中編の二。おまつり騒ぎに天狗も翔(はね)る。
「そりゃっ」
威勢のいい翔也さんの声。風を切る杵の音。そして。
ペッタン。叩きつけられる杵。
「つーくもー」
辰美ちゃんの数える声。これから九十九回目です。
わたしたちがお餅を突くのに合わせて、餅数えを辰美ちゃんのお母さんから、辰美ちゃんにかわってもらいました。
そしたらうちの家族も、後は若い者だけで~、なんて。お見合いじゃないんだから、ってみんなで笑って。現在に至ります。
「後十回ー。カウントダウンだー!」
「いくら大晦日だからって、辰美ちゃん。まだそのテンションは早いよ」
苦笑したわたしだけど。
「九!」「Nein!」
観光客さんたちがなんかカウント始めちゃいましたっ。って、九からなんですか?
ともかく。辰美ちゃんに答えて、それといっしょに翔也さんへの合図。そして、気持ちを落ち着けて……。
「はいっ」
ペシャ。次の一打への準備をするわたし。
「そいや」
ペッタン。
「ひゃーく」
「八!」「Eight!」
「はいっ」
ペシャ。
「さいやっ」
ペッタン。
「ひゃくいちー」
お餅を突き始めて十回ほど。このペッタンで残り八回です。
「七!」「Seven!」
「はいっ」
ペシャ。笑顔で水をお餅につけるわたし。
ーーだって。
「うおりゃっ」
ペッタン。
すっごく楽しそうなんですよ、翔也さんってば。あんなにめんどくさがってたのに。
「ひゃくにー?」
なんか、辰美ちゃんがノって来てます。
「六!」「Six!」
「はいっ」
ペシャ。
「そらっ」
ペッタン。
なんだか翔也さん、ストレス発散させてるみたいです。
「ひゃくさーん!」
「五!」「Five!」
「はいっ」
ペシャ。
「うおーらっ!」
ペッタン。
翔也さん、ちょっとだけ表情が緩んでるような?
「ひゃくよーん!」
「四!」「For!」
「はいっ」
ペシャ。
「そいやそいやー!」
ペッタン。
声に反して、それほど力は入ってません。器用だなぁ。
「なんだ、翔也さん こういうこと、好きなんじゃないですか」
フフフと笑ってそう言うわたしに、
「妖怪ってのは、なんだかんだ言ってもおまつり好きなんだよおきぬちゃん。ほら、天狗囃子なんて言うじゃない?
クククと含み笑いの辰美ちゃん。
続けて、
「百五ー!」
うわ。すごい気合。
「三!」「Three!」
お……お客さんもすごい。
「はいっ!」
ペシャッ。いけない、わたしまで盛り上がって来ちゃった。
「あそーれっと!」
ペッタン。
「フフッ、完全に楽しんでる、翔也さん」
「百六ー!」
巻き舌までし始めちゃったっ!
「二!」「Two!」
わわ、なんだか年明けまでのカウントダウンみたい。それもしっかりあるのに、これじゃあまるで今から年が明けるみたいっ。
「はいっっ」
ペチャッ。あっと、いけないいけない。力入っちゃった。
「あどしたどしたーっ!」
ペッタン。
「も、もうなんの煽りなんだかわからないです翔也さん」
吹き出すのこらえるのが大変ですよ~。
「百七ー!」
「一!」「One!」
すっごい熱気。まるで真夏みたい。
「はぁいっ!」
ビシャ。いけない、さっきより力入っちゃったっ!
「今年の厄を!」
ペッタン。
あ、翔也さん 最後になんか言うつもりですね。
「ラストワン! これで終わりの百八つー!」
「ゼロー!」「ZERO!!」
体、熱いです。これが、鬼の血。血が騒ぐってことなんでしょうかっ?
「なるほど零を数えるから九からだったんですね、はいーっ!」
ベシャッ!
「たたっこむっ!!」
ビターン!
お客さんたちからヒューって、ものすごい歓声いただきましたっ!
「わぁ~」
思わず感激の声が出ちゃってました。
「ありがとうございました~!」
お客さんたちに会釈をするわたし。じわーっと全身に汗をかいてしまってます、熱寒いって言う不思議な感覚に襲われ中です。
「やー、どーもどーもー!」
両腕をブンブン振って、辰美ちゃんはまだまだ元気です。
「この餅ぁ年明けすぐまでお預けだ。いったん解散ー!」
杵はお餅にペッタンした状態で手放し、体の前で両腕を大きく回し続けてます。翔也さん、お客さんに退場を促してるみたいですね。
それに気付いた日本の方々が、次々ゾロゾロ広場を後にして、それに倣ったようで外国人さんたちも、バラバラと広場を後にしていきます。
「ちくしょう。妖怪の、天狗の本能に負けちまったぜ」
そんな皆さんを見ながら、大きく伸びをする翔也さん。なんだかわたしは、ぼーっと眺めてしまいました。
三人とも、笑顔です。笑顔で除夜の餅を終えることができました。
ーーまだ。お昼なんですけどね。