魔法少女ダークストーカー -Ⅶ-
●ことのは
俺「ハハ………ハハハハハハ………アハハハハハハハハハハ!!!!」
レミ「な、何なの!?」
ディーティー「ビックリした。何がどうしたって言うんだい?気でも違えたの?」
俺が高らかに笑い声を上げ、二人が驚愕の声を上げる。
まぁ当然だろう。俺が逆の立場だったら確実に正気を疑う。それは判るが、判ってもこの笑いを止められない。
何故か?可笑しいからに決まってる。
何が可笑しいって?俺の馬鹿さ加減がだ!!
俺「そうだな…あぁ、確かにハルが処女じゃなかったってのはショックだ」
俺「子供が産めない原因が俺にあるって思い込まされてたのもショックだ」
俺「ストーキングされてたのもショックだ」
俺「痛め付けられてる所を傍観されてたのもショックだ」
俺「本当もう…ショックな事ばかりで、ハルに対するイメージがメチャクチャになったのも事実だ!」
心の奥から、止め処なく言葉が溢れ出て来る。
俺「だが! そ れ が ど う し た !!」
ディーティー「な…何を言っているんだい?ハルの事を信じられなくなったんじゃないの?どうでも良くなったんじゃないのかい!?だったら…」
俺「それは間違いだった!」
ディーティー「…………は?」
俺「その上で…その上で尚、俺はハルの事が好きだ!むしろ逆に弱みを握れた事で、優越感まで溢れ出て来るぐらいだぜ!」
ディーティー「何だコイツ………自分を騙していた相手に対して………っ…何?……ハルの意識が!?」
俺はハルを指差し、ポーズを決めて言い切る。普段なら絶対しないような恥ずかしい事だが、こうなればもうとことんやってやる。
俺「ハル!俺はお前が好きだ!俺の所に戻って来い!」
しかし今更ながら、何て恥ずかしい愛の告白だ。後で思い出した時、絶対転げ回る事になるだう。
いや………でも違うな、これは俺が言いたいだけだ。ハルが今言って欲しいのは…
俺「ハル…お前にスト-カー気質があって良かったと思ってる!お陰でお前と恋人になれたんだからなぁ!!さぁ、戻って来いよ…俺は全部許してやる!」
ディーティー「……!!!そんな馬鹿な…嘘だろ?…こんな…こんな言葉だけでハルの意識が………馬鹿な!!」
そして…ディーティーの言葉が途切れると共に、また糸が切れたように崩れ落ちるハルの身体。
だが今度は、そんなハルの身体をしっかりと受け止め………抱き締める。
ハル「ごめんなさい……私…私……っ」
俺「大丈夫だ…判ってる…いや、まだ判ってない事があったとしても、後で許す…」
俺の胸の中で、声にならない泣き声を上げるハル。俺はただ、その頭をぽんぽんと軽く撫で……そして立ち上がる。
俺「さぁ…それじゃぁ、さっさと決着をつけようぜ」
ハル「………はいっ!」
●さいごに
ディーティー「ふざけるな…ふざけるなふざけるなふざけるな!何なんだよそれ!どうして僕の計画が何一つ思い通りに行かないんだよ」
自身の身体に戻り、悲痛なまでの叫び声を上げるディーティー。
こんな奴が相手だが、聞かれたならば答えるべきだろう。だから俺は、声を上げて教えてやる
俺「これが何か?それは、愛だ!愛の力だ!」
レミ「………うわー……」
いや、そこでお前がテンションを下げるような声を出すなよ。
ディーティー「っ…………もう良いよ。そんな物に付き合ってられない。今度こそ本当に全部終わらせてあげるよ。君達もそれを望んでるんだろ?」
吹っ切れたように言葉を紡ぎ、それを終えるか否か…ディーティーの身体が、変異を始める。
肥大する体躯………手足はより強靭で凶悪な形状と材質になり、巨大な角が頭部からその姿を現していく。
一目見ただけでも判る…先程までのディーティーとは桁違いの化け物へと変貌している。
だが、おかしい…こんな奥の手を隠し持っていたのなら、何故もっと早い段階で使わなかったのだろうか?
そんな事を考えていると、俺の中のダークチェイサーが…頭の奥でチリチリと焼け焦げるような感覚で、警戒と共にそれを伝えてくる。
俺「成る程……脳までダークチェイサーになる事で、リミッターを解除したって事か」
桁違いの強大な敵…そんな奴を眼前に置きながらも、俺の精神は至極落ち着いていた。
何故か?それは………
そんな奴が相手でも、負ける気がしないからだ
俺「皆!俺の所に来い!」
俺の掛け声と共に集結する、ダークチェイサー達。
俺の身体は瞬く間にこいつらに包み込まれ、一匹の獣のような身体を形成する。
今や全身がこいつらであり、こいつらこそが俺
ダークチェイサーの大本と一体化した俺は、掛け算式にこいつらの力を引き出せる。
思い込みでは無く、本当にそれが出来る。
俺「さぁ行くぜ、キモマスコット!」
そして、宣言すると同時の体当たり。
ディーティーの巨体はいとも容易く吹き飛び、廃工場の支柱にぶつかって互いに捻じ曲がる。
だが俺は攻撃の手を緩めない。緩める必要も緩める気も無い。いや、緩めたくない。
右、左、右、左。巨大な爪が相手を引き裂き肉片を飛び散らせ、尖った牙が噛み千切る。
その猛攻にディーティーは成す術も無く………いや訂正しよう、一つだけあったようだ。
突如背中から翼を生やし、それを大きく広げた。
何をしようとしているのか、それは手に取るように判る。
次の瞬間……予想通り、ディーティーは屋根を突き破って空へと逃げる。
その速度は凄まじく、瞬く間に豆粒のようなサイズになっていくのだが……
問題は無い。
相手は翼を生やしたが、俺にはその必要すら無い。
ただの一度の跳躍で頭上に回り込み、一蹴で地面に叩き落す。
今は俺こそがダークチェイサーだ…闇の追跡者から逃れられると思うな!
俺「さぁ…最後はお前が決めるんだ。ハル!」
ディーティーは俺の掛け声と共に巨大な目を見開き、俺の背後の存在に視線を向ける。
そして、その先で視線を迎えるのは………
杖を構えたハルの姿。
その杖の先端には、光の刃ではなく光の輪が形成され、更にその中心からは眩い光が放たれている。
ディーティー「いや…だ……イヤダ、イヤダァァ!!!」
ディーティーの中の、辛うじて残っている知性がその危機を感じ取り…逃げ出そうとする。
だが俺はその頭を掴み、天へと掲げる。
俺「一つ教えてやるよ…自分がされて嫌な事は、他人にもしちゃぁいけないんだぜ。やられたくなけりゃぁ、やるんじゃねぇよ!」
そして……それを言い終るか否か、ディーティーを貫く一筋の閃光。
その閃光は、一欠片も残す事無くその存在を消滅へと導き……
ディーティーとの戦いに終止符を打った
●おしまい
レミ「いっやー…本当、一時はどうなる事かと思ったわ」
俺「一時だけか?常時ハラハラしてたように見えたぞ?」
レミ「言わないでー………でもまぁ、ハルの方の問題もちゃんと解決できたみたいだし。一件落着かな?」
俺「あぁ、そうだな…ここに辿り付くまで、長く険しい道のりだったぜ。でも、だからこそ俺達の絆がより強固な…本物の絆へと変わったんだよな」
折角なので、ちょっと格好良い事を言って決めてみる
レミ「あ、ゴメン。全部解決した訳じゃないわ」
が、レミの一言で台無しになった。
ハル「え?何?レミちゃん…まだ問題があるの?」
そして…唐突に発せられたその言葉に、気が気では無いハル。
まぁ、あれだけの事があって…更にまだ続きが残っているとなれば、当然の反応だろう。
レミ「ダークチェイサー達の事よ。あの子達、彼と完全に一体化しちゃったでしょ」
俺「…あー………」
言われてみればそうだ。元の人間の姿に戻ってから、分離するのを忘れて…いや
俺「……分離…出来ない?いや、分化は出来るけど、根幹が俺から離れない?」
ハル「えぇ………」
レミ「って事で…返してって言っても、返せる状態じゃない訳よね?」
俺「すまん………そういう事みたいだ」
困った…ディーティーを倒すためとは言え、調子に乗りすぎてやり過ぎていた。
考えてみれば、こいつらはレミの眷属や家族みたいな物……居なくなってしまって、はいそうですかと納得出来る物では無い。
と言う事は、つまり………
あぁ、ここから先の流れが大分読めてきた。
レミ「じゃぁこうしましょうか。アンタ、あの子達の代わりをして」
俺「………はぁ!?」
うん…正直予想出来た範囲だが、足元を見られないためにも大袈裟に驚いておこう。
レミ「別に四六時中とは言わないわよ。アタシが必要な時だけ」
よし、演技の甲斐あって譲歩してきた………と、思ったが…正直甘かった。
俺「必要な時って言うと?」
レミ「そうね…例えば、欲求不満の時とか」
俺「…………は?」
舌舐めずりをしながら、流し目を向けて告げるレミ。
ハル「え?……それって………つまり。レミちゃんが…彼と………」
レミ「うん、そういう事。あの子達で出来なくなったった事を、ちゃぁんとしてもらわないと…ね?」
レミからの要求は、完全に俺の予想外……色んな意味でぶっ飛んでいた。
ハル「駄目!駄目駄目!そんなの絶対だめ!」
レミ「あら、何で?ハルにそこまで束縛する権利があるの?」
ハル「それは……わ、私は彼の彼女だから!」
レミ「じゃぁ私は二号で我慢するわ」
ハル「え…えぇぇぇ……!?」
おい、俺を置いてきぼりにしたまま話を進めるな。
レミ「ま、私達がどうこう言おうとも…最終的な決定権は彼にあるんだけど…ね?」
その通りだ。俺の事なんだから俺に決めさせろ。
……ん?いや待て?逆に言うと、それって俺の決定に責任が圧し掛かって来るんだよな?
レミ「ほら、ハーレムって男の浪漫でしょ?嫌?」
しかも………これって、誘導尋問じゃないか!?
止めろ!そんな質問の仕方をされたらボロが出るに決まってるだろ!?
えぇい…くそっ!そっちがその手で来るなら、こっちから打って出てやるさ!!
俺「……嫌じゃぁ無い。そりゃぁ当然な」
ハル「!?」
俺「だが、俺はハルの恋人だ!」
ハル「………!!」
レミ「うん、勿論それで良いわよ。ハルは彼の恋人で、私は二号。何なら……お試し期間してみる?」
俺「…………………」
ダメだコイツ、一歩も譲る気が無い。どうする…こうなると俺も突き放しきれないぞ?
…よし、こうなったら最後の手段だ
俺「いや………それは……………そうだ、ハルが許すんなら!…って事で」
うん…逃げた、逃げました。正面から戦っても押し負けるに決まってるんだから仕方ないだろ?なぁ!?
ハル「…………」
あぁ…ハルがジト目で見て来る………さすがにこの状態での追い討ちは勘弁してくれ…
こんな状況だと、男はどうしようもないんだ。
ハル「ねぇ…レミちゃん…やっぱりレミちゃんが彼を好きになった理由って…」
レミ「うん、ハルが……一目惚れした理由じゃなくて、依存しちゃった方の理由も…」
何故か…横目で俺の方を見て、再び顔を合わせる二人。
レミ「…言っちゃう?」
ハル「うん…やっぱり隠し事は良く無いかもって…思うし」
そして、向き合ったまま二人が手を握り……再び俺の方を向いて
ハル&レミ「「ダメ男、だからだよね」」
物凄く言い笑顔で言いきってくれた。
………え?
え――――…………何?何か俺の立場が酷い事になってないか?
いや、違う。むしろ最初から酷い認識をされてたって事かこれ?!
ハル「そう言えば…大分話は戻るんだけど。レミちゃんも、彼の正体を探るために何ヶ月も観察してたんだよね?」
レミ「え?あ、うん」
ハル「じゃぁ…レミちゃんも私と同じ、ダークストーカーだね。うん…お揃い」
レミ「えぇっ!?う…うーん。ま……まぁ、それはそれで良いかもね」
いや、良くないだろ…
と……そんなこんなで二人に増えた、俺のダークストーカー達。
思えばダークチェイサーとの遭遇…もとい、ハルと言うダークストーカーとの遭遇から始まった…俺達の異常な関係。
………いや、違うな。それだと俺が巻き込まれたみたいだよな。
きっかけはどうあれ、ハル…おまけにレミと一緒に居る事を俺が自分で選び、辿り着いた今のこの関係。
結果的に、俺の受難はまだまだ継続が確定…と言うか、深刻化する事が約束されたような物なんだが………
俺「………あぁくそっ、こんな俺でも良いなら好きにしろ!どっからでもかかって来やがれ!!」
正直な所…そんなに悪い物では無いと思っている。
魔法少女ダークストーカー ―完―