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コントロールを身につけて数ヶ月がたった頃のこと。
先生曰く、魔法には魔力とイメージ大事であるらしい。
手から噴水のようにイメージすればそのようにでるし、威力や大きさ、速さなど細かくイメージすれば、その通りの水泡だって打てるのだ。以前指から火を出したような感じで。
とまぁ、先生に教えて貰ったおかげで、私の魔法は進化した。主に娯楽方面でも。いや、魔王のこととか忘れてないけどね。息抜きは大事だよ。
そして私は蔵書室からの帰り道、お庭の花壇の前に仁王立ちしていた。
「ふっふふふふふ」
私は思わず笑っていた。
笑わずにいられようか。
何故か。
それは私の前に、花を頭に咲かせた土製のゴーレムがいたから。
あまり花壇を荒らしてはいけないので、端の方の土を拝借した。花は意図せずくっついて来てしまっただけだ。
「さあ! 付いてきなさい、はなちゃん! 」
花が頭に咲いてるゴーレム、もといはなちゃんに命令する。このゴーレムは製作者だけが操ることが出来るのだ。
背丈20センチ程のはなちゃんが、30センチ程の花壇の上から降りようとする。これ、降りた瞬間壊れてしまうのではなかろうか。
高さが怖いのか、そろそろと降りようとする姿を見ると、心配になってしまう。
「……は、はなちゃん。大丈夫? 無理しないでいいのよ? 」
私の言葉にはなちゃんはふるふると首を振った。大丈夫だと言いたいらしい。
手助けしたい欲求に駆られたが、大丈夫だと言い切るはなちゃんに悪い気がして、観察していることにした。
壁にぺったり体を付けるようにして降りるはなちゃんへ、声援を送る。
「頑張れ、はなちゃん! あと少しだよ」
はなちゃんはしばらくして、降りることが出来た。
ああ、なんて一生懸命なのだろう。
可愛くて、仕方がない。いや、可愛らしい大きさにしたのは私であった。
こうして、私は手下を手に入れた。
はなちゃんを引き連れて私は裏手にそびえる森へと向かう。目的地へ向かう中で、はなちゃんには小枝を集めてもらった。特に意味は無い。
森を少し進んだところに真ん中の空いた大きな大木を見つけた。
よし、ここは今日から私の秘密基地だ! ずっと秘密基地に憧れていたが、夢が叶った!
傍にはちいさな湖があって、その湖の周りには囲うように木々が覆いかぶさっていた。葉っぱの隙間からは木漏れ日が差し込み、この場所だけは2、3度程気温が低いように感じる。
「よし、はなちゃん。その小枝は大木の隣に積んで置いて」
私の言葉にはなちゃんが動き出す。
湖の方へまた目を向けた。とても透き通っていて、神秘的な雰囲気だ。色も真っ青に澄んでいる。
少し湖に近づいただけで、足がガクガクと震えた。
呼吸が荒くなる。ずっと忘れていた記憶が、フラッシュバックしそうになった。
頭を振って、嫌な気持ちをかき消し、思い出に蓋をした。
深呼吸をして、呼吸を整える。
……ああ、なんだか嫌なことを思い出してしまった。
湖にはあまり近づかないようにしよう、と心に決める。
私は大木の中へ潜り込んだ。
**
どれくらい経ってしまったのだろう。
大木の中で目を覚ました時には、あたりはオレンジ色に染まっていた。
「はなちゃんいる? 」
当たりを見渡すが、どこにもいない。
その時ガサガサと茂みから音がした。はなちゃんであろうか。
私は動かずにじっと待っていた。もしはなちゃんではなく、魔獣であったなら大変だ。いや、盗賊だったりするかもしれない。
耳を澄ませた。
茂みからの音は足音へと変化した。二本足の生き物。人か魔物か。
私は密かに手元に魔力を集めた。いつ襲われてもいいように。目くらましぐらいはできるだろう。
やがて近くで足音が止まる。
大木すぐ近くで見覚えのある魔力を感じた。
「……はなちゃん? 」
影から姿を現したのは頭に花を咲かせたはなちゃんだった。
「よかった。はなちゃんだったのね。どこかへ行ってしまったかと思った」
はなちゃんがいた事で安堵したわたしは油断していた。明らかに先程の足音は、はなちゃんとは違うものであったというのに。
「あなたが、マーティナ様ですか? 」
はなちゃんから突如として現れた人影に、ビクリと肩を震わせる。
「どなた? 」
少々声が震えていたが、何とか絞り出した。
人影が近づき、ようやく顔が認識できた。
私より年上のやけに顔の整った、無表情な男の子。
「私、ローラの息子のセザールです。お迎えに上がりました、お嬢様」
見覚えのあるその人は、マーティナの従者で攻略対象の1人であった。
私は若干暗くなった森の中を、セザールに先導されながら歩いていた。腕の中にははなちゃんがいる。もう少しで魔力切れを起こし動かなくなるだろう。
しかし、とセザールを見上げる。
あれから少し話をしたが、彼は私より3つ上の10歳。2つ上のエド兄様よりも背丈がある。
「あなた背が大きいね」
「いえ、そんなことは。お嬢様が小さくていらっしゃるからでしょう」
無表情なところが、何故かバカにされたように聞こえる。
そうかもしれないが。まだ私は7歳なのでこれから伸びるからいいのだ。
「でも、よくここがわかったね」
「その小さいゴーレムが教えてくれました」
「はなちゃんが? 」
「はい」
このゴーレムは私の言うことしか聞かないはずであったが。そういえば、はなちゃんに自我を与えたのだった。寝てしまった私を心配して呼びに行ってくれたのか。なんて賢い子なのだろう。
「ありがとう、はなちゃん」
ついに魔力切れを起こして動けなくなったはなちゃんはピクリとも動かないが、少しだけ首を動かした気がした。
屋敷に入る前に花壇に向かい、はなちゃんを埋めておく。はなちゃんのエネルギーは私の魔力と土の中の微生物。土に埋めておけば、明日の朝にはまた復活するだろう。
屋敷に着いた時には真っ暗になってしまっていて、お父様とエド兄様に怒られてしまった。
「すまなかったね、セザール」
いえ、と短く答えてから下がろうとするセザールをお父様が背を押して私の前に向かせた。彼は相変わらず無表情だったが、少し驚いてるように見える。
何かを耳打ちされ、セザールは真面目な顔をしてこちらを見た。多分だけど。
「マーティ。彼は明日から君の従者として傍にいることになる。迷惑はかけるなよ」
おお、ゲーム通りになった。
けど、迷惑なんてかけませんよ。いつ私が迷惑をかけるようなことをしたと。
「よろしくお願いします。セザール」
「はい、お嬢様。なんなりと」




