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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
生まれてからのいろいろ編
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 私たちは、王宮の裏口からこっそり出てお祭りの方に向かった。

 街並みは馬車の中からしか見た事がなかったので、どれも初めてのものばかりだった。煉瓦造りの建物はとても大きく、歩いている人々はとても楽しげだ。


「マーティ、何か食べたいものはあるかい? 」


 一歩先を歩く殿下が振り返って聞いた。

 誰が聞いているか分からないので、恐れ多いが今だけお互いを愛称で呼ぶことにした。殿下はアルノルフなので、アルノと呼ぶ。バレてしまうかもしれないけれども。

 それはセザールも例外ではなく、ちゃんとそうは見えないようにしてもらうつもりだ。口調も友人同士に見えるように。


「アルノはどう? 私は目移りしてしまって」

「確かにそうだね。どれも美味しそうだ」


 何かの肉の串焼きや、果実水、ドーナツのようなものなど美味しそうなものに溢れていた。テント張りの屋台から漂ってくる香りも、興味を引かれるものだった。


「セザールは、来たことがあるんだろう? 何かおすすめはある? 」


 殿下は少し前を歩くセザールへ尋ねた。


「来たのはとても前なので……ああ、でも、マーティの好きそうなものなら」

「それでいいよ。教えてくれるかい? 」


 セザールは一つの屋台を指さした。果物を使ったものを売っている屋台のようだ。

 人気の所のようで沢山の人が並んでいた。少し離れたところで待っていると、両手に赤いものを持ったセザールが戻ってきた。


「これは? 」


 殿下が不思議そうに見ている。私も倣ってセザールの手元を見て、目を見開いた。それは見覚えのあるものだったからだ。



「りんご飴というものです」



 飴でコーティングされたりんごだと説明される。世界観は異世界だというのにこの違和感。さすが乙女ゲームである。

 飴の固い所を舐めてとかしながら、齧り付く。殿下が食べづらそうにしてるのを横目で見てから、セザールへ尊敬の念を送る。

さすが、私の従者。分かっている。

 前世ではりんご飴が好物の一つだった。飴の甘さと、りんごの甘酸っぱさがたまらない。


「美味しい」

「うん。食べづらいけれど、美味しいね」


 殿下も気に入って頂けたようで、何よりだ。

 ありがとう、とセザールに言うと安心したような顔をしていたので、気に入るか不安だったのだろう。


 りんご飴を食べ終えてから、私たちは辺りを散策した。雑貨を売っているところや、はたまた骨董品を売っているところまであった。

 少しずつ奥へ進んでいき、あるお店の前で私は足を止めた。


「どうした? 」

「あ、いえ。あの、このお店に寄ってもいい? 」


 立ち止まった私を不思議に思って立ち止まった二人に、寄りたいお店を指し示す。

 そこは綺麗な、絵本に出てきそうなお菓子屋さん。道に面したショーウィンドウには、大きなうずまきキャンディーが飾られていた。


「菓子屋……エドウィンへの土産か? 」

「ええ。きっとエド兄様も来たかったと思うから」

「……わかったよ。寄ろうか」


 カランコロン、と付いている鈴を鳴らしながら木製の扉を開け、私たちはお菓子屋さんの中に入っていった。

 中には色や形が様々な飴玉や、チョコレート菓子などたくさんの物が売られている。その中から飴玉をお土産に決め選んでいると、店の奥から同年代ぐらいの男の子がやってきた。

 ここのお店の子供だろう。茶髪で人好きのする笑みを浮かべていた。


「いらっしゃいませー。お客さん、飴玉を買うならもっといいものがありますよ」


 そう言って持ってきたのは、属性に合わせた色合いだという飴玉の詰め合わせだった。装飾の綺麗な小瓶に入っている。


「これ、ただの飴玉じゃあないんです。一粒食べると、その色の魔法を少しだけ使えるようになるんです。どうです? 凄いでしょ? 」


 どうだ、と言わんばかりに胸を張って言っている。凄い。凄いのだが、生憎エド兄様は魔法については間に合っている。飴玉を食べなくても、自由にぶっぱなすことが出来るのだから。

 元々魔力が少なくて魔法を使えない人向けの品なのだろう。一時でも魔法を使えるようになるなら、使いたい人からしてみれば、喉から手が出るほど欲しいものであろう。


「ごめんなさい、こちらは結構です。普通のにするわ」

「そうですか、残念ですね。まあ、お客さんは必要なさそうですしね」


 店の子供は私の背後を見て言った。魔力は押さえ込んでいたはずなのに。子供は私たちを見たあと、セザールの方へ目を向けた。


「お兄さんは欲しいんじゃありませんか? 」

「……いいえ」


 セザールは首を横に振る。確かセザールは魔力が少ないと言っていたけれど、これは遠慮とかではなくただ単に信憑性がないと思っているのかもしれない。


「試しに買ってみる? 効果はともかく味は美味しそうよ」

「……マーティ、無駄遣いは良くないよ」


 眉間に皺を寄せ、セザールがやや低い声でいった。私を見張ることも仕事の一つであったことを思い出す。必要もないし信憑性もないので買うことはないと言いたいのだろう。

 けれど、お店の人の前で無駄遣いは無いんじゃないかな。子供は悔しそうにしているし。


「本当なんですよ! 一粒食べれば効果が分かります。特別にあなた達には一粒ずつあげます。そうですねぇ、あまり使える人がいないという、光属性のものをあげましょう」


 半ば強引にはい、とそれぞれ飴玉を一つ手渡された。淡く黄色の色が入った透明なものだ。

 舐めてみるとレモンの味がした。見た目どおりだ。


「さあ、魔法を使ってみてください」


 言われたので、手の上に光の玉を出してみる。出た。ぽわぽわと風船のように浮いている。凄いだろう! 、と得意げだが実は私は以前から出来たので、正直凄さが分からなかった。殿下も苦笑いしているので、きっと同じような理由のためだと思う。

 このことに関しては本命のセザールを見ると……


「出てる! 」


 私達のように手の上に、光の玉がいくつも出ていた。セザールも驚いているようで、眉毛がピクピク動いている。飴玉の効果は本当のようだ。


「それで、お買い上げ頂けますか? 」


 私はセザールが興味を持ったのなら、今日のお礼としてあげようと思い始めていた。セザールを伺いみると、また首を振った。


「私には必要ないので」

「いらないの? 」

「ええ。お土産だけ買っていこうか」


 セザールがいらないとそう言うなら、無理に買って押し付けるように渡すのは良くないだろう。

 口通りエド兄様のお土産だけ買って、店をあとにした。




 王宮へ向かう道を歩いていると、殿下が思い出したように言った。


「さっきの飴だけどね、実はこの国の魔導師達が作っているんだよ」

「魔導師が? 」

「ああ、今はあそこの店しか卸していないけどね。飴玉を舐めることで少しずつ魔力が増える効果があって、その結果も上がっている。決してただの子供騙しというわけではないんだ。国民の魔力量底上げを狙っているんだよ」


 今は試験段階だけれどね、と茶目っ気たっぷりに殿下が笑った。魔導師達は転移といい、飴玉といい色んなことをやってるな、と思いながら、王宮へと歩みを進めるのだった。

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