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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編
36/62

9

 特訓をしてもらうようになってからしばらく経ち、生徒にもだんだん疲労が見られるようになった。


 そこで、学校と学生会は学園祭とやらの開催を計画し始めたらしい。余計に疲れてしまうのではないかと思ったが、恒例行事でもあるので、一種の休憩として行いたいらしい。

 エド兄様は特訓の他に、学生会で準備をしていたりと、毎日忙しそうにしている。だからといって特訓を休もうとはしない。エド兄様はすごいと褒め讃えたいが、さすがに学園祭の前に倒れてしまわないか心配である。


 クラスで何かやることはないらしく、それは少し残念に思った。けれど出店などが出て、小さなお祭りのようになるらしい、とはエド兄様からの情報だ。


 **


 そして迎えた学園祭。

 空はどんよりと曇り、気分も下降する。今にも雨が降り出しそうな天気だ。


「そんな顔をするものではないよ」


 私とは反対に、ニコニコと笑顔を浮かべるのは殿下である。学園祭が始まる前から楽しみにしていたようで、お祭りごとが好きなのかもしれない。


「こんな天気であれば、そういう気分にもなります」


 せっかくの学園祭であるのに、雨でも降り出したら外のお店に行けないではないか。


「マーティナが好きな、りんご飴があるそうだよ」

「本当ですか? 」


 りんご飴。それを聞いただけで気分が浮上した。甘いものを食べれるなら、雨が降りそうでもなんでもいい。


「一緒に行かないか? 買ってあげるよ」


 名案だろう、と笑って殿下が言った。甘いもので釣ろうとするとは。不審者の手口である。


「アルノルフ様となら、どこへでもご一緒しますよ」


 殿下はどこかへ誘う時、毎回条件を出してくる。誘う方法を知らないわけではなかろう。前回のお忍びでお祭りに行ったことは別としても、無下にすることは無いというのに。


「ありがとう。ではご一緒してくださいますか? 姫」


 畏まって、騎士のように殿下が手を差し出した。私もそっと手を重ね、少しだけスカートの裾をつまむ。


「よろこんで」




 二人で出店を回る。今回は正真正銘二人きりだ。甘いものの店が多いような気がした。

 楽しく感じ気が緩みかけ、引き締める。私は先日の魔物襲来で学んだのだ。油断は禁物であると。

 時間は分からないが、学園祭中にも魔物が襲ってくるのだ。それを知っていて、知らないふりなど出来ない。


 ひと通り回って、庭園のベンチで休憩をする。王都で有名な楽団が来てくれるらしいが、演奏まではまだ時間があった。

 校舎からは少し離れているため出店もなく、ここは人気がない。しばらく沈黙が流れ、風が運んでくる人々の声が、微かに聞こえた。


「アルノルフ様。先日は助けて頂きありがとうございました」


 殿下が助けてくれなければ、私は魔王と戦う前に死んでしまっていたかもしれない。

 改めて感謝を口にすると、殿下は小さく笑った。さして気にしていた風でもなく、当たり前のことだと。


「愛しい者を守ることは、当然のことだよ」


 そう言って、蕩けるような笑みを浮かべる。もしここに他の生徒がいたなら、流れ弾に当たり立ち上がれなくなっていただろう。それほどまでに破壊力のある笑顔だった。

 本当に私を愛しいと思ってくれているように感じ、ドキドキと心臓がなる。


「以前僕があげたペンダントはどうしてる? 」

「付けていますよ」


 胸元から引っ張り出し、手のひらに乗せる。光を浴びて、キラキラと輝いていた。


「実を言うと、このペンダントは」


 ペンダントへ伸ばした殿下の手が、私の手に触れた。その瞬間ビリビリと変な感覚がして、急いで手を引っ込めてしまった。避けたと思われたかと、殿下を伺い見る。

 殿下はしばらく自分の手を見つめていたが、やがて手を下ろしてしまった。


「幸運を願う気持ちが込められているからね。君が不快を感じることから遠ざけてくれるんだ」


 傷ついたように笑うので、なんと言えばいいか分からない。不快に思った訳ではないということだけは、確かだった。



 公務があるという殿下と別れ、一人でクラスへ続く廊下を歩く。人の話し声や音が、次第に大きくなっていった。


 窓の傍に立ち、外を見る。今は楽団の演奏中だが、人の数は減っていなかった。自分もそうであるのに、聞きに行かない人もいるのだと意外に思った。

 人々の集まる場所に近づくにつれ、私の認識が間違っていたことに気づく。

 聞こえてきた声は、悲鳴だったのだ。騒々しい音は、魔物が物をなぎ倒し壊すもの。


 私が離れている間に、魔物の大軍が襲ってきてしまったようだった。


 **


 師団の方に特訓を受けていた生徒や、先生が中心となって魔物と戦っている。私も急いでその場へ向かった。


 特訓を受けて、皆が強くなっているのは明らかだった。けれど、それ以上に魔物も力が強くなっていた。十人で一体という割合で、戦っている。

 私も少しは強くなっていたのか、何度か攻撃を加え倒すことが出来た。もう以前のようには怯まない。ちゃんと向き合わなくてはならないのだ。


 魔法部の顧問であるマッケラン先生も、戦っている一人だった。先生が最後の一体を蔓のようなもので縛り上げ、宙吊りにする。


「何の目的で来た。話せ」


 似合わないドスの効いた声で、睨みつけている。それはよく分かっていないことであったし、師団の方でも調べていると言っていた。


【劣等種が。また我らの高尚な目的の邪魔をするか】


 宙吊りにされた爬虫類系の魔物は、苦しそうにしながらも挑発的な目を向けて呻くように言った。人間の言葉ではないよう聞こえたが、どうしてか言っていることが分かった。

 先生が首を捻って訝しんでいるので、人語で無いことは間違っていないようである。


 魔物が鼻で笑い、舌を出す。先が割れた蛇のようなものだった。


「どういうことですか」


 思わず口を出してしまうと、爬虫類特有の細い目がこちらを向いた。ギョロりと動いている。


【我らの言葉が分かる者がいたのか。いいだろう】


 目を細め、高慢な態度で魔物が話し出す。自分の状況を分かっていないのだろうか。




「なんて言っているんだ」


 話されたことを聞き終え、硬直したまま動かない私を揺すりながら、先生が問いかけてきた。どこか焦っているようである。

 ジェスチャーだけで辞めてもらうように言ってから、呼吸を整える。頭の中で考えてからではないと、この事を言うのは難しい。


「人間から、取り返すのだと。失われた国を再び魔王のものとするのだと」

「魔王? 」


【下等種族が口にするのもおこがましい。かのお方は崇高な方であられるのだ】


 そう言いながら、恍惚とした表情を浮かべている。大変気色悪い。うっかり火力を最大にして燃やしてしまった。


「おい! 何やっているんだ! 」


 先生が怒っているが、気にしない。魔物の言ったさっきの言葉だけで十分だった。



 魔王は、もう復活してしまっているのかもしれない。


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