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決勝の相手は、アルノルフ殿下だった。
殿下は魔力量も多いし、身を守るためだといってかなり鍛えているらしいので、とっても強い。それに加えルルちゃん同様、無属性が使えることを知られている。
正直、戦いづらい相手だ。
フィールドの真ん中に立って、互いに挨拶をする。それが試合の礼儀だ。
顔を上げて殿下の方を見ると、殿下はニッコリ笑っていた。余裕綽々だということか。
「本気で来てくれよ」
「……そのつもりです」
試合が始まった。
素早い動きで、魔法を放つ殿下について行くのは大変だったが、ミラルダ先生と遠方で練習した時よりはマシだった。ただ体力だけが減っていく。
少し離れて、深呼吸をする。落ち着いて、試合に臨まなければ、と意気込む。
土属性を使い、蟻地獄のように地面を柔らかくする。案の定殿下がバランスを崩した。そのまま押し出そうと、風属性で強風を起こす。
殿下はというと、水属性の応用である氷の柱を出現させていた。水属性で水を最初に出してから凍らすというのが、この世界の常識である。それを短時間で足場が不安定な中完成させた。
分かってはいたが、簡単には勝たせてくれないようである。
「マーティナ! 君はまだまだ余裕そうだね」
「そんなことありませんよ」
本当に。余裕なんて、口からでまかせでも言えない。
それにひきかえ、殿下は変わらず余裕そうだ。鉄壁の笑みは、なかなか崩れない。
そろそろ決めないと、時間が迫ってきていた。何としてでも勝たなければ。自分の力もある程度確認できたし、あとはいいものを貰えれば万々歳だ。
ここまでの試合で頂いてきた魔力を、手元に集中させる。できるだけ沢山。けれど傷つけてしまうのは躊躇われるので、傷つけてしまわぬように、細心の注意を払う。
放ってくる魔法を避けつつ、さあ魔力を放出しようという時だった。
私というイレギュラーがいるのだからと、たかを括っていた。
轟音がが鳴り響き、競技場の一部が崩れ落ちる。室内であったはずなのに、外の青空が見えた。
魔物が来たのだ。ゲームでもちょうどこの時期であったことを、忘れてしまっていた。
崩れ落ちた外壁は、観客席の一角に降り注いでいた。幸い、防御膜のおかげで怪我人はいないようだった。
状況を確認しようと崩れた所を観察する。割れ目に目を向けた時、その先にギョロりとした目が見えた。鳥のようなそれが、覗いている。
――目が、合ってしまった。
その場にくっつけられたように、足が動かない。体が固まってしまったようだった。
「逃げろ!! 」
誰が叫んでいた。
先生が立ち向かい、上級生が生徒たちの避難を誘導している。逃げないといけない。それは分かるのに、体が動かなかった。戦うことも、逃げることも出来なかった。
大きなカラスのような魔物が、壁の割れ目から侵入してきた。大きな羽を広げ、バサッとひとふりするだけで周りのものが吹き飛んでいく。
大きなつめは尖がり、嘴は大きくなんでもひと飲みしてしまいそうだ。嘴がこちらを向き、大きく口を開く。赤い色をして、真っ暗だ。
また誰かが叫んでいるようだった。今度は私の名前のように聞こえる。
力強く腕を引かれ、誰かに抱きしめられた。漸く固まってしまった体が動けるようになり、その誰かを見上げる。
「……アルノルフ様」
私を抱きしめ、心配そうな顔で覗き込んでいるのは殿下だった。殿下は私を胸元へ引き寄せたので、何も見えなくなった。
そばで魔力の高まりを感じ、数秒後には何かが焼ける匂いがした。
殿下はそのまま私を抱き上げ歩き出した。生徒が避難していった場所に向かっているのだろうか。
「私、もう大丈夫ですから! 自分で歩けますから」
「喋っていると、舌を噛んでしまうよ」
降ろしてくれないつもりらしい。クスクスと楽しそうに笑っている。
恥ずかしくなって、殿下の肩口に顔をうずめる。絶対真っ赤になっているだろうから、誰にも見られたくなかった。指摘でもされたら、余計恥ずかしくなる。
大人しくなった私に気づき、また殿下が笑った。
**
数日後、全校集会とやらが開かれた。
壇上にはミラルダ先生を初めとした、魔法師団の人と思われる方々も並んでいる。
「君たちはなんのために学んでいるのか」
ご立派な髭を蓄えた学園長が、壇上の真ん中に立ち話し始める。
「あるものは義務としてか、またあるものは将来のためか。理由は様々であろう。先の襲撃で、魔物を初めて見たという者も少なくないはずだ」
そこで一呼吸置いて、全体を見渡す。私たちが静かに、真っ直ぐ見返しているのを見て、学園長は満足そうに頷いた。そして、場所をミラルダ先生に渡す。
「魔法師団に所属している、ミラルダと申します。まずは、アルノルフ殿下。あなたが魔物を倒したと聞いております。素晴らしいですね」
「私一人の力ではありませんよ」
ミラルダ先生の言葉に、殿下が苦笑を交えて返答した。先生たちも戦ってはいたが、トドメをさしたのは殿下だったという。
それにひきかえ、私は何もしなかった。いや、出来なかった。魔物に会ったのなんて、初めてだというわけではない。それなのに。
あんな状態になってしまって、魔王や魔王の手下と戦えるのだろうか? と、自己嫌悪に陥る。
「今回のことを見て、我々は次もあると考えております。それに備え、生徒の方々にも希望するものには、特訓を施して欲しいと頼まれました」
次もあるとミラルダ先生は言った。
そう。これは始まりに過ぎないのだ。魔王と戦うことになる、予兆だ。
「希望する者はおりますか? 」
ミラルダ先生が問いかける。辺りが静まり返り、沈黙が続いた。誰も、手をあげようとはしなかった。
意気込んで、真っ直ぐ手を上げた。ここで変わらなければいけないと思った。
自分では一大決心のつもりだったのに、壇上に立つミラルダ先生はさも当然のように頷いている。私が手を上げることなど、想定の範囲内だったということか。
「マーティナがやるというなら」
そう言いながら殿下が手を上げると、後から後から手が上がった。この国の王子がやるのだから、ということも含まれているのかもしれない。
結局、生徒の半数以上が特訓に参加することになった。その中にはもちろん、ゲームの面々も含まれていた。
決意を新たに、私は魔王討伐に向けて精進していくのだった。
初投稿から約一ヶ月です。
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