航しているようだ。

 反対に、魔王は猛威を振るっていた。師団が懸念していた通りになった。国中に魔物を蔓延らせ、恐怖で支配しようとしている。為す術もない国民が、対応の遅れている政府に不満を持ち始めた。暴動を起こすのも時間の問題かもしれない。


 結局討伐に向かったのは、魔王がロニーを乗っ取ってから一ヶ月後の事だった。


 **


 暗い森の中を、隊列を組んで進む。先頭に騎士や師団。その後ろに生徒たちがついて行く。魔王がいるとされたのは、西の森のずっと奥だった。

 緊張からか皆口数は無く、土を踏みしめる足音と、風に擦れる葉の音だけが響いていた。


 長い長い一本道が、ただ続いている。魔物どころか、小さな動物さえもいる気配がない。先に進むしかなかった。

 しばらく歩いていると、開けた場所に到着した。草の根一つ生えていない。

 ここは……


「魔物が出たぞ! 」


 いち早く発見した師団の人が、注意を促すように声を出す。

 前方を見ると、そこにはスライムの大群がいた。ゲームでマーティナを倒した、憎きスライムだ。つまりここは序盤の戦闘シーンの場所か。


 スライムを片っ端から燃やしていく。よくもゲームでは殺してくれたなと、私怨を混じらせながら魔法を放った。数分で片付き、呆気にとられてしまう。

 こんなに簡単に倒すことが出来るとは。ゲームのマーティナは、よっぽど弱かったのだろうか。


「飛ばしすぎだ」


 エド兄様にお叱りを受けてしまったが、仕方がない。何としてでもこのスライムは、私の手で倒さねばならない相手だったのだから。


 スライムが消えると、明らかに辺りの空気感が変わった。ジメッとしていた感じも無くなっている。


「オッグ殿。手番です」


 ミラルダ先生に名前を呼ばれ、ルルちゃんが地面に触れた。目を閉じて直ぐに、触れている周りが光出す。暖かな光が根を張るように広がり、辺りが輝き出した。やがて何も生えていない場所から、小さな芽が出てきた。

 これがルルちゃんの力。治癒の使い手と呼ばれる所以でもある。


 それからは、魔物を倒してルルちゃんが癒していくという繰り返しだった。ルルちゃんの魔力は有限なので、土地の状態を見てその都度魔法を使うかどうかを決める。救いようがない時に、魔法を使うことになった。


「私が、魔力を与えることが出来たらいいのですがね」


 私の無属性は、他人の魔力を貰うことが出来るのに、与えることが出来ない。不便なものだ。


「やってみたらどうですか? もしかしたら、良い結果が出るかもしれない」


 どこで聞いていたのか、ミラルダ先生が近づいてきて言った。メモ帳まで用意していて、記録を取る気満々だ。


「ルルさん」


 特訓をするようになって、さん呼びに進歩したルルちゃんを呼ぶ。ルルちゃんは前を歩いていて、呼ぶと近づいてきてくれた。


「なんですか? 」

「魔力を補給してみるので、じっとしていてくれますか? 」


 不思議そうにしながらも、ルルちゃんは何も言わず黙っていた。

 後ろに移動して、ルルちゃんの背中に両手をかざす。水を注ぎ込むようなイメージを思い浮かべる。体から、魔力が零れていく感じがした。

 額に汗がにじみ、こめかみを伝った。そこで注ぐのをやめ、ルルちゃんの方を見る。


「どう、ですか? 」


 ルルちゃんは困惑顔で、目をパチパチと動かしていた。体が拒絶していないかと不安に思う。


「不思議な感じです」


 そう言ってから、ルルちゃんが淡く笑った。


「マーティナ様を感じます」


 恥ずかしいことを言ってくれる。それは私の魔力を注いだのだから、私の魔力を感じるのは当たり前であるが。

 けれど、これで魔力を与えることが出来ると証明された。


 私が魔物から魔力を頂戴し、それをルルちゃんへ横流しをする。そんなふうにしながら、魔王討伐への道を進んでいった。


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