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確かめたいことがあって、領地に戻り秘密基地へ向かった。
雷に打たれて葉っぱで生い茂ることの無くなった大木は、借りてきた本に書かれているものと酷似していた。
場所を変え、湖が見える位置に移動する。湖の大きさは違えど、この場所からの景色もとてもよく似ていた。
本当に、同じものなのだろうか。
大木に近寄り、ぽっかり開いた穴のふちに手を伸ばす。記憶の中のものより、穴が広がっているような気がする。朽ち始めているのかもしれない。
穴の中に入り、そこから覗く青空を見上げた。
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その日、クラスのみんなはどことなくソワソワしていた。何かあっただろうかと思い出してみるが、何も出てこなかった。
スサナ様に聞くと、楽しそうに笑った。
「今度、魔法の模擬戦がありますでしょう? 今日はトーナメント表が張り出されるのですよ」
模擬戦は、学年別に性別関係なく対人戦を行う。力差も関係なくランダムに相手を組み合わせられるので、誰に当たるかというのも大事なのだ。
なるほど。それでソワソワしていたのか。
「今年は勝者にはいいものをくれるそうだから、張り切ってらっしゃるのでしょう」
いいものが貰えると聞いて、張り切っているのは私も同じであった。だって、いいものが貰えるのだから。
いいものが欲しいというのも本心だが、本来模擬戦の目的というのは、自分の力を確認するというものだ。言わば力試しというもの。
自分の力がどれほど成長しているか分からなかった私は、力試しができるというのも楽しみにしていた。
そして迎えた模擬戦。同じ組み分けには、ルルちゃんもいる。
「マーティナ、ちょっといい? 」
試合が始まるのを待っていると、リノに呼び出された。頷くこととで了承し、二人で壁際へ移動する。
「ルル姉とあたるでしょ? 」
「順調に勝っていけばですが」
「その時は、変に手加減なんてしないでよね」
拍子抜けである。
てっきりルルちゃん大好きなこの人は、私に手加減でもなんでもしろと言ってくるかと思っていた。見くびっていたようだ。
「分かっていますよ。ちゃんと真面目に戦うつもりです」
「下手な小細工はルル姉に効かないからね」
でも、と思う。
実はリノも同じ組み分けにいて、私よりも先にルルちゃんと戦うことになるのだ。だからさっきの言葉は、まるでリノが負けると決まっているかのようだ。
リノは決して弱いわけではない。ルルちゃんととても力の差があるわけではないのに。
「リノこそ、狡をするのではないですか。ルル様を勝たせてあげるために」
「そんなことしないよ! 」
心外だとでも言うように、リノはむくれてルルちゃんの方へ向かってしまった。怒らせるつもりなんてこれっぽっちもなかったのに。
「見ていればわかるよ」
しばらくして私の初戦が始まった。相手は同じクラスの女の子だ。
私が火属性を得意としていることを知っているため、水属性の攻撃を使ってきた。が、私は得意としているだけで、他が使えないわけではない。
風属性を使うかたわら、こっそり無属性を発動させ少々魔力を頂戴する。
無属性を使えるのは内緒にしているので、決してバレてはいけない。だったら使わなければいい話だが、私は勝っていいものを貰うつもりなのだ。魔力を温存していかなければならない。
何度か裏をかく攻撃をくらわせ、無事に勝つことが出来た。
それから何人かと戦い、次の相手を待っている時だった。
隣のフィールドで歓声が上がる。勝者が決まったようだ。誰になったのかと見てみれば、そこにはルルちゃんとリノがいた。
ルルちゃんとリノは向かい合い、握手を交わしている。
「お二人とも、お疲れ様です。どちらが私のお相手ですか? 」
「私です。マーティナ様」
ルルちゃんか。
奇しくもリノの言っていた通りになった。
ルルちゃんが準備のために離れているすきに、リノに話しかける。
「話していた通りになりましたね」
「見ていて分かったでしょ? 」
「あ、いえ。私もちょうど対戦中だったので見ていないのです」
そう言うと、ため息をつかれた。呆れを含んでいる。
「ルル姉は強いんだ。それ以上に強制力が働く」
「強制力? 」
「うん。ゲームの流れに持っていこうとする力」
言い訳に聞こえるかもしれないけど、と前置きしてからリノが説明する。
曰く、いくら優勢に持っていこうとも、いつの間にか劣勢に立たされているのだという。ルルちゃんをゲーム通りに勝ち進めさせるために。
ルルちゃん自身の強さも影響しているらしいけど。
「けど、マーティナには効かないようだね」
その言葉に、素直に頷く。
だって、ゲームのマーティナは勝ち進むことはおろか、そもそもこの大会には出場していないのだから。きっと、家の力でも使ったのだろう。だから自分の力を過信していた。
「だからね、マーティナ。頑張ってよね」
リノが真面目な顔で、珍しく素直に言うものだから、吹き出すのを堪えるのが大変だった。
「ありがとう」
**
対峙したルルちゃんは、やっぱり強かった。
治癒の使い手ということが有名であるが、元が真面目で優秀なのだ。それに加え部活でも魔法の技術を高めている。弱いはずはなかった。
「!! 」
ルルちゃんが放った魔法が、動きが遅れたために避けきれず頬を掠めた。そこだけ熱く感じる。血でも出ているのかもしれない。
ルルちゃんは顔を狙ってきたか。なかなか容赦がないようだ。
「なかなかやりますね」
「お褒めに預かり、光栄です」
ルルちゃんが肩で大きく呼吸をしている。今の攻撃で、かなり魔力を込めていたのかもしれない。
うん。最初が肝心だものね。
再び放ってきた魔法を、今度はしっかり避ける。土埃がまい、竜巻が出現しこちらへ向かってきた。
この属性は、おそらく風属性と土属性の混合物だと考えられる。本来なら相性の悪い組み合わせだ。
やっぱり、ルルちゃんは強い。魔法の扱いに慣れている。
厄介な組み合わせだな。
まずは土埃を大人しくさせようと水属性のものを発動させる。上に手を伸ばし、雨のように大量の水滴を振らせた。
さあ、土埃はおさまった。残りは風の渦だけ。魔法を避けつつどうしようかと考えていたら、いいことを思いついた。
――弾いたように見せかけ、無属性を使ってみよう。
ふふんと笑った私に気づいたのか、ルルちゃんが不思議そうに見ていた。
この競技大会は、場外に行くか制限時間まで終わらない。早めに決着をつけたいものだ。
その気持ちはルルちゃんも同じようで、渦の速さを加速してこちらに向かわせてきた。ならばと私もスピードの速い渦を発生させ、ぶつけさせる。弾いて、無属性を使う。
かなりの魔力が入ってきた。やっぱり決めどこにしたのかもしれない。
弾くものが無くなった私の出した渦は、真っ直ぐにルルちゃんの方へ向かっていく。そのまま場外へ押し出した。
「マーティナ様。無属性を使いましたね」
試合後、ルルちゃんが恨みがましそうにこちらを見て言った。無属性を使えると知っているので、気づかれてしまったようだ。
何も言わずへへっと笑うと、ムッとルルちゃんが頬を膨らませた。可愛い。可愛い子がやるとさらに可愛い。
つつきたい衝動に駆られたのを、必死に我慢した。




