魔法少女ディヴァインシーカー -Ⅰ-
●いつもの
草木も眠る丑三つ時…闇夜を駆ける影が二つ。
一人は金色の髪を横で纏めた少女…
一人は黒い獣の姿をした…………俺。
描写に力が入ってないのは勘弁してくれ…バイト帰りで正直眠いんだ。
っと…脇道に逸れてしまったので本筋に戻すが
俺は今、レミ…この金髪ツインテールの女の子と、深夜のパトロールをしている真っ最中だ。
経緯を話すと長くなるので、省かせてもらうが…
今までしがないただのコンビニアルバイトだった俺の人生は、ある出来事をきっかけに大きく変化した。
深夜中心だったシフトを夕方から深夜半ばまでに変えて貰い…退勤後はこうして街の平和を守るために飛び回り…
正義のヒーローとまでは行かないが、ダークヒーローぐらいは名乗っても良いんじゃないかっていう程度の活躍をしている。
これが今の俺の日課だ。
レミ「居た!あそこ!!」
と…ナレーションをしている内に、早くもレミが対象を見つけたらしい。
俺「女の子に対して、男が三人……やばいな、もう襲われかけてる」
レミ「急ぐわよ!」
俺が状況を確認して…それを言い終えるよりも早く、レミが現場に向けて飛び降りる。
ちなみに……レイプと言う行為は、レミにとって許せない犯罪ベスト3らしい。
まぁ、レイプを許せないと言うのは俺も同意見なんだが………
俺「そのくらいにしといてやれよ。まだ未遂なんだから、半身不随…じゃなかった、半殺しで許してやるんだろ?」
レミの場合…放って置くと本当に殺してしまいそうになるので、俺は気が気では無い。
と言うか、現に…俺が辿り着くまでの間に、レミは一人目の男を半殺しにし終えて居た。
俺は双方の間に割って入り、レミをなだめるのだが……
不良A「な……何だあれ」
不良B「ヤベェ…逃げるぞ!!」
獣が喋る…その異様な光景を目にしたためか、残りの男達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまう。
あ、いや…喋らなくてもこのサイズの動物を見たら逃げ出すか。
女の子「ヒッ……ゃ…助け……」
……と言うか、助けられた筈の女の子まで怯えさせてしまったようだ。
俺「ぁー……んじゃ、俺はあいつ等を追いかける。レミはその子を頼んだぞ」
レミ「判ったわ。ギッタンギッタンにしてやりなさいよ!」
俺「おう、任せとけ」
被害者の子をこれ以上脅かしてもいけないし、男達をレミに任せて置くのも危ない。あ、勿論男達の方が危ないって意味な?
…と言っている間に俺は男達に追い付き、そこから更にその進行方向へと先回りする。
なぁに命までは取りはしない。そうだな…両足でも折って全治一ヶ月って所か。
仕事の早さには自信がある。コンビニ店員から逃げられると思うな!!
レミ「はーい、ご苦労様」
俺「そこはお疲れ様だろ」
レミ「良いのよ、今のアンタはアタシの眷属なんだから」
と、ここまでの会話を聞いて貰えば察して貰えると思うのだが……
そう…今の俺は、かつてレミの眷属だったダークチェイサー達の代わりをしている。
何故そんな事をしているかと言うと…
まぁ、先の戦いでディーティーという悪人を倒すために、俺がそいつらを取り込んでしまったのが原因なんだが…
レミ「あ、ちょっと待って。この声………」
おっと、こんな話をしている場合じゃなかったようだ。レミはまた新たな事件を見つけた様子。
しかもこの反応は……
あ、そうそう…先にレミの事を説明しておこう。
コイツはレミ……ハーフの外国人で、ハルの…俺の恋人の親友だ。
先の戦いでは、魔法少女の親友にして悪の黒幕……かと思いきや、本当はただの良い奴だったというオチを叩き出してくれた、変則キャラである。
見た目は、さっきも言った通りの金髪ツインテールの…青い瞳に縦に切れ長の光沢を映す、美少女。身体には漆黒のダークチェイサーを纏っている。
性格は…結構面倒見が良く、フランクながらも色々弁えていて人当たりは良くて……何故か、本人曰く俺の二号らしい。
あと付け加えておくと…好きな物は動物とダメ男。
嫌いな物…と言うか、嫌いな犯罪は…ベスト3がさっき言ったレイプ、ベスト1が殺人。
そして今回の反応を見る限り、この先で起こっているのは…ベスト2の………
レミ「アンタ達!何してんのよ!!!」
ゴロツキA「あぁん?何だこのアマァ」
ゴロツキB「何そのカッコ。痴女?痴女なの?」
いや、素肌に見えるそれはただの肌色の強化皮膜だ。ダークチェイサーのな
レミ「アタシの事なんてどうでも良いのよ!それよりアンタ達、何してるのかって聞いてんのよ!」
おっと、また話しがずれてしまったな…話を戻して説明しよう。レミの嫌いな犯罪…そのベスト2は………
ゴロツキA「見て判んねぇのか?」
ゴロツキB「ストレス発散だよ、ストレス発散。何?お前もヤりてぇの?」
動物虐待だ。
汚い口から反吐のような言葉を出しながら、子犬を蹴飛ばすゴロツキ共。
当然ながら俺の胸の中には、怒りの感情が沸き起こる……のだが…
そんな俺の怒りすらも、レミの前では…とてもささやかな線香花火のような物らしい。
あぁ…目が完全に本気だ…キレちまってるよ、久しぶりにな………
レミ「一つだけ選ばせてあげるわ………二ヶ月かかるのと、二ヶ月残るの…どっちが良い?」
結果だけ言えば……ゴロツキは二人とも両手両足複雑骨折、歯が全損。ゴロツキAはそれに加えて右肺破裂に、ゴロツキBは肋骨全損。
さすがにこのままの状態で放置したら死んでしまいそうなので、救急車は呼んでおいた。
と言うか………良かったなお前達、命だけは助かって。
さて、問題は虐待に遭っていた子犬の方だ。
俺「そいつ…大丈夫そうか?」
レミ「結構危ないかも…あんなヤツ等なんかのせいで、こんなに酷い目に………」
今にも泣き出しそうなレミの頭を軽く撫で…俺は携帯を取り出して、ハルに連絡を取る。
俺「寝てた所だと思うんだが…悪ぃ。子犬が暴行を受けて、危ない状態なんだ」
ハル「はい、判ってます。大丈夫…今治療していますから」
が……気付いた時には既に、ハルは子犬の治療を始めていた。
何時の間に……いや、多分最初から近くに居て見てたんだろうな………
さて、改めて紹介しよう。この子はハル…俺の恋人。
先の戦いで…黒幕であるディーティーに騙されて利用されて、ダークチェイサーを狩らされていた魔法少女だ。
フリルやリボンがふんだんにあしらわれた、ピンク色の服…いかにもと言った感じの魔法少女の衣装に身を包んだ、ピンク髪サイドテールの女の子。
性格は内気で引っ込み思案。ちょっとヤンデレに入るスイッチを持っている…………まぁうん、ストーカーだ。
多分…今日も不可視の魔法で隠れつつ、備考しながら俺達の事を監視してたんだろうなぁ…
あ、ちなみに…ハルもレミも俺のダークストーカーを自称しているんだが……
その辺りの説明は省かせてくれ。
大分端折ったせいで意味不明な所が多いかも知れないが…以上が、魔法少女ハルとレミの説明だ。
ん?俺か?俺は………ダークチェイサーという闇の獣に襲われて、最終的にそれら全員と融合したただの一般人だ。
●あるひの
という訳で………先に説明した通りの日課を終えて、絶賛朝帰りの真っ最中。
寝ぼけ眼を擦りながら、周囲の景色に意識を移し…ふと視界に入ったのは、近所のバス亭。
バス亭………思えば、バス亭でハルに傘をあげた事で始まった今の関係。
もしあの時、バイトの面接が長引かなかったら…もし雨が降っていなかったら。もし………
もしもの話…考え初めても切りが無いし意味が無いのは判っているのだが…ついついそんな事を考えてしまう。
本当、人生何があるか判らない。
色んな偶然が重なって今の俺があり、今のこの世界がある。そう考えると、こう…色々感慨深くなって、胸の奥が締め付けられて来る。
そして…感慨深くなると言えば、バスの向かい側にあるこの大学。色々あって中退したこの大学。
そう言えば、それまでずっと一緒に通っていたアイツは、今どうしているのだろうか?
思い出を掘り起こしながら、アイツの今を思うのだが…どうやらその必要は無かったらしい。
マイ「おや、久しぶりだね」
この通り…噂した所で、見計らったかのような本人の登場である。
俺「お、亜門教授じゃないか。久しぶり」
マイ「何だねその他人行儀な呼び方は。昔のようにマイと呼び捨てにしてくれても良いのだよ」
俺「いやー…一介のフリーター風情である俺が、恐れ多くも天下の大学教授様にそんな」
マイ「…わざとらしい謙遜は止めたまえ。文面通りの尊敬など微塵もしていない事くらい、判っているのだよ」
会話から察して貰えているとは思うが…こいつは俺の幼馴染。
俺がダラダラとフリーター生活を満喫している間に、26の若さで大学教授にまで登り詰めた…自他共に認める天才だ。
俺「だよなー。にしても調子はどうだ?何でもまたナントカ細胞とか言うのを作ったらしいじゃないか」
マイ「キミの言っているのがどれの事を指しているのか判らないね。そのテの研究はもう飽きるほどやったのだから」
俺「うへ…さすがは天下の亜門教授」
マイ「だからその呼び方は止めたまえ」
俺「はいはいっと…と、じゃぁ今は何の研究をしてるんだ?」
マイ「今かね?今は特に仕事では何もしてはいない。強いて言うなら……趣味で、SF…並列世界の研究をしているくらいかな」
俺「並列世界ってあれだよな?こっちの世界じゃなくて、あっちの世界の…―――」
と言った所で、俺は慌てて口を閉ざす。
おっと、いけないいけない。ディーティーやダークチェイサー達が居た世界の事は一般には知られて居ないんだった。
さも当たり前のように口に出したりしたら、変人扱いされるか深く突っ込まれてややこしい事になるのが目に見えている。
マイ「何だねその、さも自分の身近にある物を指すような口ぶりは…」
そして、そこを鋭く突いて来る…マイ。さすがは教授…抜け目無い。
俺「いや、ただの三人称間違いだ。気にするな。って言うかその研究は進んでるのか?」
マイ「進むも何も、机上の空論を頭の中で構築しているだけだよ。いち大学の施設程度では検証以前の問題だからね」
俺「ごもっとも」
と、そこで…俺はふとした事に気付く。と言うよりは思い出す。
俺「あ、じゃぁ暇なんだよな?それなら……ちょっと、本職の方の事で質問したいんだが、良いか?」
マイ「何だね、言ってみたまえ」
俺「再生医学…って、お前の専門だよな?」
マイ「専門では無いが、一通り齧っては居る。今の専門は遺伝子工学だからな」
俺「じゃぁ……不妊治療。例えば、子宮が損傷した場合の再生なんかも……」
マイ「相談に乗る事はくらいは出来るな」
俺「ありがたい。じゃぁ早速なんだが……俺の知り合いの女の子で、その…妊娠が出来なくなって困ってる子が…」
マイ「それは播磨…ハルくんの事だね」
俺「そうそう…って、何でマイがハルの事を知ってるんだ!?」
マイ「以前ハルくん本人から、その件で相談を受けた事があるのだよ。ついでに言うなら、キミの部屋から出てくる所も何度か目撃した」
俺「いや待て、何でお前が俺の部屋の出来事を目撃してんだよ!?」
マイ「ボケたのかね。私の実家はキミのアパートの隣だぞ」
そうだった…俺が借りているアパートは、マイの実家のすぐ隣。間が悪ければ色んな物を見られていてもおかしく無い立地条件。
ここ最近はマイの姿を見て居なかったため、すっかり失念してしまっていたらしい。
マイ「さて、話が逸れてしまったので戻すが…結論から言って、ハルくんのケースはかなり難しい」
俺「何でだ?」
マイ「原因は判らないが……あれは何と言うか、かなり特殊なんだ」
俺「いや、だからどういう事だ?」
マイ「例えるなら…割れたパソコンを木工用ボンドでくっつけたら、何故か電源が入るようになった…けれどもOSが起動しない…そんな感じなのだよ」
物凄い判り難い例えだが…ある意味、物凄い判り易い理由だった。
ハルは魔法少女になる直前にレイプされ…その時に負った損傷を、魔法で無理矢理に子宮を修復した。
……その結果が、今マイが言った事なんだろう。
俺「つまり………」
マイ「うむ…残念ながら力になれそうには無い。可能性で言えば、子宮を全摘出した後に新たに再生した子宮を移植…という手段も無いでは無いのだが…」
俺「さすがにそこまで大掛かりな事になると…」
マイ「移植の段階でリスクを伴い、正常に機能しなくなる可能性すらある。そして……」
俺「あぁ、いや…そこから先は言わなくても良い。ともかく、相談に乗ってくれてありがとう」
マイ「いや、それは構わないのだが………そう言えばハルくんの件で思い出した事がもう一つ」
俺「ん?何だ」
マイ「ハルくんの他にもう一人連れ込んで居るだろう。金髪ツインテールの子を」
俺「――――!!?」
追撃…いや、不意打ちとも言えるマイの言葉により、俺は盛大に咽込んだ。
あぁ、レミの事まで知られていたか…それはそうだよな。ハルの事を知られている時点で、レミの事もばれていて当然だ。
マイ「一回りも歳の違う女の子を連れ込んでいる時点で問題なのに、更に二人目にまで手を出すなど…よもや二人合わせて同年代などと言うつもりでは…」
俺「いや、レミの方には手を出してねぇよ!」
これ以上あらぬ疑いをかけられてはたまらない。当然の事ながら、俺はその件について弁明する。
マイ「ほう、あの子はレミと言うのか…そして、レミ『には』か…」
…………が、それは物凄い自爆だったようだ。余分な一言…いや、二文字のせいで、更に自分の立場を危うくしてしまった。
俺「……………」
マイ「まぁ何だ…男なのだから性欲は持て余し、若い方が良いと言うのはわかるが……程々にしておき給えよ?」
俺「………ハイ」
気遣いなのか、暗に責めているのか…どちらにせよ、そこに反論の余地など全く無かった。
まぁしかし、ここで…手を出して居ないならば何をしているのだ、と聞かれなかった事だけがせめてもの救いか。
ダークチェイサーとのコミュニケーションや、状況観察……そもそもこの世界に存在して居ない物を、他人に説明など出来やしない。
ただ一点……その事だけはばれずに済んだ事に対し、俺は安堵の溜息を零した。
マイ「ところで…」
俺「はい!?」
つい先程まで寿命を縮めるような会話をしていたせいか…俺は慌てて、敬語で返事をしてしまう。
マイ「どうしたのだね?まぁ良い…話は変わるのだが、あの噂は聞いたかね?」
俺「あの噂ってのは?」
マイ「カマをかけたが引っかからなかったか…いや、最近この街で起きているという妙な噂なんだが…」
いや、こいつは一体どんなカマのかかり方を期待したんだろうか…疑惑をかけられた事に不満を持ちながらも、返された内容に思考を向かわせる。
俺「何の事だよ、噂なんて全然聞かないぞ」
まぁ、ダークチェイサーやディーティーの件で手一杯だったからな。正直な所、他人の事件にまで気が回らなかった…そう思って居たのだが…
マイ「黒い靴を履いた少女通り魔の噂…街を徘徊する猫のぬいぐるみの噂…羽の生えたピンク色の少女の噂……」
スミマセン、多分それ全部に心当たりありました。でも言う訳にはいきません。
マイ「後は…そうそう、変な宗教団体が発生しつつあるらしいな」
俺「宗教団体…が発生しつつ…?」
マイ「うむ、妙な話だが言葉の通りだ。新興宗教が設立されたのではなく、発生しつつあるらしい」
通常…宗教団体という物は、誰かの手によって作られる物である。
明確な存在である教祖が居て、そこに教義が存在し……信者が集まって宗教団体が出来上がる。
だが、そんな宗教団体が、発生しつつある……物言いからして、何者かの手によって広められているのでは無く、自然に湧き出ているようなのだが…
俺は、それに対して違和感を覚えずには居られない。
俺「一応確認しとくんだが…民間信仰や地域信仰か何かが、表面化してるのとはまた違うんだよな?」
マイ「それならばこんな物言いはしないよ」
俺「…だよな」
マイ「文字通り…今まで概念すら無かった新興宗教の教義が、老若男女を問わず様々な人の中に共通して存在しているらしい」
教祖が正体を隠して居る?教祖以外何かを象徴として人が集まっている?
と…そんな事を考えるも、今ここで真実に辿り着ける筈も無し。
俺「そりゃまた奇怪な事だな。うーん…まぁ何か耳にしたらお前にも伝えるよ」
とりあえずは当たり障りの無い言葉で返して、話しは一区切り。俺達は軽く挨拶をして別れる。
そしてこの直後……今回の事件が始まった。