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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編
33/62

6

 建国に関わった人間について調べるために、建国以前について調べることにした。数冊良さそうなものを借りて外に出ると、図書室の前にはクレイグがいた。


「ごきげんよう、クレイグ様」

「マーティナ様! 探しておりました。本は俺が持ちましょう。ついてきてください」


 あっという間に両腕の中の本はクレイグの片腕に収まり、有無も言わせず歩きだしてしまったので、ついて行くほかなかった。



 着いた場所は、学校の庭園。ルルちゃんと殿下が仲良くなるイベントの場所だった。あの日ルルちゃんが座っていたベンチには、殿下が座っていた。背を向けているので、こちらには気がついていない。

 知らないうちに、ルルちゃんと殿下はとても仲が良くなっていたのだろうか。婚約を解消してもらいたいと、お願いでもされるのだろうか。

 こうなることは想定の範囲内ではあったが、いざ言われるかもしれないと思うと少しだけ緊張して、気を引き締めた。


 意気込んで一歩踏み出すと、足元の小石が擦れジャリっと想像以上の大きな音が出た。

 その音に気づいた殿下がこちらを振り返えった。どんな顔をしているかと考えていたが、満面の笑みを浮かべていた。いつもの嘘っぽい笑顔とは違う、自然なものだった。


「クレイグ様、私を探していたのは」


 殿下なのかと尋ねようとクレイグがいるであろう場所を見たが、もうそこには誰もいなかった。二人きりにするつもりなのか。


「僕がマーティナを探してもらったんだ。こっちにおいでよ」


 座っている隣を二度叩き、殿下が私を呼んだ。素直に隣に腰掛けると、殿下が改めてこちらを向いた。


「来てくれてありがとう」


 何を言われるのだろう。身構え殿下を真っ直ぐに見つめると、殿下は少し照れたように笑った。


「前に、いつかアクセサリーを贈ると言ったことを覚えているかい?」

「……えと、はい。たぶん? 」

「まぁ、忘れていてもしょうがないよ」


 君は宝飾品が好きなタイプではないよね、と微苦笑されてしまった。否定はできない。


「本当は入学してすぐに渡すつもりだったんだけどね。ほら、後ろ向いて」


 言われた通りに後ろを向いてすぐに、殿下の手が前に伸ばされた。

 手のひらから、小ぶりな緑の粒がこぼれ落ちる。小ぶりだけど貧相には見えない、とても上品そうなものだった。光が当たり、黄緑色が鮮やかに輝く。


「きれい……」

「ペリドットだよ」


 手で持ち上げ、よく見てみる。何か魔法が込められているようだった。そしてその魔力には覚えがある。


「アルノルフ様の魔力を感じます」

「ああ、やっぱりマーティナには分かったか」


 幸運が訪れるようにという願いが込められているらしい。そういう魔法が刻まれているようで、贈り主が魔力を込めるのだという。

 ペリドットの緑は殿下の瞳の色だし、魔力からも殿下を感じる。


「まるで、アルノルフ様が近くに居るようですね」


 なんだか殿下に包まれているようだ、なんて思ってしまって恥ずかしくなってしまった。顔が熱く感じるが、後ろの殿下には見えまい。

 気持ちを落ち着かせ、殿下の方を改めて見る。


「ありがとうございます、アルノルフ様。本当は一体なんの魔法なんです? 」

「幸運が訪れるようにというものだよ」


 そんな魔法は無いことを知っている。けれど、どうやら教えてくれるつもりはないらしい。ニコニコと上機嫌そうに笑っている。


「大切にしますね」

「毎日身につけるといいよ。その方が効果を発揮するからね」


 毎日なんてつけていたら、壊れてしまうかもと心配していたが、殿下がそう言うなら、その通りにしようか。

 私自身が丁寧に扱って、大事にすればいいのだろうから。




 そのまま教室に戻ると、クラス中のご令嬢に囲まれてしまった。スサナ様も遠くからにこやかに微笑んでいて、囲まれている私を助けてくれるような様子はない。


「マーティナ様、そのペンダントはどうされたのですか? 」


 名前も定かではない、話したことも無い令嬢が不躾な目でジロジロと見てくる。品定めするようなその目をとても不快に感じた。

 ペンダントを胸元に隠し入れ、周りにいる人たちを見て、軽く頭を下げる。


「頂き物です。失礼」


 それ以外は話すこともないので、スサナ様の方へ逃げることにした。 


「何なのかしら」

「本当ですね。お相手なんておひとりだけでしょうに」


 イライラした気持ちで開口一番に言えば、理由が分かるらしいスサナ様は微笑みを浮かべていた。

 教えて貰おうと頼めば、決まり悪そうにしている。


「彼の人はいらっしゃらないようなので内緒でお教えしますが、ペンダントというのは、大切な方へ贈るものなのです。しかもそのお色は瞳のもの。ご自分のお色を贈るのは、愛しい方だけ」


 分かりましたか? と言われて頷くことしか出来なかった。大切な人というのは、婚約者だからだと理解ができる。けれど愛しい方とは。本当に私で合っているのだろうか。

 あ、スサナ様は気づいていないようだけど、これは魔法が刻まれたもの。普通とは違うのだから、意味も違うかもしれない。


「たとえそれが普通のものでなくとも、ご自分のお色を贈るということは、それだけで意味があるものなのですよ」


 とどめのように付け足される。

 服越しにペンダントを握り、目を伏せた。殿下の魔力を感じて、また頬が熱を持ち始めたのに気づく。調子が狂うな。



 自分の席に行くと、クレイグが持ってきてくれたらしい本が積まれていた。

 一番上の本を手に取り、パラパラとめくってみる。


 そこには、人間たちが崇めていたという巨大樹の絵が書かれていた。傍には大きな水溜まりのような池が。

 まるで私の秘密基地に似た景色だった。



 **


 詳しく調べるために、王立図書館に来た。

 古い地図と今のものを照らし合わせ、その巨大樹の場所を探す。けれど地図が古すぎて、正確な位置がなかなか分からなかった。


 悩む私の前に、物知りなメガネの図書委員が通りかかった。沢山の本を抱えている。前など見えないのではないか。


「お手伝いしましょうか? 」


 首を振っている。その振動で本が落ち拾おうとするが、両手が塞がっているので拾うことなど出来ない。拾い集めてあげると、何度も頭を下げられ、とても感謝された。


「どこに持っていくんですか」

「……机にお願いします」


 図書委員は諦めたように言って、先を歩き始めた。


「こんなに沢山読んでいるから、物知りなんですね」

「そんなことはありません。それを言うなら、あなたも沢山読んでいますよね」

「いいえ。私は偏っていますから」


 主に読むのは、魔法書ぐらいだ。建国以前なんて、今までなら知ろうともしなかった。魔力のない人間が戦っていた事なんて知らなければ、読むことはなかっただろう。


「それでも、凄いことですよ」


 真面目な顔で褒められてしまい、少し照れる。面と向かって褒められるなんてめったにない事だ。


 それから少し話をして、図書委員の名前を初めて聞いた。名前はロニー・ガーネット。ひとつ上の二年生。一週間に沢山の本を読むそうだ。

 頭の中にはどれだけの知識があるのかと、向かいの席を見る。ロニー先輩は分厚い本を読み始めようとしていた。


「先輩。本が逆さですよ」


 この少しおっちょこちょいで物知りな先輩が、いずれ魔王となり戦う相手だなんて、到底思えない。


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