12
ライリー夫人に仕立ててもらった青色のドレスに身を包み、私は憂鬱な気持ちを抱えながら馬車に乗っていた。
なぜ憂鬱なのかというと、それは数時間前、家を出る前に遡る。
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ドンドンと大きな音を立てて自室の扉が叩かれた。
着替えはつい先程終わったばかりで、今は鏡台に座り、化粧を施されている所だった。
動けないので、セザールへ鏡越しに目配せし、確認してもらうように頼む。
「……お嬢様、旦那様が火急の用事だそうです」
「なんでしょう? ……分かりました。ありがとう、今伺います」
メイドに礼をいい、扉の方に向かった。
中に入ったお父様は少し疲れているように見えた。
「どうかされましたか? お父様。お疲れのようですが」
「ああ、マーティ。なんでもないんだよ。ただね」
「ただ? 」
そこでお父様は大きく溜息を吐く。本当にどうしたのだろうか。
「マーティ、今日お茶会が王宮で開催されるそうだ」
「はあ」
話の流れがつかめず、ただ曖昧な相槌しか入れられない。
「そのお茶会はどうやら婚約者候補の顔合わせを兼ねているらしいんだ」
「婚約者? それで何故私に? そもそも誰の? 」
私が矢継ぎ早に尋ねるが、お父様は疲れた顔で笑うばかり。
まあまあ、とジェスチャーまでしている。
「黙っていて悪かったな。行かないと言い出すと思って、内緒にしていたんだ。それで、お前の名前が第二王子殿下の婚約者候補に上がったらしい」
第二王子殿下。ああ、ここもゲームと同じなのか。名前をアルノルフ・エレーン。マーティナは彼の婚約者という立場だった。
腹黒ドSな性格で、何事もそつなくこなすオールマイティ。実は努力型の天才で……とか何とか。
うん、行かないと言い出しかねない内容だな。めんどくさいし。常々色気より食い気ではあるし。
お父様の判断は正しい。
「行ってくれるな? 公爵家の長女として」
行け、と暗に言ってくるお父様をちらりと見てから頷いた。
公爵の名を使われてしまったからには、行くほかない。
そうしてあれよあれよと準備され、馬車に積み込まれたわけである。
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馬車の窓から外を覗く。
7歳の時お城には行ったが、王宮に行くのは初めてだ。
「緊張しているのかい? 」
からかうように尋ねて来たのは、向かい側に座るエド兄様である。
不安そうな妹を心配して……というよりも逃げ出しかねないと思われているのか、お目付役を兼ねてお父様の代わりにエド兄様が来てくれた。
そのエド兄様であるが、12歳にして剣術に優れ、頭もいいという文武両道。第二王子殿下との若干のキャラ被り感は否めない。
ゲームでそういった情報はなかったけれど、これはもしや私が転生したことによる弊害であろうか?
いや、引き立てるためにそういった情報は伏せられていたのか? これは製作者許すまじである。エド兄様の良さの一つを伏せるなど。
とまぁ、それは置いておいて、エド兄様が来てくれれば、安心である。
「いいえ。エド兄様が来てくれたおかげで、緊張しないでいられます」
そう笑って言うと、エド兄様が笑い返してくれた。
うん。今日も変わらずエド兄様はイケメンですね。
王宮に到着してから通されたのは、ガラスで囲まれた温室だった。
花壇に植えられた花々が咲き誇り、辺りには甘い匂いが漂っている。
他の人は何処にいるのか、この場には私たち以外は誰もいない。
ふと遠くを見ると、花壇の影で何かが動いたような気がした。
「エド兄様、ちょっとあちらも見てきます」
「あまり遠くに行くなよ」
はいと軽く返事をしてから、花壇の方へ走って駆け寄る。
そして、そろーっと覗いてみた。
!?
なんで、どうして、と頭には沢山のはてなが浮かぶ。
「マーティ、どうした?」
驚いて立ちすくむ私を心配したのか、エド兄様が近づいてきてくれた。
ああ、やっぱりエド兄様は救世主だ。幾度となく、私の窮地を救ってくれる。
早く、早く来てください。
この案件は私一人ではどうにも出来ません。
エド兄様なら打開案を思いつけるのでしょう。
そんな心の声が聞こえたのか、影から何故か、そう何故か睨みつけられた。
「何も問題は無い、そうだね」
どことなく頷くことを強制するような響だ。
優しい口調にも関わらず、睨みつけられているので、恐怖しか感じない。
大丈夫だと、言えということだろうか。
命令されている訳では無いのに、そう聞こえるとは不思議なものだ。
――そこで座り込んでいるのが、かのアルノルフ第二王子殿下だったからだろうか。
※エド兄様のキャラ被りについて
マーティナがお母様の死後わがままにならなかったので、ほかのことに時間を回せるようになったエド兄様は、自然と文武両道になりました。
つまり製作者達伏せていた訳では無いので、とばっちり




