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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
生まれてからのいろいろ編
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 王宮で魔法を見せてもらってからしばらくたった頃、私は暇を持て余していた。家庭教師の先生も、ミラルダ先生も今日はやって来ないし、出されていた宿題も午前中のうちに終わらせてしまっていた。

 勉強机の椅子に腰掛けて、暖かい陽射しを受けながら本を読んでいたが、なんだか今日は頭に入ってこない。


「セザール。午後からは何か用事が入っていた? 」


 少し離れたところに立っているセザールに、何度目かの質問をする。


「いいえ、ありませんよ、お嬢様」

「そう。そうなのよね……」


 魔法の勉強をしようにも、普通の本でさえ頭に入ってこないので、魔法も身につかないだろう。なんだか今日はずっとうわの空なままな予感がする。


「……そうだ! 秘密基地に行ってくるわ」

「秘密基地……あの森の中のですか? 」


 秘密基地とは、森の中にある穴の空いた大木のことである。以前セザールと初めて会ったところだ。セザールに知られている時点で秘密基地とは呼べないかもしれないが、私にとっては秘密基地なのだ。

 あれから何度か行っているので、なかなかに居心地の良いものとなっている。


「では暗くなる前に、お迎えにあがります」

「大丈夫よ。暗くなる前でしょ? 忘れないわ」

「お嬢様。お嬢様が眠りこけてしまったこと、一度ではありませんでしょう? 」


 居心地を良くしたことでその分寝やすくなり、気づいたら暗くなっていて目の前にセザールが居た、ということがよくあった。だからセザールへ何も言い返せず、黙るしかない。


「わかったわ。一応ゴーレムのはなちゃんにも付いてきてもらうわ。それでいい? 」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 よくやく折れてくれたので、途中で花壇によってはなちゃんを連れてから、私は森の方へと向かった。


 木々が生い茂る森を進んで、やがて開けたとこに到着する。秘密基地である大木がそこにはそびえ立っていた。

 大木の中に潜り込み、腰を下ろす。ちょうど日陰になっているので、とても涼しい。以前大木の中を綺麗にしたので、そこに持ってきたクッションを置く。体を倒し、上を見上げると、少しだけ空が見えた。この大木は去年雷に打たれてしまって、直ぐに火は消えたけれど葉が焼けてしまったのだ。


「はなちゃん」


 寝転んだ姿勢のままで、近くにいるだろうはなちゃんを呼ぶ。はなちゃんは直ぐに影から姿を現した。頭には相変わらず花が咲いている。

 はなちゃんをひとなでした後、そよそよと吹いてくる風に促され、不覚にも私は眠りについてしまった。


**


「マーティナ。お前にはガッカリだよ」


 エド兄様が、蔑んだような目を私に向ける。傍に寄り添うのは、ぽっと出の女。大好きな、私だけのエド兄様を横からかっさらっていった忌まわしい女。

 唇を噛み締めてエド兄様の方を見たが、もう私のことなど見ていなかった。横の女を大切そうに見つめ、肩を抱いている。

 生まれて初めて、屈辱感というものを感じた。


 エド兄様は女を背に庇い、私は屈辱感を抱えたまま戦闘へ向かった。もう魔物の群れはすぐそばまで迫っている。

 私は手元に魔力を集中させた。上手いやり方も、上手い倒し方も知らなかったけれど、私は高い魔力を持つのだから。きっとこんな敵なんて一瞬でやっつけてしまえるだろう。

 そうすれば、エド兄様は私を見てくれる。私だけに微笑んでくれる。頭の中はそれだけだった。


 一体のスライムが、こちらへ向かってきた。こんなもの、きっと初級中の初級だ。いかにも弱そうだし、簡単だ。

 私は手のひらから火属性の魔法を放った。効果的にダメージを与える方法なんて知らないけれど、私は火属性が得意だから。一発で仕留めてしまえる。


 けれど、魔法はひとっつもスライムに当たらなかった。焦って次々と放った魔法も、尽く当たらない。全くダメージを負っていないスライムが、私へ襲い掛かってきた。

 ああ、もうダメなんだと心の中で思って、私は叫ぶ。聞こえていても、いなくてもいいから。



「エド兄様! 」



**


 夢を見た。

 きっとこれは、ゲームの中のものだろう。耳の中で、〈マーティナ〉の声がこだましている。これが夢だとしても、嫌なものだ。

 より一層の魔法の向上を決意して、また眠った。



 それからセザールが迎えに来てくれるまで眠ってしまった。夜はなかなか眠りにつけなかった。これは寝てしまったせいだからだと思いたい。

 決して、あんな夢を見てしまったからではないだろう。


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