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お茶会を終えてから、たまにスサナ様やアンヌ様とお手紙のやり取りをするようになった。
スサナ様は領地に生えている珍しい花の押し花を、時々送ってくれる。同封されているのはご兄弟との日常のほのぼのとした出来事で、暖かい気持ちになる。だからお返しに、私もエド兄様との日常をたまに送るのだ。
アンヌ様の家は紙を特産にしているからか、とても上質な紙の手紙を余分に送ってくれる。書き心地がとても良い。
ところで、殿下の使っていた転移のような魔法についてだが、未だに謎のままである。
王立図書館へ行ったがどこにも書かれたものはなかったし、ミラルダ先生は知っていそうだったが、教えてはくれなかった。
秘されたものだというなら、ロマンがある。王家しか使えないものということだろうか。
そこで、ダメもとで殿下に聞いてみようかと考えた。
幸いエド兄様は殿下とお友達であるようなので、使える伝手は使いたいところだ。
「エド兄様。お願いがあります」
ある日の昼下がり。
私は鍛錬を終えたエド兄様に、お願いすることにした。
「なんだい? 」
滴る汗を拭い、エド兄様が答える。
水も滴るなんとやら。実際は汗だけど、とても爽やかである。
「殿下にお手紙を出したいのですが、エド兄様の名前をお借りしてもよろしいですか? 」
いきなり個人的な内容で手紙を出すことには気が引けて、しかも相手は王族だから、不躾かもしれない。と言い訳を心の中でこぼしエド兄様の返答を待っていたが、エド兄様はなかなか答えなかった。
「ダメですか? 」
不安になり、恐る恐るエド兄様を見上げる。
ダメならダメと、早く言って欲しい。
「いや、ダメではないが……。分かった。どんな内容だ? 僕が代わりに送ってやろう」
「いえ、エド兄様のお手を煩わせる訳には」
ただ送り主の名前として借りたいだけなのだが、エド兄様は首を振る。
検閲される時に、バレてしまうかららしい。それでは不味いな。
「では、エド兄様、お願いします。エド兄様が怒られないように、ちゃんと私が無理を言った、と書いてくださいね」
「そんなことはしないよ」
エド兄様は笑っているが、そんなことになってしまうのは不本意である。
再度念押しし、聞いて欲しいことを伝えてから私は部屋に戻った。
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数週間後。殿下からお返事が来たことを伝え聞く。
私は急いでエド兄様の部屋へ向かった。
「エド兄様! 殿下はなんと? 」
興奮気味に聞けば、しかめっ面をしたエド兄様は窓枠に腰掛けていた。
「まだこの国の魔道師団も研究段階で、市井へ伝わるまでしばらくかかるようだ。だから安全性も考えて仕組みは教えられないと」
「まあ……それは仕方ないですね。ですがいつか使えるということですね! 楽しみだなぁ」
転移とは、まるでファンタジーである。ゲームの世界だ。
今はまだ師団の一部と、王族の中でも誇る魔力量をもつ殿下、それから兄君である王太子殿下しか使えないそうである。
また間近で見たいものだ。
そんな私の考えていることが伝わったのか、エド兄様はさも不本意だとでも言うように口を開く。
「見せることは出来るから、今度遊びに来たらどうだと」
「いいんですか」
「父様に許可を貰ってからだぞ」
「はい! ぜひ、殿下には行きたい旨を伝えておいて下さいね! 私はお父様に許可を頂きに行ってまいります」
私は脱兎のごとく駆け出した。令嬢としてはあるまじき姿ではあるが、この際目撃した使用人達には、目を瞑ってもらいたい。
「セザール。お父様は帰って来てる? 」
後ろを振り返り、セザールがちゃんと着いてきているか確認してから尋ねる。
私は走っているというのに、セザールは早歩きといった感じで、余裕を感じる。これが足の長さの差か!
「はい。ご帰宅されているかと」
「急がないと! 」
お父様の部屋へノックをしてから入ると、執務机で何か書き物をしている所だった。
少しだけお時間を貰い、深呼吸して、息を整えてから口を開く。
「殿下の所へ遊びに行く許可を頂けますか? 」
落ち着いて尋ねるが、何? と返すお父様の声は険しいものだった。
そこで魔法を見せて頂けることを伝えると、お父様がじっと私を見つめた。
「行きたいのか? 」
「はい」
私は大きく頷く。行きたいという気持ちが伝わるように。
お父様はしばらく黙っていたが、やがて諦めたようにため息を吐いた。
「……わかった、いいだろう。ただ、エドにも付いてきて貰いなさい。君は何をするか分からないからね。セザールも、ちゃんと見張っといてくれよ」
「はい! 」
「かしこまりました」
そんなに変なことなんてしないけどな、と思いつつも、私は大きく返事をして、セザールは深々と頭を下げてからお父様の部屋をあとにした。
お父様とエド兄様、娘・妹の可愛さに屈し、前話での計画(あまり接触させないように)が頓挫する。




