着ぐるみカフェの美少女着ぐるみの内臓
ネット上に「着ぐるみカフェにいるウェイトレスの中の人の正体を見たものは、その中の人になりかわって内臓にならないといけない」という冗談が書かれていたが、無論そんなことはない、「中の人」は存在しないからだ。でも俺は「中の人」の正体をたしかめてみたくなった。
あわよくば、その可愛らしい外観に憧れるからであるだろうからだ。どんなに嫌な事があっても表情は笑顔のままで変わらないし、本当の自分を隠すのにはもってこいだからだ。もっともその願望はフェチだといわれるのが関の山ではあるが。
そのような変身フェチのアイテムとしては仮装すなわちコスプレもあるが、着ぐるみは体型だけでなく顔さえも固定化する魔法のアイテムであるといえる。ただ費用はものすごくかかるのが欠点であるが。
着ぐるみの中にはスリムな体型であっても身長も高く肩幅も大きい・・・そう、明らかに男だろうという着ぐるみの内臓もおりそうだけど、中には女も大勢いるようだ。
実際、自分はしゃべらない着ぐるみの内臓の声が可愛らしかったり、またぶつかってしまった着ぐるみの内臓の胸が・・・まあ、そのあたり書くとまずいので止めよう! とにかく女性もいるのだ。
たまたま着ぐるみカフェのイベントが行われると聞いた俺は会場近くをたむろしていた。それは顔見知りの女が言っていた話を思い出したからだ。でも、そいつはもう参加しないだろうが。
俺は会場近くにある更衣室に潜入できる機会をうかがっていた。立派な犯罪をしようとしていたが、それもこれも謎を確かめるためと自己正当化しようとしていた。すると意外な事になった。
「出歯亀」になった自分は気弱なはずなのに、なぜ大胆になってしまったのだろうか? とにかく更衣室のロッカーの中でワクワクしつつも不安な気持ちでその時を待っていた。着ぐるみ店員が誕生する瞬間を!
入ってきたのは
自分はロッカーの中でドキドキしていた。着ぐるみの内臓になる人が来るのを! でも女の子だったらいいけど男だったらいやだなあ。そう思っていたらかわいらしい鈴のような声がしてきた。
女の子だ! そう安心した気分になったのもつかの間、その声に聞き覚えがあった。知り合いの劇団員をしている綾音だ! しかも、あろうことか自分が入っていたロッカーを開けてしまったのだ!
「やっぱ、あんただったんだ良輔くん! 着ぐるみ喫茶の秘密を探ろうとしている奴がいると聞いていたけど、ここで出歯亀していたんだ」
自分はもうだめだ! そうおもって覚悟していた。この後は警察に突き出されて・・・そして最終的には新聞の三面記事の傍らに本名で掲載されてしまうのだ。そうなったら将来は・・・真っ黒だ!! そう覚悟した時、綾音は意外なことを言い始めた。
「丁度よかったわ。今日ここに来るはずの子が来れなくなって困っていたんだ。あんた、体型が華奢だから美少女着ぐるみを着なさいよ! そうすれば警察には突き出さないから!」
なんと自分の夢が叶えられるというではないか! ラッキーだとおもったけど、それが悪夢の始まりだとは気付かなかった。
綾音に言われるまま自分はシャワーを浴びさせられて戻ってきていた。するとそこには鬼瓦のような顔をしたいかつい大男が待っていた。
「あんたか? 出歯亀ヤローは。まあ、未遂なので赦してやるから、代わりにあんたが美少女着ぐるみの内臓に大人しくあることだなあ、とりあえずこれを着れ!」
そういって渡されたのが肌色の全身タイツだった。着ぐるみさんが好きなので、よく見慣れたアイテムだったが、見たことはあってもこうして触るのははじめてだった。
「着方がわかんなかったらいえよ。とりあえずそれを着てもらわないと話しにならないからな」
男に促されるままに自分は肌色の全身タイツ、略してハダタイを着始めた。そのハダタイは足の指があるタイプで柔らかく着心地のよいものだった。
このとき、なぜか一糸纏わぬ姿から着るようにという指示だったが、ストップが突然入った。
「忘れていた、あんた男だろ! ハダタイを着る前にこれを身に付けろ!」
そういって渡されたのがパットが入ったブラジャーと、股間に独特の形状をしているパットが付いたパンツだった。それが女性特有の胸の膨らみを出し、男性特有のモッコリを隠すアイテムのようだった。
それを着用した自分は。再度ハダタイを着始めた。足の爪先から通していったが、まるで肌に密着していくような快感を感じていた。
自分がハダタイを着ると、なんともいえない拘束感を感じてしまった。それはエクスタジーなのかと考えていると、鬼瓦みたいな男から可愛らしい衣装を渡された。
「はやく、これを着ろ! メイド服だ! もうすぐ開店だからな!」
せかされるがままにメイド服を着ると、男は箱の仲からFRPで出来たような着ぐるみのマスクを取り出して、無理矢理頭に被せてしまった。気のせいかそのマスクは意思でも持っているかのように頭を覆ってしまった。
「結構似合っているじゃないか。どこから見ても内臓が女の子みたいだな」
そういって鏡台の前に立たされたが、マスクの隙間から見える自分の姿は・・・可愛らしかった。いままで着ぐるみのレイヤーの追っかけをしていたけど、自分がまさか内臓になるとは信じられなかった。
そう、うっとりした気持ちに浸っていた時、後ろから同じようにメイド服を着た着ぐるみの美少女が小突いてきた。
「まあ、うっとりする気持ちはわかるけど、仕事仕事! まあ、簡単に規則を言ってあげると、中の人は絶対にしゃべっちゃダメ! 会話は筆談! そしてお客様に迷惑をかけない事、以上!」
その着ぐるみの声は綾音だった。彼女も着ぐるみの内臓になっていたのだ。そしていよいよ着ぐるみ喫茶店のオープンになった。
自分は綾音らと一緒に着ぐるみ喫茶のウエイトレスとして働き始めた。もっとも「見習い」なので、注文されたメニューを運んだり記念撮影したりしていた。
こういったサービス業は接客が重要になるけど、着ぐるみに中の人はいないという設定なので、一切しゃべらずに行動していた。
「そこの青い目をしたアンジェリーナちゃん、こっちを向いてくれない?」
自分が着ている着ぐるみの名前を呼ばれ振り返ったりして、写真撮影に応じていた。それにしても、不思議な気持ちだった。男の自分が美少女扱いされているのだから。
他の美少女着ぐるみも同じように対応していたけど、中身は男というケースもあったようだ。しかし綾音のように美人劇団員が内臓になっていたりしていたので、相手をする客は中身では当たり外れがあったということもあったかもしれない。
この喫茶は一時間働いて一時間休憩するパターンだったので、休憩時間中は着ぐるみの内臓はマスクを外したり、蒸れたハダタイを着替えたりしていたけど、不思議な事に自分は一切マスクをとらなかった。なんとなく身体がだるかったからだ。
「綾音さん、自分っておかしくないのですか? マスクを取らなくても全然平気なんですけど」
「それはねえ、それだけ馴染んでいるってことよ。まあ、ゆっくりと休んでいてね」
そういってマスクを外した彼女は何か嬉しそうにしてジュースを飲んでいた。
裁きを受けるべし!
そんなこんなで、この日の着ぐるみ喫茶の営業は終了した。これで警察に突き出されること無く解放されると思うと気が楽になった。
自分は着替えようと更衣室に入ると、なぜか綾音に呼ばれた。彼女はマスクを着けたままだった。
「良輔くん、今日は助かったよ。でもこれからやってもらうことがあるのよ」
「やってもらうって、何ですか?」
自分はマスクを外そうとしたけど何故か張り付いたように外れなかった。
「どうしてマスクが外れないのですか? まさか汗で張り付いたのですか?」
「そんなことはないよ。でも、これから君には大事な人身御供になってもらうから。そういえば、あなた静香って女の子をストーカーをしていたことあったでしょ!」
このとき、自分は隠された大罪が暴露される恐怖が心の中で沸き起こっていた。
「自分はその・・・でも、静香って子。最近見なくなったんじゃないの」
「ごまかしてもダメよ良輔君。彼女に恐ろしい事をしたでしょ! 可愛さのあまりに憎しみをぶつけて。それで彼女の顔を潰したんでしょ! なんてひどい事を」
「なんで、そんなことを知っているのだ! 静香は井戸の底に・・・」
「やっぱ、あんただったんだね静香に手をかけたのは。これからあなたには裁きを受けてもらいます」
「裁きってなんだ? 警察にでもつきだすのかよ」
「そんなことをしても静香は浮かばれない! 浮かばれるようにしてもらうわよ」
自分は綾音から逃げようとしたけど、いつの間にか他の美少女着ぐるみに囲まれていた。そして俺の両手両足を掴み上げてしまった。
「良輔君にはこれから静香を取り戻す手助けをしてもらうわ。そうそうあなたの身体を使ってね」
その言葉に自分は恐怖に震えていた。静香に自分がした恐ろしい仕打ちを。そう静香はもうこの世のものではなくなっていたのだ。
「さあ、はじめるわよ。ここに静香の魂の源が入った瓶があります。これから、ここにいる初瀬良輔の肉体を使って反魂の呪詛を執り行います。この愚かで穢れた者の肉体を人身御供にします!」
俺は何のことかさっぱり判らなくなっていた。とにかくこの場から逃げ出そうとしたけど、美少女着ぐるみの力は半端なく強い上に、なぜか美少女マスクが顔に張り付いてしまった。俺はあわててマスクを外そうとしたけど無駄だった。
「無駄よ! これから私たちの愛しい静香を取り戻すのだから。そうそう、あんたの魂をあの世に送り返したりしないわよ。そのかわり、過酷な運命をあげるわよ」
そういって綾音は嬉しそうな声をだしたが、これからおきることの意味がさっぽりな自分はただ受け入れるしかなかった。
着ぐるみ喫茶の二階のフロワーには魔方陣の様なものが描かれていた。その中心に自分は寝かされたが、これから起きる事の意味がさっぱり判らなかった。
「でははじめます、創造神様この穢れた肉体と魂を持つものを還元いたしますので、そのかわりに皆に愛されていた原田静香の心身をいまいちど降臨させてください」
綾音の謎めいた呪詛の言葉に物凄く気持ち悪くなってしまった。自分の身体がばらばらにされるような感覚におそわれてしまった。
自分の意識が遠のいていくに従い、身体が激しい化学反応を起こしたかのように熱く燃えているような感覚に襲われていた。それで身体のあちらこちらを触り始めたけどおかしい事になっていた。
自分のウエストにくびれが生じ胸がだんだん大きくなり、かわりに股間のアソコが消え去っていったのだ。そう女性化していたのだ身体が!
一通りの儀式が終わったあと、ようやく一息ついたけど、ボーゼンとした状態に陥っていた。
「俺ってどうなったのですか? それに身体があついけど・・・」
「良輔君、最期だから言ってあげるわね。あんたは静香の心と身体を破壊尽くしたのよ! それで彼女は死を待つだけだったので、わたしが術をかけて魂の源に還元したわけなの。
静香を復活させるために反魂の呪詛をつかったのよ。それに必要な人身御供にあんたの身体を遣わしてもらったわけなのよ。いいでしょ? それであなたは償いをしてもらったからね」
そういうと、綾音はアンジェリーナの着ぐるみを脱がし始めた。だが俺の意識は何故か着ぐるみのマスクに移っている様な感覚で、マスクを外した途端自分の身体の感覚がなくなった。
「良輔君、これからよく見るのよ。あなたが壊した静香が復活しているわよ」
マスクだけになった俺が見たのは・・・俺が半殺しにした静香だった!
俺の身体が静香になっている! そんなことが現実なのか、それよりも俺はどうなるというのだろうか?
「自分」の身体だったものは、静香のものになっていた。ハダタイを脱がすとそれは俺が犯した静香のハダカが見えてきた。
「良輔君。よかったわねえ、あんたが滅ぼしてしまった静香の心と身体が復活したのよ。あんたの肉体と引き換えにしたけどね。感謝するわそれは。そうそう、あんたは喫茶店を出た後消息を絶ったということになるはずだよ。だってあんたの肉体は静香の肉体に成り変わったからね。
一体どういうことなんだ? 俺は動揺していたが一切言葉を話すことが出来ないのでもどかしかった。
「良輔君が壊した・・・まあ死んだともいうわね、静香の身体を使って作ったのよその着ぐるみマスクは。静香はねえあんたに半殺しにされて顔は潰され、内臓も飛び出した状態で私に助けを求めたのよ。それで行ったときには・・・自分で舌を噛み切っていたわ。発作的に自殺したのよね。
それでわたしは黒魔術を使ってあんたに復讐したわけ。でもいいでしょ、死なせた静香にあんたの身体を譲ってやって」
俺は静香に付きまとった挙句・・・無茶苦茶にしたのだ。どうせ俺の女にならないなら一層の事、そう思って・・・残虐な事をしたのだった。
いま俺の身におきたことは、つまりこれは綾音が下した裁きというわけなのか。そう思ったとき、俺の身体を奪った静香は気を取り戻して綾音に抱きついていた。
「綾音姉さん、わたし一体何をしていたのですか? 覚えていないよ何も」
「あなた気を失ったのよ。ほらあなたが楽しみにしていた着ぐるみ喫茶開催の日でしょ今日は。あなたたら、ずーとマスクを被ったままだから蒸せたのよね、きっと」
「そうなのかな? そういわれると私、朝から着ぐるみを着ていっぱいお客さんと触れ合ったり、素敵な男性客の腕を掴んだりして楽しかったわ」
「そうよ、あなた一番はしゃいでいたよね。だからいつかまたしたいよね、着ぐるみ喫茶を」
「ところで、わたしを付けねらっていたストーカー。どうなったのかしら? 呼び出された後なんか酷い目にあった気がするけど思い出せないわ」
「あいつ? 大丈夫よ。あなたが気を失っている間に、厳しく説教したからね、もう二度とあなたの前に現れないようにと誓わせたからね。もう二度と見ることもないよ」
「本当?」
「ええ本当よ。あなた来月結納なんでしょ! そしたら花嫁修業でも始めるんでしょ!」
俺は二人の会話をマスクに閉じ込められて意識として聞くほか無かった。もう自分で動く事も話すことも出来なくなってしまった。静香に俺の身体を奪われたからだ。
「綾音姉さん、わたしが今日被っていたアンジェリーナちゃんのマスクを貸していただいてありがとうございます。お返しいたします。ところで、そのマスクはこれからどうするのですか」
「そうだね、これからは私のお店のインテリアとして飾っとこうかな? 結構出来も良いし。まあ他の人にはかぶれないようしとくは。折角の傑作だから」
そうやって綾音は自分の店に帰ってくると、占いコーナーの壁にマスクをかけながらこういった。
「良輔君、あんたはそのマスクの形が崩れるまで、ずーと魂は閉じ込められるのよ。まあ、あんたぐらい酷い奴が被ったら復活するかもね、静香みたいに」
俺はそれからというもの呪詛の着ぐるみマスクとして存在する事になった。このマスクから魂が解放される日を待ち続けた・・・