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席につき、改めてご令嬢達を見渡す。
殿下の右横を陣取っているのが、何代か前に王女様が降嫁した公爵家のご令嬢。リュシール様。
その反対側に紙を特産にしている侯爵家のご令嬢。
私の右隣が鉄鉱業が盛んな侯爵家のご令嬢。左隣が辺境伯のご令嬢である。
ちなみに、殿下の向かい側が私だ。
どういった席順なのか。
ティーセットと、お茶菓子にスコーンが運ばれてきた。
お父様が王宮の食べ物は美味しいと言っていたので、堪能することにする。
まずはプレーンでそのまま。小麦とバターの香りが香ばしい。サクサクとしていて、中はしっとり。
なんて美味しいのだろう。
次にベリー系のジャムをつけて。甘酸っぱくて、バターの甘みといい感じに調和する。
美味しい。持ち帰ったり出来ないだろうか。それか、レシピを知りたい。
教えてくれたりするかな、と殿下の方を見ると目が合ってしまった。
そして微笑まれる。
何故。
紅茶を一口飲んだ殿下は、私をもう一度見てから全体を見渡して言った。
「楽しんでくれているようで何よりだ。君たちは私の婚約者候補ということだけれど、それは聞いているかな」
「ええ! もちろんですわ。わたくし殿下のことずっとお慕い申しておりましたから、とても嬉しいです」
真っ先に反応したのがリュシール様。元気が有り余っているのだろうか。
というか、ずっとってなんだ。まだ10歳だぞ。
それに追随するように、反対隣に座っていた製紙業のご令嬢、アンヌ様も声を出した。
「わたくしも存じ上げております。まだまだ未熟ですが、殿下に見合うよう教育も受けておりますの」
アピール合戦か? いつそういった流れになったのか。
辺境伯のご令嬢も鉄鉱業のご令嬢もそれに倣ってアピール? をしているが、辺境伯の方はあまり熱を感じない。
ふむふむ、と考えていると皆の視線が集まった。何か言えということか。
「えーと、私も公爵家の方から聞いております」
ちゃんと聞いているし、個人ではなくお家に来た話だというのも理解している。
ただ事実を言っただけなのに、うち一人の視線は冷たいものだった。
いや、そもそも殿下のことなどゲームの知識以外知らないからな。生で会ったのだって、さっきの温室が初めてだし。
解せぬ思いを抱えていると、話の主導が殿下に移った。
庭を案内してくれると言うので、皆が立ち上がる。
他の人がチョロチョロと流れる小川を見ている中、その隙に辺境伯のご令嬢に気になったことを聞いてみた。
「スサナ様。あなたはあまり乗り気ではないのですか? 」
「!? 」
「漏らすつもりなんてありませんわ。そういう方もいるでしょう」
辺境伯のご令嬢、スサナ様にこっそりと耳打ちをしていうと、怪訝そうな顔をされた。唐突過ぎたか。
慌てて内緒にする旨を伝えると、少しだけ近づき小さな声で話してくれた。
「はっきり言って、このお話は私の家にはなんのメリットもありませんの。今まで独自にやって来ましたし。先程は流れに乗って言うほかありませんでしたが、今日は取り敢えず来ただけですのよ。辞退することは、もう今朝方殿下に伝えてありますの」
スサナ様ホワホワしてる印象を受けたけれど、とてもしっかりした人なのだろう。
下に兄弟が沢山いるらしく、慕ってくれているとか。
まるで……
「エド兄様のようですね」
「え? 」
「ああ、ごめんなさい。私にも兄がいるのですが、優しくて頼もしい、自慢の兄様なのです。スサナ様もきっと、ご兄弟方にそう思われているのでしょうね」
スサナ様の手を握って熱弁すると、しばらく瞬いた後笑った。花が綻ぶような笑顔だった。
「マーティナ、君はまた他の人と手を繋いでいるのかい? 」
和やかな、友情を築いている(と思っている)シーンであったのに、殿下が現れた。
周りに群がっていたご令嬢方は、どこにもいない。
「殿下。繋いでいるのではありません。握手です。友達になってもらおうと思って」
「え、ええ。よろこんで、マーティナ様」
取り繕ってそう言うと、スサナ様も乗ってくれた。
ありがたい。
「君はさっきから一度も私の所に来ないね」
これで話は終わりと、ご令嬢達の元へ行こうとしたが、私だけ引き止められてしまった。
「そうでしょうか? 」
「ああ、そうさ。折角エドウィンから君のことを聞いていたから、話してみようと思っていたのに」
また拗ねたように言う。
てか、エド兄様と知り合いだったのですね。
「エド兄様は、私のことをなんと? 」
「また、エドウィンか。別に。なんとも」
「はぐらかすのですか? 」
詰め寄り尋ねるが、殿下は視線を逸らしてしまった。終いには、近寄るなと言う。
さっきは近くに来ないことを怒っていたのに、今度は近くに来たことを怒るなんて。
なんだ。なんなんだ。
「殿下は私にどうして欲しいのですか? 」
少し距離を開けて問うと、殿下は顔を覆ってしまった。体も後ろを向いている。
「大好きなエド兄様にでも聞いたらいいだろう」
耳を真っ赤にしてそれだけ言うと、殿下は行ってしまった。
分かりました。エド兄様に聞くことにします!
けどまずはお茶会が終わらなければ。
早く終われっ、と念を送った。




