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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
生まれてからのいろいろ編
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 14歳の誕生日に、殿下からバースデーカードが届いた。その内容は私の知っているものとは違っていたけれど、おめでとう、と書いてあったのでそうなのだろう。

 内容は簡単に言うとこうである。


 君が婚約者に決まったよ。


 とか何とか。

 そういえば学園入学までに婚約者を決めるのだと言っていたような気もしなくもない。


 面倒臭いことになってしまった。普通ならここで喜ぶところなのだろうけれど。

 お父様もあまりいい顔はしていなかったので、私の反応は正しいのだろう。エド兄様ぐらいは喜んでくれるだろうかと思ったが、手紙の返事は未だに返ってこない。

 よく知らない相手よりは、いいのかもしれないと思い始めた。


 お披露目パーティーをするらしく、その準備のため今日は王宮に呼ばれていた。

 そして目の前にいるのは、殿下とそっくりな王妃様である。お綺麗で、大きな息子が二人もいるとはとても思えない。


「お初にお目にかかります。トラヴァース家長女マーティナと申します」

「存じ上げてますよ。しっかりとしたお嬢さんね、アルノ」

「ええ」


 軽く話をして、一度王妃様が席を外す。この場には私と殿下しかいない状態になった。


「殿下。私が婚約者になったことについてですが」

「母上としては、僕が好ましいと思った人を選んだと思っているんだ。まあ、それに違いはないんだけどね」


 僕という私的な言い方からも、個人的にもそう思ってくれたということだろう。


「僕としても私としても君を、マーティナを好ましく思ったから婚約者にすることを決めたんだ」


 真面目な顔で、真剣な目でこちらを見ていうものだから、気恥ずかしくなってしまった。目を逸らすと、目を無理矢理合わせてきた。ニコニコ笑っているのが、なんだか憎たらしい。


「そうだったんですね。えと、ありがとうございます」

「うん。それで、そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃないかな? 」

「分かりました。アルノルフ様、ですね」


 好ましいといってくれた殿下に、その好意を好意で返そうと思った。名前で呼ぶというなら容易いものだ。


「他にはなにか、して欲しいことはありますか? なんでもいいですよ」

「なんでもね……じゃあ、いつか君にアクセサリーを贈るから。その時は貰ってくれるかい? 」


 そんなことでいいのだろうか。私が嬉しいと思うだけではないのだろうか。本当にいいのかと聞けば、それがして欲しいことだと言う。


 その後は王妃様に見られながら、パーティーで着るためだというドレスの採寸をした。

 揃いの色にするのが決まりらしく、王妃様に助言を貰ったところ、相手の色を身につける風習もあるとかで。殿下の目の色である、緑色が入ったものにすることに決定した。


 **


 パーティーの日は、雲一つない快晴のお天気だった。


 控え室の私の前には、仏頂面のお父様とエド兄様がいた。二人とも揃って腕を組んでいるさまはよく似ていて、やっぱり親子なのだなと思った。


「喜んでやるべきなのだろうな、普通なら」

「はあ……」

「祝福してやりたい気持ちはあるんだよ」


 お父様もエド兄様もどことなく落ち込んでいる。何をそんなに。結婚した訳ではあるまいに。


「何も、ただの婚約ではありませんか。婚約など簡単に行われることなのでしょう? 」

「それは、政略としてのことか? 貴族間ではよくある事だ。だが相手は王族だ。逃げることなど皆無。醜聞になりかねん」


 お父様は頭を抱えてしまった。結婚することも貴族としての務めであると、理解しているだろうに。


「まだ相手がただの貴族であればよかったんだよ」


 この期に及んで、エド兄様は文句を言っている。そんなこと言ってもしょうがないだろうに。

 本人である私が受け入れているというのに、二人は理解はしていても、納得はしていないようだ。



 パーティーは和やかな音楽と共に始まった。私が紹介されるのは、中盤の辺りだというふうに聞いている。

 王様に挨拶をしてから、エド兄様と壁の方によって出されている食事を頂いた。とても美味しくて幸せな気持ちになっていると、挨拶を一通り終えた殿下がやって来た。そろそろ出番なのかもしれない。


「エドウィン。マーティナを借りてもいいかい」

「ああ、どうぞ」


 手を引かれて、壇上に上がった。みんなの視線を受けているのを感じる。

 緊張でドキドキしていると、殿下が握った手に力を込めてくれた。


「私に任せてくれたらいいよ」


 耳元で囁かれ、肩が少しはねる。首元がゾワゾワとするこれは、悪寒だろうか。


 その後は練習していた通りに、何事もなく終わった。

 一息つく間もなく、一曲殿下と踊った後エド兄様と踊り、テラスで休むことにした。以前お茶会を行った庭園が見え、心が落ち着く。

 そこへリュシール様がやってきた。


「はじめまして、わたくしリュシールと申しますの。少しお話ししません? 」

「……ええ。もちろんです」


 口調は穏やかだが、開いた扇子の奥の目は、値踏みをするように冷ややかであった。

 私も令嬢らしい仕草で武装して、うっかりボロが出ないように気をつけた。


「同じ公爵家なのに、どうしてあなたが選ばれたの? 」


 直球である。もっと躱した言い方をされると思っていたのに。


「何か利点があったのではないでしょうか」

「何かあるの? わたくしよりも、あなたの方が優れている点が」

「……魔力が高い家系ということでしょうか? 代々王家は魔力の多さを重視していると聞きますし」


 そう言うと、リュシール様は言葉に詰まってしまった。

 繋がりとしてなら、ほかのアンヌ様なども有力であっただろう。ただ、魔力量としてなら私があの中で一番であった。あくまで私の目測ではあるが。


「それもあるけど、それは理由のひとつでしかないよ」


 乱入してきたのは、件の殿下であった。

 頼むから、余計なことは言わないで。私は心の中で祈る。

 今にもリュシールは魔法を放ってしまいそうな程、背後に魔力を漂わせていた。殿下にもそれが見えているだろうに、平然としている。


「マーティナがいいと思った。ただそれだけだよ」


 恥ずかしげもなく殿下はそう口にした。それは理由になってないだろう、とツッコミそうになって気づく。

 ――やばい。

 そう思った時にはもう遅く、目に涙を貯めたリュシール様は私に向けて魔法を放っていた。


 目の前にはもう大きな火球が迫っていて、対抗出来る魔法を出したとしても、間に合うかどうか分からないほどの距離だった。無我夢中の人というものは、本当に恐ろしい。

 何がなんでも消さなくてはいけないという意思だけで、その火球の方へ手を伸ばす。食べてしまうように、一瞬で消えればいいのに。


「マーティナ! 」


 殿下の声が傍で聞こえた直後、気を失った。



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