第五十三話
「少しだけ怖さもあります。あれだけ強いですから」
「仲間ですよ?大丈夫」
『今はね』、とレディリオスは己の中でそうつぶやく。ゼロには王国の敵になってもらわねばならない、と彼は考えた。王国だけでなく世界を奪っていくためである。『そのための犠牲にはちょうどいい。勇者の敵、いいじゃないか』、と自分の都合をゼロに押し付ける。レディリオスの裏の顔が見え始める。
「そのゼロ殿だがどうもいい噂を聞かない」
「え?でも私がここに召喚したんですよ?」
エレンにとってはさして重要な情報でもないがレディリオスやリリアにとってはそうではない。ゼロはこの世界にいて、目的に合致したためにわざわざ召喚されたと二人は考えた。日本を知っている訳がないため当然の事だ。
言葉巧みにエレンを導くレディリオスは、ゼロをどうするか決めた。それもこの短い間の情報でだ。
「召喚したという事だが以前から王国で危険視されていたようだ。彼が魔物を操っていただとか大量殺人を行っただとかね。ただ今までは容姿は多少わかっていてもあまり情報が無かったのだ。勇者殿が連れてきた際にまさかとは思っていたが」
「そ、そんな…。ゼロさんが?でもあれだけの強さだし……」
自分の思いがわからなくなってしまい、どんどん考え込んでしまうエレン。そこを逃す者はいない。
「しかし現状では即犯人と断定もできない。今少し様子を見て倒さなればならない」
「まだ確定じゃないんですか?」
そこには一縷の望みを待っている顔のエレン。それに応えるための策はある。
「確定じゃないよ。今は見極めているところさ」
「よかった…」
不審な点を上手く突き、良い具合に不和を植え付ける事に成功したようだとレディリオスは確信した。リリアもレディリオス側であるため内心は笑っているが当然顔には出さない。そして話題の転換をする。エレンに考える時間は与えない。
「見えてきました。あれがヴォルテリアです」
ヴォルテリア。王都との物流が盛んであり、周りも鉱山や自然に囲まれている。そのため冒険者の利用も多く、人の交流も多い。特に大きな外壁がある訳ではないが、魔物用に見張り台が多数設置されている。
オルダイト山から魔物が襲ってくるという事もないためか安定をしている。
「今日のところは王家が持っている屋敷で休もう。そして情報を集めた後にオルダイト山に向かう。それでいいかな?」
「っ!はい!」
少し考え込んでいたエレンは頭を切り替え、なんとか返事をした。
屋敷の中でも防諜等の様々な対策が取られた部屋。薄暗い中、そこで二人が話している。
「思っていたより勇者の娘は単純に深みにはまってくれたようだ」
「それは好都合です陛下。それと急に私を呼びだしたようですがどうされたのですか?」
「ゼロとか言う輩を確かめろ。場合によっては始末や犯罪者にしてもかまわん。その都度私に報告しろ、いいな?」
「承知しました陛下。現在支配できた魔物の中でも強いのをぶつけてみましょう」
「実力が計れればそれでいい。貴様らのラグスでの失態をまだ忘れたわけではない」
「も、申し訳ありません。まさかあのゼノピアの父が裏切るとは思いませんでしたので」
「ふん。我もそう思っていただけに憎い。とにかく今後は事を起こす際、必ず相談に来い。特にゼロの処分は絶対だ」
ルンハルトの与り知らぬところで王家は乱れてしまっている。しかし彼を責める事はできないだろう。なにしろルンハルトが心配していなかった一人の者が全て画策しているのだから。




