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目を開けると、豪奢な天蓋が見えた。見覚えがない光景に内心首を傾げ、顔しか動かないので首を動かして状況を確認した。
左側は壁に接していて、右側に殿下とエド兄様がいた。窓から見える景色も先程とそれほど変わりがないので、ここは王宮の中のようである。
「お嬢様! 」
ドアの傍にいたセザールが、目を覚ました私に気づき声を上げた。珍しいことである。
その声で目を閉じていた殿下たちも、驚いたように立ち上がった。
「マーティナ。大丈夫かい? 」
「はい。体はまだ動かないけれど、平気です」
心配そうな殿下に微笑んで返せば、よかったと心底安心したように手を握られた。ずっと握ってくれていたようである。
「……リュシール様は、どうなりましたか? 私はどうしてこんな状態に? 」
「リュシールの行動は軽率すぎた。然るべき処罰を受けるだろう」
仕方ないのだろう。殿下の言葉がきっかけにはなってしまったが、こちらとしても危険な目にあっているのだ。殿下に危険が及ぶ可能性だってあった。
軽い処罰では済まないだろう、ということだった。
「マーティナの状態についてだけど」
「それは僕から話すよ」
エド兄様が、私の手から殿下の手をはがしながら言った。
なんでも、魔法を使い過ぎてしまったらしい。
「どういうことですか? 」
「詳しくはミラルダ殿から聞いてもらいたいが、どうやら母様と同じ属性の魔法を発動してしまったらしい。無意識だったためか、負担が大きく気を失ったのだろうと。その魔法のおかげで、怪我人はいない」
お母様と同じということは、無属性。向かってきた火球を、吸い込んだということだろうか。
そういえば、お母様は無属性の魔法を発動してしまった後、ほかの属性が使えなくなったと言っていたが、私はどうなのだろうか。
やっと体が動けるようになったので、確認のために上半身を起こす。
「アルノルフ様、この部屋で少し魔法を使ってもいいでしょうか」
「僕からもお願いしたい」
エド兄様も私と同じ疑問に思い至ったのか、一緒にお願いしてくれた。
「それは構わないが……。体の方は本当に大丈夫なのかい? 」
「ええ」
殿下にも許可を貰ったので、手元に魔力を集中させた。少しだけ、ほんの少しだけ魔力量が増えている気がする。
しばらく魔力を循環させてから、特に異変はないことを確認する。試しに指の先から火を出してみた。
出た。何も、問題もなく出た。
「使えましたよ、エド兄様」
「ああ、使えたな」
無属性ではなかったのだろうか。それかまぐれで使えたということか。
ミラルダ先生に後日聞くことにし、今日は帰ることになった。外に出ると、数時間ほど眠りこけていたらしく、日が傾きかけていた。
お披露目のためのパーティーであったのに、散々な結果となってしまった。
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後日ミラルダ先生が来てくれて、先日の話をした。
「なるほど。状況を聞くかぎり無属性のものではないかと思ったのですがね……」
「まぐれだったんでしょうか」
たまたま運良く、似たようなものを発動させてしまっただけではないのかと言うと、ミラルダ先生は首を横に振った。普通は弾き返すことが出来ても、魔法を取り込むことは出来ないのだという。
「気を失う前に、どんなことを考えていたか覚えていますか? 」
「そうですね……食べてしまうように、一瞬で消えればいいのにと」
そのやり方で、もう一度やってみることにした。
ミラルダ先生が出した簡単な魔法を、消そうと試みる。食べるように、と想像してやってみると、案外簡単に消すことが出来た。簡単な魔法をだったということもあってか、体に何か負担を感じることはなかった。
「体に何か異常を感じますか? 」
「いいえ。少し魔力が増えたような感じがあるぐらいです」
「では、さっき私が出したものと、同じようなものを出してみてください」
ミラルダ先生が先程出したものを思い浮かべ、手元に出してみる。すんなり出すことが出来た。
私のような例はまれ、というよりも今まで居なかったらしい。研究をする必要があるレベルだという。
「あなたの中で無属性は、他のものと変わりはないのだろう。だから普通に魔法を使うことが出来る」
それから、ともう一つの可能性として、ミラルダ先生は私の魔力の器について指摘した。一度目は急だったため気を失ってしまったが、二度目はそれがなかった。そのことから器が大きく、他人の魔力であっても取り込むことが出来るのではないかと。
まだまだよく分からないところがあるため、引き続き普通に魔法を学びながら様子を見ることになった。
ミラルダ先生が帰られてから、ベッドに寝転び自分の手のひらを見つめた。にぎにぎと動かしてみる。
この力はもしかしたら、魔王との戦いにおいて役に立つのではなかろうか。魔法も上達しているし、魔力を吸い取ることの出来る力も使えるようになった。
ちゃくちゃくと戦力になっているのではないだろうか。
「お嬢様、紅茶でもいかがですか」
私の様子を見ていたセザールが、ティーセットの乗った台を押して来た。どこか心配そうにしている。
「ありがとう。いただくわ」
安心させるよう微笑み、紅茶を受け取る。ほんのりとハーブの香りがした。ハーブティーか。
落ち着く香りを楽しんで、これからのことに思いを馳せた。
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大きな鞄に、これから必要になるであろうものを詰め込む。服とか身につけるものはメイドたちと相談して決め、もう運んで貰っていた。あと残るは本であろうか。愛読書である魔法書や色々。選別が大変である。
「お嬢様、旦那様より本は五冊までと」
「そんな! 少なすぎるわ」
「学園には大きな図書館があるそうですよ」
そんなことを言われたら、我慢するしかないではないか。
現在私は来年から学園に入学するための、荷造りの真っ最中であった。しばらくしたらタウンハウスに引っ越す予定だ。
私はミラルダ先生から貰った魔法書を中心に、娯楽も含め選び始めた。何冊もあるなかから五冊だけだなんて、お父様も酷いことを言うものだ。吟味しながら決め終わった頃には、夕方になってしまっていた。
「セザールは荷造りを終えているの? 」
「いいえ。終えてはおりませんが、持ち物はそれほどございませんので」
そう、と相槌を入れて、最後の本をしまう。
セザールも従者としてではあるが共に学園へ通うことになり、タウンハウスへ付いてきて貰うことになっていた。
数日後には引っ越す予定であるし、しばらくすれば学園で着る制服が届くだろう。
そしたら残るは入学式だ。
ヒロインちゃんに漸く会えるのを楽しみにしつつ、私は詰めることの出来なかった本たちを読み始めた。
次回からやっと学園に入学します




