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学生の本分は勉強だというが、部活動などで様々な人と交流することも大切である。
放課後になって、私はスサナ様と部活動について話し合っていた。
「マーティナ様は何か入りたいところがあるのですね」
この学園は部活に入ることを強制はしていない。というのも、貴族令嬢の中にはお茶会を開き、情報収集をしなくてはならない者もいるし、平民の中にも、家の仕事を手伝っている人もいるからだ。
だが、私は暇であった。それはスサナ様と同じであったようで。
「私も気になる所があるのですよ」
「どんな部活ですか? 」
スサナ様はお菓子を作る部が気になっているようだった。本来貴族は自ら作ることはほとんど無いが、スサナ様は領地にいた頃ご兄弟たちに作ってあげていたそうだ。その腕を上げることが目的だと。
そこまで本格的ではないような気もするが。そう言うと、本物のコックさんが指導してくれるのだと言っていた。すごいな。
「そうなのですね。私は魔法部というものに興味があって」
「マーティナ様は深く学ばれておりますものね」
今日は用事があるというスサナ様と別れ、私は魔法部へ見学に行くことにした。セザールにもついてきてもらった。
着いた場所は、校舎の隅っこにある教室だった。とても人がいるようには見えない。ノックをすると、中から返事があった。
「失礼します」
中にいたのは、担任でもあるマッケラン先生だった。
「どんな入部希望者が来るかと思えば、トラヴァースの者か」
ニヤリと笑っている。
相変わらずの無精髭に、現在は白衣を着ている。
「どういう意味でしょうか」
警戒心を顕にするセザールが、私より一歩前に出て言った。確かに怪しい風貌ではある。先生には見えないかもしれない。
「やめなさい、セザール。失礼よ」
「……失礼しました」
「申し訳ありません、先生」
先生はとくに気にした風ではなかった。むしろそういったやり取りをどこか煩わしそうにしていた。
「気にするな。特に意味はないし、慣れている」
慣れているとは。だから煩わしそうだったのか。
「セザール……名字はゴドウィンだったか」
「はい」
「まあ、いいや。お前も入ったらいいよ」
とりあえず見学に来ただけなのだが、そう言い出せなくなってしまった。もう既に入部するような話の流れになっている。先生はセザールを知っているようだった。とういうか、従者であるセザールも入れるものなのか。
先生はこの部活について説明し始めた。なんでも、出来て数年になるらしいのだが、普通に授業でも学べるためなかなか部員が増えないのだそう。
「今は何人ほどいらっしゃるんですか? 」
「俺を含めて三人程か」
他に二人いるということか。なんだか先生以外に人が利用している様子はないが、きっといるのだろう。
活動内容について聞いてみると、魔法について研究したり、文献にある古い魔法を復活させてみるといったものだった。部活ですることの範疇を超えている気がする。
けれど、魔王についても何か分かる気がした。
「私はこの部活に入ろうと思います。セザールはどうしますか」
「お嬢様が入るならば」
私たちは二人して入部することにした。
トラヴァースの者が入ってくれて助かったと喜ばれた。どう意味かは分からないが、そこまで変な意味ではないのだろう。この喜びようを見るに、やっぱり他に部員がいないのではないかと疑問に思う。
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今日はお天気がいいので、食堂のテラス席で食べることにした。
スサナ様がお休みなので食堂へセザールと向かう途中、エド兄様とルイ兄様に会った。二年前以来会ったことは無かったので、とても久しぶりである。
「お久しぶりです、ルイ兄様」
「あ! マーティナちゃんか。久しぶりだね。大きくなって綺麗になったから分からなかったよ」
「お上手ですね」
ルイ兄様は口がうまい。二人して笑いあっていると、ルイ兄様がセザールの方を見た。初めて会うわけではないはずだ。
「君は、マーティナちゃんの従者くんだよね。前も思ったけど、どこかであったことはないかい」
「……ないかと」
結局、二人も一緒にお昼を食べることになった。
「エド兄様は何を食べる予定ですか? 」
「肉料理かな」
エド兄様は肉料理か……。美味しそうだな。
食堂には腕のいい料理人が在中していて、誰でも美味しい料理を食べることが出来る。料理も多岐に渡っていて、宮廷料理から大衆食堂で食べるようなものまで様々だ。通っている人に合わせているのだろう。
栄養満点の日替わりランチもあるので、飽きることはない。
「……思い出した! 以前俺の店に来ただろう。五年前くらいの感謝祭の日だよ」
ご飯を食べ終えたあとも、考え事をしていたルイ兄様が声を出した。私の背後に控えているセザールを見ている。
感謝祭の日か。殿下に魔法を教えて貰った日だ。
「魔法を使える飴を特別にあげただろう」
そういえばそんなこともあった気がする。属性の色をした飴を舐めると、一時的にだが魔法を使えるようになるのだ。
「……ああ、菓子屋の子供でしたか」
言われてみれば、あの時の店の子供と、ルイ兄様の髪の色は茶色で同じだし、顔もどことなく似ている。
「職業柄、顔を覚えるのが得意なんだよ。従者くんは面影があったから。あの時の友人たちは元気か? 新商品が出来たからまた来てくれよ」
「……伝えておきましょう」
一応あの時はお忍びとして行っていたので、セザールは私もいた事を黙っていることにするらしい。けれどルイ兄様は私の方をちらっと見たので、もう気づいているのかもしれない。内緒にしておいて欲しいと、念を送ってみる。
「新しい味が出たんだ。これは普通のだけど、マーティナちゃん食べる? 」
「え? ええ。いただきます」
あーん、と口元にもも色の飴を持ってこられ、自然と口が開いて入れられてしまった。甘くて美味しい。果物の味が沢山する。
舌で転がしながら味わっていると、ルイ兄様はエド兄様に怒られていた。セザールもどことなく眉を寄せている。どうしたのだろう。
「おい、ルイ。他に僕もいるからいいが、こういうことはもうやめてくれよ。一応婚約者のいる身なんだから」
「ああ、悪い。そうだったな。妹のようだから」
「僕の妹であって、お前のではない」
餌付けをされる雛のような気分ではあったが、何かと言ってくる人がいるのだろう。現に婚約者となった今でも、たまに言ってくるひとがいる。
婚約者がいるというのも、貴族というのも面倒臭いものだ。




