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時は過ぎ、10歳になった。
魔法も上達し、はなちゃんの仲間を複数出すこともできるようになった。令嬢教育だって身についた。出来ることが増えるというのは、とても気持ちのいいものである。
それが快晴の青天井だったらなおのこと良いだろう。
が、しかし、ここの所雨天が続いていた。
今のところ作物に影響は出ていないようだが、洪水や土砂崩れなど起こされては溜まったもんではない。
「ねえ、セザール。雨はいつ止むのかしら」
「まだ止みそうにもありませんね。紅茶でもいかがですか」
セザールは短く返すと、私のそばのサイドテーブルにティーカップを置いてくれた。
「ありがとう。落ち着いたわ」
1口飲むだけで、気持ちが穏やかになる気がする。
そうだな。いつ止むかも分からない雨を見ているより、行動あるのみであろう。
「セザール。私は蔵書室へ行ってくるわ。何かあれば教えてちょうだい」
「かしこまりました」
蔵書室に入って気づいたが、なんだか空気がこもっているような。
この雨で、湿気ってしまったのだろうか。
ジメッとしているのは少し気になるが、私は魔法の本を読み始めた。
ミラルダ先生がたまに本をくれることもあって、魔法類の本が増えた。
(天気に関する本はないかなー)
本棚の端からじゅんに探していったが、なかなか見つからないものである。
そうこうしているうちにお昼になっていたらしく、セザールが呼びに来た。
「お嬢様、ご昼食の用意が出来ましたが、如何されますか」
「もうそんなになるのね。わかりました。では食べ終えたら王立図書館に行こうと思うので、用意をお願いします」
「お嬢様、午後からお客さまがお見えになる予定です」
どういう系統の本ならあるかとか、昼食は何かなど意識を飛ばしていたら、セザールは眉根を寄せて言った。どことなく困っているような顔だ。
「今初めて聞きましたが」
少しだけ冷たい声が出た。
図書館に行こうと思っていたのに。ブスッ垂れた、そんな気持ちが見え隠れしていたのか、セザールは目を逸らしていた。
「申し訳ありません、お嬢様。私も先程旦那様からの伝言を預かりまして」
お父様の名前を出すのはずるい。
断ることなど出来ないではないか。
曰く、
『仕立て屋のライリー夫人が訪ねてくる予定なので、マーティを何処へも行かせないように』
と。
いつもなら事前に知らしてくれるが当日に突然とは、何かあったということだろうか。
どこからかお呼ばれを受けただとか。急に新しい服を仕立て直すなど、普通のお茶会などでは考えられない。
「何か聞いていますか? 」
セザールに訪ねてみるが、首を横に振るばかり。
なんの見当もつかないが、取り敢えずは昼食を取ろうと食堂へと向かった。
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昼食を食べ終わり、食後の紅茶を味わっていると、ライリー夫人の来訪を告げられた。
「悪路の中申し訳ありません。すぐに温かいものを用意させますわ。さあ、上がってください」
大荷物を両手にこさえた夫人は、数名の従業員らしい人達と共にやってきた。
両肩も、上品そうな帽子も雨に濡れてしまっている。
せめて雨の降ってない日に呼べばよかったのに、と心の中でだけお父様に悪態をついてみる。
しばらくして私の部屋にやって来た夫人達は、すぐに何やら準備を始めた。
「私は何も聞いていないのですが、お父様から聞いていらっしゃいますか? その、どんな場所で着るのか、とか」
夫人は小首を傾げたあと、胸を張って言う。
「伺っております。わたくしに任せてくださいませ! 必ずやお嬢様に似合うドレスを仕立ててみせますわ! 」
何も答えてはくれなかったけれど、任せてもいいのだろうか。
いや、ライリー夫人のお店は人気で、顧客も多いと聞いたことがあるので、腕は確かであろう。
問題はそう、どこで着るのかということだけ。
私は遠い目をしながら、最近読んだ本の内容へ意識を飛ばした。




