第一話
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普段から冷静である九条は、内心で一人悩んでいた。高校三年生になった彼は、部活もいよいよ集大成であり、また進学等に向けての選択を迫られていた。大学に行くことで勉強を頑張る、続けて部活を頑張ることも選択できる彼であったが、
「乗り気にならないんだよな……」
と誰に言うわけでもなくつぶやいた。生活や勉強、運動においても平均以上にこなせる実力を九条は持ってはいたが、今までほとんどのことをそれなりの努力で済ませることができていた彼にとっては、夢どころか『これをやりたいんだ』ということですら曖昧にしか考えることができなかった。周囲の喧騒の中、教室に残る彼は、机に置かれた未記入の進路表を眺めつつ、それの空欄を埋めるべく悩むものの一向に書けそうにはなかった。幸いなことかは別にしても提出日は明後日であり、また先ほどおこなわれた教師との二者面談においても、『悩めることは悩んでおけ』となんとも無責任ともとれるありがたい言葉をもらっており、提出日を多少過ぎようとも問題はありそうになかった。
九条は部活の遅刻がこれ以上長引かないように練習へ向かうべく立ち上がり、荷物を持とうとしたが、部活用の荷物だけがそこにはなかった。今日は始業式であり、放課後が長く、練習時間も長く取れる日であったが、昨日まで合宿兼練習試合が行われていたために彼の部活だけ休みであった。部活のレギュラーである彼はあまり放課後に時間を取られたくはなかったし、顧問も同じ考えであった。そのため顧問が教師に話をしてくれ、時間をとれる今日に面談をおこなったのであったが、そのせいで部活の休みを忘れるほどまでに悩んでしまったのかと思うと、自然とため息が出た。
とりあえず帰ってからゆっくり考えようと思い直した九条は、かなり早い帰宅となった。彼の家族は両親が共働きであり、同じ高校の一年生になる妹はいるものの今日はピアノの習い事に行っているため家の中には誰もいなかった。自室に向かい、荷物を掛けた彼はベッドヘと寝転がった。仰向けになると
「将来もだがやりたいことか。深く考えたこともなかった」
と言い、彼は瞼を閉じ、今まで以上に真剣に考え始めた。時間にして2,30分ほど真面目に考えた彼は、ありきたりな感じではあるものの、勉強と部活をやるために進学するという結論になった。『きっとこれじゃダメなんだろうな』と思いつつも、現時点では考え付きそうにもない。両親にでも相談してみようかと思い、時計の方へと視線をやると、両親や妹が帰宅する時間まではかなりの余裕があった。そこで気が緩んだのか合宿での疲れがとれておらず、さらに進路で悩んだ彼に眠気が襲ってきた。目覚まし時計を両親たちが帰ってくる20分ほど前に設定すると、彼は眠気に任せて睡眠をとることにした。これが地球で最後の日になるとは知らずに。
不安を覚えながらも書き上げました。
次もよろしくお願いします。