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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
生まれてからのいろいろ編
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 そこにいたのは、大型の黒い犬のようなものだった。だが決して可愛いものではない。野性味溢れるオオカミに近い顔で、大きな口から覗く牙は大きく、涎が滴り落ちていた。


「早く帰らなくてはなりませんよね」


 誰に言うでもなくミラルダ先生が言うと、おもむろに魔物の方へと向かって行った。


「マーティナ。あなたはそこで見ていなさい」


 私は言われたとおり、馬車の近くでことの成り行きを見ていることにした。


 近づいてくるミラルダ先生に対して、魔物が警戒するように吠え、足を踏み鳴らした。目が充血し、怒っているようだ。

 その時大きな魔力を感じた。ミラルダ先生が魔法を発動させたのだ。

 魔物の方へ目を向けると、透明なシャボン玉のようなものの中に入っているのが見えた。そしてそれを宙に浮かせながら戻ってくるミラルダ先生。


「ミラルダ先生、それは? 」

「ああ、眠っています。この中にいる限り目を覚ますことも、再び牙を向くこともないでしょう」


 ミラルダ先生はそういうと、球体を空中に仕舞ってしまった。その事を尋ねると、なんとはなしに自分で開発したのだと言った。これが師団に属する魔導師というものなのか……。


「どこかへ持って行くのですか? 」

「研究材料になってもらいます」


 なんでも、ミラルダ先生は魔物について研究をしているのだそう。魔物についてまだまだよく分かってない事だらけらしい。起源などを調べることも、仕事のうちだと言っていた。


「魔物と、私たちの祖先だと考えられている魔族は違うのですか? 」


 以前習った魔族が祖先だと考えられている、ということについて聞けば、ミラルダ先生は少しだけ眉を下げ首を振った。


「実は、呼び方が違うだけで、同じものだという説があります。文献によると、元々魔族は魔王と呼ばれる存在によって支配されていました。しかし他所から来た人間と一部の魔族が結託して、魔王を封印することを試みました。

 その時の魔王派のものを魔物と呼ぶようになったとか。生憎確証がないので、一つの説に過ぎませんが」


 その事の真偽を確かめるためにも、魔物を研究することが役に立つのだそうだ。


 では、ゲームで魔物達と戦っていたのは、魔王が呼んだ魔王派の者たちということだろうか。反乱、いや、かつての敵たちへの復讐ということだろうか。 


 私が考えている間にも馬車は進み、家へ到着した。ミラルダ先生はこのまま師団の方に向かうらしい。


「先生、ありがとうございました」

「いいえ。私としても有意義なものでした」


 では、と家の玄関まで送ってくれたミラルダ先生は颯爽と馬車へ乗り込み、行ってしまった。


**


 私が帰ってきて真っ先に出迎えてくれたのは、エド兄様だった。あの夢を見てから素直にエド兄様へ甘えることを遠慮していたが、今だけならいいかと言い訳をして、手を広げるエド兄様の元へ向かった。


「ただいま帰りました、エド兄様」

「ああ、おかえり。マーティ。少し大きくなったんじゃないか」


 たった1ヶ月ぐらいで変化のわかるほど成長するはずないのに、エド兄様は私の頭を撫でる振りをして押してきた。やめて欲しい。縮んでしまうではないか。

 エド兄様の手を払いのけるが、また押してきて、しばらくその攻防は続いた。


「お嬢様、旦那様がお呼びです」


 見かねたセザールが苦笑しつつも助けてくれた。エド兄様が不満そうにしているので、一度ギュッと抱きついてからお父様の元へ向かう。

 お父様に何をしたのか、どんなことがあったのかを話した。うんうんと頷きながら聞いてくれているお父様の顔は、とても優しげであった。

 報告を終えてから、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。


「お父様は、ミラルダ先生とお知り合いだったんですよね。魔導師であるミラルダ先生とどこで出会ったんですか? 」


 さらに言うと、お母様ともお知り合いだったわけで。ずっと前から知っていたような口ぶりだった気もする。

 お父様は肩を竦めてから言った。


「実はね、以前父様は冒険者をしていたんだ。そのパーティーにいたのが、ミラルダ先生。ミラルダ先生は母様の紹介だった」


 当時からとても強い人だったという。ミラルダ先生に師団から招集がかかるまで、いろんなダンジョンを回ったりしていたらしい。その時から師団には入っていたそうで、長く在席しているそうだ。

 こうなると余計に疑問が湧くのが、ミラルダ先生の年齢についてだ。本当にお幾つなのだろうか。


「お父様はミラルダ先生のお年をご存知ですか? 」


 聞くとお父様は笑って片目を瞑った。


「マーティ。出会った時から彼女はあのままだったが、女性の年齢を聞くのはマナー違反だぞ」


 最もなことを言ってはいるが、要するにお父様も知らないのだろう。

 ずっとあの見た目とは。益々謎が深まった。


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