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今年私は11歳を迎える。
王立学園に入学するのは15歳だった気がするので、あと4年は猶予があることになる。
魔法の向上を決心して密かに特訓を続けていた私は、何故かお父様に呼ばれていた。何かやらかしたような記憶はないので、怒られるとかではないだろう。
「お呼びですか、お父様」
「ああ、マーティ。入ってきてくれ」
お父様の部屋に入り、もう一人人がいたことに気づく。
なんでか今日は長いローブを被っているミラルダ先生だ。
「……ミラルダ先生? どうして? 」
「まあ、それも含めて話すから、座りなさい」
促されて座ると、お父様が静かに話し出した。
「マーティは、魔法が上手くなりたいと言っていただろう? 」
「はい」
密かに特訓をしていたし、以前お父様にも言ったような気もする。素直に頷き、お父様を見つめた。
「ミラルダが、君に魔法を教えたいと」
「もう既に教えてもらっていますよ? 」
週に数回はミラルダ先生に来てもらって、直々に魔法を教えてもらっている。ミラルダ先生の教え方は的を得ているような感じで、無駄がない。
魔法を教えたい、とはどういうことだろう。
「ここからは私が話させてもらいます」
ミラルダ先生が姿勢を正し、話す体勢になった。
「私のこの格好を見て分かるかと思いますが、私は魔導師で、魔道士団にも属しています」
魔導師だったのか。魔力量も知識量も豊富だし、納得してしまった。ではお父様はなぜ魔導師の人と知り合いなのか、という疑問は残るが、ここでは我慢することにする。後で聞こう。
「先日やっと師団の方で休暇許可がおりまして。そしてお宅からも許可がおりた」
休暇許可は分かるが、お宅からの許可とは。不思議に思う私をよそに、ミラルダ先生は続ける。
「以前からあなたのことについて、打診をしていたのです。父君は大変心配性で寂しがり屋であらせられるから。あなたを遠方に連れていくことについて、なかなか了承しなかったのですよ」
ため息混じりにミラルダ先生が言うと、お父様がしょうがないだろ、と不機嫌を隠さず言った。
「まあ、とにかく。あなたさえ良ければ、私の休暇に付き合って頂けませんか」
そこで魔法を深く教えることが出来るとか。
なんてありがたいお話なのだろう。遠方には魔物がたまに見かけられるとか。実戦なんかも出来たりするのだろうか。
お父様からも許可を頂き、二つ返事で私は行くことを決めた。
**
馬車で揺られること数日。王国の東端に位置する場所に到着する。
私たちはこの場所に唯一の宿に泊まることになった。
「誘っておいてなんですが、贅沢は出来ないでしょう。それくらいは我慢なさって下さいね」
「はい! 魔法をもっと学べると言うなら、野宿でもなんでも我慢できます」
意気揚々と言えば、高位貴族の令嬢がそんなことを言うもんではないと叱られてしまった。反省せねばなるまい。
宿に荷物を置いてから、少し歩いて森の方へと向かった。森は鬱蒼と茂り、真っ黒な分厚そうな雲が覆っていて暗い雰囲気だ。
「では、まずはこの雲を晴らして見せてください。方法はなんでもいい。今日はそれでお終いです」
一応休暇なのでね、とミラルダ先生は付け足すと、私の後ろの方へ下がっていった。手助けはしないけれど、危なくなったら助けられるようにか、直ぐに私へ手の届く距離である。
私は真っ黒な空を見つめ、顎に手を当てた。果たしてどうやって晴らそうか。この分厚い雲を飛ばすための風など出そうものなら、辺りの木々もなぎ倒してしまうかもしれない。
とりあえず手元に魔力を集め、風属性のものを手元に発動させる。イメージとしては上昇気流のような。真上に上げた手のひらから、発動した魔法が真っ直ぐ雲へ向かっていった。
風が雲を巻き込み、細かくしながら退けていく。が、消えた場所へ次から次へと周りから雲が継ぎ足されていくようで、なかなか消えることはない。
ならばと使用する魔力を上昇させてみた。消えない。鬱陶しい程に。
考え方を変えてみようと、魔法を一度止めてみた。その隙に雲は一層と大きくなった気がした。
気にせず一掃できる方法を考える。雲は何でできているか。……そう、水。もっといえば水蒸気。この雲は普通のそこら辺に浮かんでいるものとは違うような気もするが、きっとその常識は通じるはずである。
風属性に火属性のものを混じらせ、熱を纏わせてみる。先程のように雲を巻き込み、細かくしていく。そこまでは同じ。熱を持ったいわば熱風で温められた雲は、やがて水となり雨として降り注いできた。お陰で雲として舞い戻ることはない。
私はニタリと笑い、今度は両手で対峙することにした。倍の威力を発揮することが出来る。
無心で雲を消していると、そこへミラルダ先生の声がかかった。
「はい終了。お疲れ様です」
声をかけられて初めて雲が消え去っていることに気がついた。ひとっつも残っていなく、辺りは明るくなっている。そうとう集中していたようだ。魔力もかなり減っていたのか、疲労も感じた。
「これだけ出来れば上等ですね。さ、今日は帰りましょう」
「はい」
宿への帰り道に、ミラルダ先生だったらどうやったのだろうかと、見解を聞いてみた。
「そうですね……私だったら。途中で辞めていたでしょうね」
「え」
「あなたのやったようなやり方は思いつかなかったでしょうしね」
そんなことを私にやらせたのか。でも、先生が思いつかなかっただろうことをやってのけたのか?
「ですから、誇っていいですよ」
「そうですか? 」
先生は褒めたあと、誇るの調子に乗るのとはまた違いますよ、と忠告して歩みを速めた。私も頷いて、後を追った。
**
それから何度かそういった試験のようなものを乗り越えつつ、ミラルダ先生の休暇を過ごしていった。
楽しい時間はあっという間にすぎるもので、気づけばミラルダ先生の休暇期間終了が迫っていた。だから早く帰らなくてはならない。
だというのに、領地へ向かう途中立ち往生してしまっていた。
「申し訳ありません。道が何かに塞がれているようで」
馬車を引く御者が窓越しに振り返って言った。道のど真ん中に黒いものによって占領されているようである。
「確認して参ります」
しばらくして御者が息を切らして戻ってきた。どこか焦っているようである。
落ち着く間もなく、早口で言った。
「魔物です! 魔物が出ました」




