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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
学園編
30/62

3

 普通に学生生活を謳歌していた私だが、すっかり頭から抜け落ちていたことがある。それは、ゲーム通りに進めなければ、魔王との戦いにもっていくことは出来ないのではないか、ということだった。

 慌ててゲーム初めの流れを思い出す。イレギュラーな私の存在によって、いくつか狂いが生じていた。


 まず一つ目に、私はルルちゃんと普通のクラスメイトになってしまったこと。ゲームではいじめる側といじめられる側であったのに、今では普通に会話をする仲になっていた。

 二つ目。ルルちゃんが殿下とクラス委員というものに選出されたこと。そこまではいい。そのことに私が腹を立てて八つ当たりをしなかった。これは大きな痛手である。

 本来なら、いじめられたルルちゃんは、エド兄様に慰められる。という出会いがあったのだ。エド兄様経由でルイ兄様にも会うのだが……。


 私の行いによって、エド兄様とルイ兄様に会うことはなくなってしまった。これはまずい。多大なる戦力不足になりかねない。


 今からでも遅くない、と私はルルちゃんとエド兄様たちを会わせる方法を考え出した。




 結果としては、成功した。

 なに。方法は簡単だった。私が紹介すればいいのだから。ルルちゃんはとてもいい子だし、エド兄様たちとも仲良くなってもらえればいいなと思う。


 なお、この方法がゲームとも大幅に違っていることに気づくのは、家に着いてからであった。


 **


 今日はルルちゃんが殿下と、仲良くなるイベントの日である。

 私は前回の失敗を活かし、何も手を加えないことにした。けれどやっぱりイベントスチルというか、そういうのは見たくなるもので。

 イベントの舞台である庭園の隅に隠れ、観察することにした。


 やがてルルちゃんがやって来た。

 ベンチに座ってお昼を食べていると、ハンカチが飛んで行ってしまい、それを殿下が拾うのだ。視線が重なりフワワっとどこからともなく花びらが舞ってくる。

 それを楽しみにしていたのに、タイミングの良い風は吹いてこないし、殿下もいる気配がない。ルルちゃんはもう少しでご飯を食べ終えてしまいそうだ。


「私がおこしてやろうかな」

「誰か起こすのですか? 」

「いえ、誰をではなく。こう、風をおこすのですよ」


 いや、それは手を加えることになってしまうな。第一、役者が揃っていないではないか。

 殿下どころか、一緒にいるはずの背が高いクレイグさえ見えない。


「殿下はどこにいるのか」

「来ましたよ」


 キョロキョロと辺りを見渡して、初めて後ろの声の主を見つける。


「く、クレイグ様!? なぜ、ここに」

「俺の方こそ、あなたに聞きたい。そんなに葉っぱをつけて何をしているのですか」


 確かに葉っぱだらけではあるが、それはいいのだ。適当なことを言って誤魔化さなくてはなるまい。が、訝しげなクレイグを見て変なことを言ったら直ぐに殿下に伝わるのではないかと思い、必死に考えた。


「ひ、日向ぼっこですよ」

「それに、風をおこすこととアルノルフはどう関係があるのですか? 」

「それは……」


 あたふたと慌てる私に、新たに声がかかる。


「僕も気になるな」


 にこやかな笑みを浮かべる殿下であった。

 イベント中であったのではないかと、咄嗟にルルちゃんを探す。いない。終わってしまったのか……。


「オッグ嬢ならもう教室に帰ったよ。それで、何をしていたのかな」


 私は諦め正直に話す……なんてことはなく。軽く嘘をついた。だって私のことはどうでもいいのだ。大事なのはイベント、ゲームのこと。


「日向ぼっこをしていたのです。アルノルフ様もしたらきっと気持ちよくて寝てしまうのではないかと考えていました。」

「そう。まあ、そういうことにしといてあげるよ」


 殿下は機嫌がよくなった。ルルちゃんの魅力に気づいたからか、日向ぼっこをする想像をしたからかは分からないが、怒られることはないようで、少しほっとした。


「マーティナ様。風を起こそうとしていたのは何故ですか」


 ほっとしていたのに! クレイグが爆弾をかましてきた。


「少し、暑かったので」

「なら、ここにいるより教室にいた方がいいのでは? 」


 今日のクレイグは流暢だな。それに痛いところをついてくる。

 私はまたこの場を回避する方法を考えるしかなかった。


「そろそろ私は教室に戻ります。ごきげんよう、アルノルフ様。クレイグ様も」


 私はそそくさと立ち去った。ルルちゃんもいないし、もうこの場にいる必要はない。

 殿下の呼び止める声が聞こえたが、聞こえない振りをした。そんなことよりも、ルルちゃんの殿下への印象が気になった。もしも殿下ルートへ入ることを考えているなら、私もすることがある。

 教室への道すがら、ルルちゃんを探すことにした。




 教室に着いてからも、ルルちゃんを発見することは出来なかった。ほかの生徒に聞いても、まだ戻って来ていないということだった。

 今日はもうイベントごとはなかったはずだし、きっとトイレにでも行っているのだろうと思い待つこと数分。ルルちゃんは自分より少し背の低い男子生徒とやって来た。


「もうそろそろ帰りなさい」

「まだ始まらないよ」


 この人と一緒にいると、ルルちゃんは少しお姉さんになるようだ。甘えている感じもあるから、自然とそうなるのかもしれない。


「ルル様、そちらの方は? 」

「マーティナ様。うるさくしてごめんなさい」

「いいのよ。お友達ですか? 」

「あ、はい。幼なじみなんです」


 紹介されずいっと前に出されたのは、攻略キャラでもあるリノ・グリントだった。

 リノは一つ年下だけどとても優秀で、大好きなヒロインちゃんを追って一年早く学園に入学する。この時点で抱いているのは恋心ではなく、ヒロインちゃん自身も弟のように思っているので、なかなか発展しない。好感度は序盤から一番高いが、攻略は難しくなっている。


 ルルちゃんから紹介された内容は、概ね知っている通りだった。家が近所で、小さい頃からよく遊んでいたそうだ。


 紹介されている最中も、リノはずっと仏頂面だった。ルルちゃんとの時間を邪魔されたとでも思っているのかもしれない。


「マーティナ・トラヴァースと申します。よろしくお願いします」

「……俺はよろしくなんてする気はないけどね」


 さっきまでの可愛い弟キャラとは違い、とてもツンケンしている。公式では、可愛い弟キャラ(あざとい)とは書いてあったが、こうも違うとは。

 唖然とする私を置いて、リノはなおも言いつのる。


「あんた、ルル姉をいじめてるんでしょう。俺には分かるよ」

「は? 」


 うっかり気の抜けた声が出てしまった。身に覚えの無さすぎる話だ。しようと思っても出来ないことだ、そんなこと。する気はないけれど。


「何言ってるの、リノ! ごめんなさい、マーティナ様」

「言ってたよね、嫌がらせされてるって。絶対こいつの仕業だよ。そういうこと、しそうな顔だ」

「ルル様、嫌がらせなんてされてるのですか? 」


 尋ねれば、ルルちゃんはもごもごと、口ごもってしまった。けしからんな。ルルちゃんに嫌がらせをするのなど。

 あと、しそうな顔とか、酷いな。私は優しいお母様とお父様に似た顔のはずだ。失礼だな。


「お話だけでも、聞かせてくれないかしら? 」


 再度尋ねると、渋々といった感じで話してくれた。


 なんでも、珍しい力を持つことを妬んだ貴族が、身分を笠に何度か口うるさく言ってきたらしい。ものがなくなっていたこともあったとか。


 ゲームの私が、理由は違えどやっていたこととなんら変わりはなかった。何もしなくても、ゲームは順調に進んでいたようである。

 いや。ほっとすることではないな。ルルちゃんが嫌な思いをしているなら。


「なんてひどい人……」

「だから! それがあんたなんでしょ? 」


 リノはとうとう詰め寄ってきた。なんなんだ、この人は。さっきから人の話も聞かないで決めつけて。ルルちゃんが怒る声に耳も貸していない。


「そんなに僕の婚約者に近づかないでくれるかな」


 救世主である。さっきは会いたくないと思ったが、この時ばかりは来てくれたことを喜んだ。

 ついさっきぶりの殿下が、クレイグと共に教室へ戻ってきた。殿下は私の肩を掴み距離を取らせると、あろう事か肩に手を回してきた。剥がそうとしても、剥がれない。

 あまり接触しないものではなかったか?


「で、何があったのかな? 」


 殿下が凄みを利かせた声で、リノに問う。


「申し訳ありません! 私がよく言って聞かせます」


 ルルちゃんが慌ててリノの頭を無理やり下げ、謝罪する。本当にお姉さんなのだな。けど、今その行為は無意味だ。殿下はただ聞いているだけなのだから。


「謝罪を要求したのではない。もう一度聞こう、リノ・グリント。私のマーティナに、変な言いがかりをつけたのは何故だ」


 私たちは、しばらくリノが話し出すのを待っていた。時間にして数秒程であろうが、とても長く感じた。

 早く話せ、と心の中で言っていたのが伝わったのか、リノは頭を上げ、私を真っ直ぐ見つめてきた。

 深い青色の瞳で見つめられ、吸い込まれそうな変な気持ちになった。


「マーティナ・トラヴァースは、そういう人物だという認識だからです」


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