表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女DS  作者: 壱壱零五
第一部 魔法少女DS
3/28

魔法少女ダークストーカー -Ⅲ-

●ふたりは


俺「待ったか?」

ハル「いえ、今来た所です」


最初のダークチェイサーの襲撃…ハルとの出会い…あれから二ヶ月。俺達は何かある度に落ち合って、作戦会議を行うようになっていた。


まぁ作戦会議とは言っても、普通に食事をしたり買い物をしたりしながら今後の対策を話し合うだけの…ぶっちゃけ、デートのような物だ。


とまぁ、ここまで言ってしまえば察して貰えるとは思うが…実質上、俺はハルと付き合っているような形になっている。

こうしてプライベートで会ってデートは勿論の事、手を繋いでキスをして………まぁあれだ、男女の関係になるに至っている訳だ。


そして今日も、いつものように俺の部屋にハルが泊まり………


寝付いたハルをベッドに残し、俺はベランダに出る。

夜風に当たるついでに夜空を見上げ…ふと、ベランダの椅子に座るディーティーの姿を見つけた訳だが…


ディーティー「そう言えば、以前ダークチェイサーにやられた怪我の調子はどうだい?」

俺が話を振るよりも先に、ディーティーの方から質問を投げかけて来た。

こいつが俺の心配をするなんて珍しい………何か悪い物でも食ったか?


俺「ハルのお陰で全く問題無しだ。さすがに痕は残ってるが、後遺症みたいな物は無さそうな感じだな」

ディーティー「成る程…ハルの魔力は予想以上だね。まさか、肉体に染み込んだ瘴気をここまで浄化するとは…本当なら今頃は……」

前言撤回…こいつは俺の身体じゃなくてハルの力の方に興味があったようだ。


俺「なぁ…ところでディーティー。一つ聞いても良いか?」

ディーティー「内容によるね」

俺「お前ってさ…俺達がしてる最中は何してるんだ?ってか、俺達のって、異世界のお前らから見てどうなんだ?」

ディーティー「………下世話な事を聞いてくれるね」

俺「お前の質問も五十歩百歩だろ」


ディーティー「…まぁ良い、答えてあげるよ。別に特別な事はしてない、事の最中はこうやって気を利かせて姿を消して外に居てあげてるくらいさ」

意外や意外…まるで常識人かのような対応だ。しかしそれ以上に、この後に続く…

ディーティー「それと…今はこんな姿をしているけど、元はこの世界の雌と同じような姿だからね。別に違和感とかそういうのは感じないよ」


その言葉に俺は驚愕した


俺「…………」

ディーティー「…どうしたんだい?」


俺「お前!女だったのかよ!?」


ディーティー「…君は僕を何だと思って居たんだ。よく考えてもみたまえよ…ハルと日常生活も一緒に居る僕が、男だとでも思っていたのかい?」

俺「それも…そうか。いや、ぬいぐるみみたいな外見だから気にして無い可能性もあったかも知れないが…」

衝撃の事実に戸惑いを隠せず、半ば混乱した状態で思考する…が、いつまでのこの話題で止まっていても仕方ない。

気持ちを切り替え、本題とも言える次の話題に移る。


俺「あー……うん。んじゃ次、ハルの事なんだが…込み入った事を聞いて良いか?」

ディーティー「内容によるね」

もはや定番と化したディーティーの相槌である。


俺「ハルってよぉ…来て無いよな?アレ。って事は、だ…出来てんのか?それとも、まだ…なのか?」

ディーティー「………曖昧過ぎてとぼけたくなる質問だけど、あえて察してあげよう。僕としても、君が気付かない事に苛立ちを覚えていたからね」

俺「って事はやっぱり…」


ディーティー「違う。そもそも機能していないんだよ」

俺「………は?」


予想だにしなかったディーティーの言葉に、頭が真っ白になる。

機能していない…キノウシテイナイ…つまりはあれがアレで………妊娠その物が出来ないという事だ。


俺「それはまた…何で……」

好奇心とは恐ろしい。聞いてはならない事、聞かない方が良い事も、全ての思慮がその欲求に塗り潰されてしまう。

ディーティー「負傷したからだよ」

俺「いや、待てよ。負傷したからって…治せるんだろ?現に俺の怪我だって…」


ディーティー「技術と魔力さえ足りていれば…ね」

俺「何だよその言い回し。まるで………」

ディーティー「治療は手術と同様に精密作業なんだ。その行使には膨大な魔力を使うし、足りなければマトモな治療なんて出来るはずが無いだろう?」



………察してしまった。


俺「それってつまり………大掛かりな治療を行った後は、それに比例した魔力が失われ…防御にまで影響が出る……って事…だよな」

ハル「気にしないで下さい。全部私が決めてやった事ですから」


俺「ハル!?起きて……」

俺達の話し声で起こしてしまったらしく、そのまま会話に加わってくるハル。

心なしかその表情は…穏やかながらも、どこか影を持っていた。


ディーティー「すまないねハル。僕の口から言うべきでは無かったかもしれないのだけど…」

ハル「ううん、良いの。私からは言い出せなかったけど、隠しておくのも辛かったから」


俺「ハル……その…」

ハル「さっきも言いましたけど、気にしないで下さい。貴方が悪いんじゃありません。これも私が決めた行動の結果ですから」

行動の結果…ここに至るまでの何が悪かったのだろうか。俺を助けた事?俺を治療した事?そもそもディーティーの尻拭いをしている事?


ダメだ、責任転換にばかり気が向いてしまう。でもそうせずには居られない。

そして、そんな俺の心中を察したのか……ハルは、後ろから俺を抱きしめ…


ハル「じゃぁ……もし貴方がその事を気にして、自分を責めてしまいそうになるなら…代わりに、その分私を愛してくれませんか?」

贖罪の言葉を俺に告げた。


俺「……あぁ…勿論だ……」

ハルの言葉に、俺はそう答えるくらいの事しか出来ない。

自分の不甲斐無さと無力さを痛感する中…俺達を見るディーティーの瞳が、何故か無感情で無機質な物に見える。


逃げるように…ディーティーからでは無く現実から逃げるように、ハルを抱き上げて寝室へと戻る俺。

そして…その後、俺はハルを何度も何度も愛し……意識を失ってからは、夢を見た。



●ゆめから


雨の日のバス亭…面接帰りの俺は、帰りのバスを待っていた。


今回も駄目そうだな…俺に向いてる仕事なんてあるのか?

そんな事を考えながらため息をつくと………ふと、隣に居た人物が視界に入る。

この雨の中、傘も差さずにずぶ濡れの女の子。髪はセミロングのストレート、前髪に隠れて顔はよく見えない。

夏服の制服は雨に濡れてびったりと張り付き………

何故か、本来の俺なら真っ先に感じる筈の……エロさを感じるよりも先に、その様子が心配になってしまった。


何故だろうか…今日の俺はどうかして居る。面接に落ちたのが程ショックだったんだろうか?

…とか考えて居ると、俺の待ってたバスがバス亭に到着した。


俺より先に居るにも関わらず、女の子がバスに乗り込む様子は無し

…この女の子の待つバスはまだのようだ。


まぁ、降りてからは家まで近いし…と言うか、この子もこれだけずぶ濡れになってたら今更なんだが…


俺『俺、もう使わないからやるよ』

そう言って半ば無理矢理に女の子に傘を押し付け、俺はバスに乗った………



●らいばる


俺「最近…あんまり奴等に遭遇しないよな」


ハル「そうですね…私としては助かっていますけど」

ディーティー「僕としてはあまり喜ばしい事では無いね。襲撃が少ないと言う事は、奴等を殲滅する速度が落ちているという事だからね」

俺「で…それと関係してるのかどうか判らないんだが、最近何かここら辺の治安が悪くなってないか?」

ハル「ダークチェイサーが、私達に気付かれないように活動してる可能性…ですか?」

ディーティー「何とも言えないね。奴等の中には、そういう活動を出来る物が居るかもしれないし…逆にただの杞憂かもしれない」


俺「そう言えば、奴等って…一体何匹居るんだ?まさか、無限に増えたりしないだろうな?」

ディーティー「確認されている個体数は126体…内78匹は殲滅済みで、生殖能力は有していないからその点は心配要らないと思う」

俺「と思う…か。頼りないな」


ハル「あ、もうこんな時間…すみません、そろそろ失礼しますね」

いつも通りの作戦会議…いつも通りの会話。ただ今日はハルの補習が重なり、結論の出ないまま途中でお開き。


ちなみに、ここまでの経緯を軽く説明すると


……話を遡る事二週間前。それはハルが学校を休んでいると知った日の事だった。

ダークチェイサーの出現頻度も落ち、ハルと過ごす日が多くなったある日…平日にも関わらず一緒に居て大丈夫かと、俺から聞いたのが事の始まり。


ハルの話では…狩猟者としての活動が忙しかったため、学校を休んでいた…と言う事らしいのだが…

幸いな事に、ここ最近は奴等の出現頻度も下がっていたので…登校を促してみた…と言う訳だ。


最初は復学にあまり乗り気ではなかったハルだったが…学歴はやはり大事だと言う俺の説得…

それと、俺の言う事だからと唆したディーティーの助力の甲斐あってか、今では勉強の遅れを取り戻すため補習に出る程になってくれた。


ただ…俺はと言うと。


今までハルと一緒に過ごして居た分、一人の時は何をしていたかさえ忘れてしまっている有様。

改めて…自分の中にあるハルの存在の大きさを実感しながら、アイスコーヒーを口に含み……


女子校生「オニーサン、ハルの彼氏だよね?」

そのコーヒーを、今度は一気に噴出した


女子校生「うわっ、危なっ!いきなり何するの!?」

俺「いや、それはこっちのセリフだ!何だ!?何なんだいきなり!?」

むせながら飛び出す声を抑え、改めて声の主をを視界に収める。

金髪のツインテールに青い瞳。制服は…ハルの学校と同じ制服。おまけにタイが青い所を見ると、ハルと同学年という事が判る。


女子校生「オニーサンってハルの彼氏でしょ?一緒に居る所よく見たから、声かけてみたんだけど…でも、いきなりコーヒーシャワーが来るとは思わなかったわー」

俺「何故それを………いや、一緒に居るからって彼氏とは限らないよな。親戚の叔父さんかもしれないだろ?」

ハルの世間体もある以上、下手な事は言えない。危うい橋ながらも、ここははぐらかす事にしようと決めたのだが…


女子校生「叔父さんとラブホ入るってのはちょっと問題じゃない?」

無駄だった。女子校生が手にした携帯には、俺達がホテルに入って行く姿がバッチリと映されている。

しかし、よりにもよって数回しか使ってない内の一回を目撃されていたとは…迂闊にも程がある。


俺「……何が目的だ?金なら無いぞ」

女子校生「やーだー、そんなのじゃ無いって。ちょっと聞きたいだけ。ねね、ハルとはどこで出会ったの?どんなきっかけで付き合うようになったの?」

俺「そんなの俺じゃなくてハルに直接聞けば良いだろ」

女子校生「それがさー、ハルってあんまりそういうの話そうとしないんだよねー。だから彼氏の方なら話してくれるかなって」


これは…俺から情報を聞き出して、ハルを陥れようという魂胆だろうか?

…とも考えたが、それならさっきの写メだけで十分事足りる筈だ。

少なくとも悪意や敵意のような類の物は感じられない。当たり障りの無い事だけ答えてやり過ごす事に決めた。


俺「んー…俺達の馴れ初めって特殊だったからなぁ…」

女子校生「何それ、興味ある」

俺「俺がちょっとした事故に逢って、そこをハルに助けて貰ったんだ」

即興で考えた設定だが…まぁ、こんな所だろう。実際ハルに助けられたし、嘘は吐いて居ないので…ボロも出ない筈。


女子校生「へぇー…………じゃぁついでに聞きたい事があるんだけど。ちょっと場所変えない?時間ある?」

俺「それは大丈夫だが…」

女子校生「じゃ、行こっか」

しかし、終わった筈の会話が更に続き…予想外の展開。

邪険にするのも憚られるので、とりあえずは女子校生について行く事になったのだが……


人間、二つ返事でホイホイと着いて行く物では無い。もしかしたら行き先が地獄の可能性もあるのだから…by俺



連れて来られた場所は、先の写メの場所…ホテルの中だった。

無人受付なせいで途中で止められる事も無く、俺自身も逃げ出す事も出来ずにここに居る。


女子校生「で、オニーサン…さっき言った質問なんだけど…」

と言いながら、おもむろに服を脱ぎ始める女子校生

俺は一瞬それを見てしまうも、罪悪感から目を背ける。


俺「な、何だ!?というか、何で服を脱ぎ始める!?」

女子校生「ぇー?服着たままシャワー浴びるとかありえなくない?」

俺「何 故 い ま 浴 び る ! ?」

女子校生「汗かいたし」


ダメだ、完全に弄ばれている。


俺「お前は一体何をしたいんだ!質問があるんじゃなかったのか!?」

俺は遂に我慢し切れなくなり、怒鳴り声で言葉を投げつける。

女子校生「あ、アタシの事はレミって呼んでね?あぁうん、質問あったわね、質問。あのさー……ハルじゃなくて、アタシの物にならない?」

レミは俺の後ろに回り込み。背中に身体を押し当てながらそう提案して来る。


………だが


俺「名前呼びは良いとしても、お前の物になるのはダメだ」

そこはキッパリと言い放ち、断る。


レミ「何で?ハルのどこが良いの?何でそんなに頑ななの?」

俺「何でも何も、ハルだからだ。俺とハルの絆は絶対だからだ」

譲らない。


レミ「ハルに助けて貰ったから?」

俺「そうだ」

レミ「ハルが子供産めなくなった事に負い目を感じてるから?」

俺「それも…………いや、何…?」

ん?どういう事だ?何を言っている?何故知っている?俺が言ったのは、助けられた事だけの筈だ


レミ「本当に?本当にそう?オニーサンが思ってるそれ…どこからどこまでが本当なの?」

何を言っている?何を知っている?何を吹き込もうとしている?


俺「レミ…君はどこまで知っている?それに…」

レミ「何者なのか…でしょ?」

そう言ってレミは俺から手を離し…そして、それと同時に感じる寒気……そう、覚えのあるこれは………


俺「ダークチェイサーの瘴気………!?」


レミ「大正解☆」

互いの言葉が終わると同時に、俺は視線をレミに戻し…その光景を見る。

脱ぎ去られた制服が、ダークチェイサー特有の瘴気を持った塊へと代わり…今度はその塊が、レミの身体を覆って服を形成して行く。

黒い外骨格のような外殻を纏い…肌色の皮膜が、残った肌を覆う……異形の姿。

そして………俺はその姿に見覚えがあった。


俺「お前は、そうか…あの時ビルの上に居たのは………いや、遊園地で俺達を見てたのも…まさか」

レミ「またまた正解ー。そう、どっちも…ア・タ・シ☆」


俺「お前…人間じゃなかったのか!?まさか人型の…ダークチェイサー…!?」

迂闊だった。多種多様な形状を持つダークチェイサーの事…その内の一体が人間に擬態していてもおかしくは無い。

その可能性を失念して、敵の術中に嵌ってしまった。俺は、そんな己の愚かさを呪うのだが……


レミ「ブッブー、それは不正解」

俺「……どういう事だ?」

どうやら、俺の考えは外れていたらしい。

ならば一体どういう事なのか…答えが返って来る可能性を期待して、問い質してみる事にした。


レミ「アタシは人間よ?ちゃぁんとこっちの世界生まれの日系ハーフ」

カラコンと髪染めかと思っていたのだが…天然物だったようだ。いや、今はそんな事はどうでも良いか。

俺「だったら何故こっちの世界の人間がダークチェイサーなんかと一緒に居るんだ。お前自身は危なくないのか!?」

レミ「あ、そこで心配してくれんだ…やっさしー。でも大丈夫、この子達は無闇に人を襲ったりしないから」


俺「………………は?」


こいつは何を言っているんだ?人を襲わない?そんな筈があるか。

俺「嘘を吐くな!現に俺襲われたし、遊園地でも…人を殺したじゃないか!!」

レミ「ぁー…それね。…………ゴメン!」


俺「………はっ!?」



何が起きている?何を言っている?謝罪?俺に謝罪?

つまりレミに非が…過失あるという事か?だとしても…敵である俺に何故謝る!?


レミ「あんまりハルの近くに居るもんだから…さ、てっきりハルと同じでアタシ達を殺そうとしてるのかと思って…つい」

俺「つい…で人を殺そうとするな!」


レミ「でもね…ここ数ヶ月アンタを観察してて、間違いだって判ったわ。ディーティーの手先として脅威になるどころか、一般人としてもダメな分類だもの」

俺「いや待て、今何か物凄く失礼な事言われた気がするぞ?」

レミ「事実でしょ?大体、最初の頃にハルと一緒に居た時だって………あれ?…もしかして…」


突然言いよどみ、一人だけ納得したような様子を見せるレミ。

レミ「そっか…ハルが一緒に居たのって、そういう事?でも、だとしたら……」

俺「おい、一人で納得してないで説明をしてくれ」


初対面ながらも、レミの性格はある程度把握出来て居た。

破天荒でマイペース…だが、質問をすれば返してくる素直な子…そういう印象を持っていた。

ただ…それだけに、レミの返答は俺にとって以外な物だった。


レミ「ゴメン…答えられない…」


俺「なっ…」

レミ「えっと…どうしよう…でも下手な事言うと邪魔されそうだし…………あ、そうだ」

俺「……何だ?」


レミ「えーと…まず、今日アタシに会った事は言わないで。でもダークチェイサーの親玉に会った事だけは伝えて」

俺「………それはまた随分と無茶な」

レミ「仮面してたから正体までは判らなかったって言えば良いでしょ」

おっと、先の分析に少しだけ追加して置こう。意外と頭が回る子のようだ。


レミ「それで…ここからが本番。これはありのまま伝えてくれれば良いわ。ちゃんと聞いてて」

俺「おう」


レミ「以前…多分最初の時だと思うんだけどアンタの身体をダークチェイサーの一部…瘴気が侵食したでしょ?」

俺「あぁ、ハルに治してもらったけどな」

レミ「でもそれ、完全に除去し切れて無くて…ちょっとだけ脳に残っているのよね。あの子達の存在はアタシには判るのよ」

俺「何ぃ!?」


レミ「で…万が一アタシの正体がばれるような事になったり、アタシが死んだりした場合は…それが爆発してアンタを殺せるようにしたわ」

俺「…………はぁぁっ!?」

レミ「これをハルに伝えてね。大丈夫、上手く事が運んでくれると思うから」

俺「全然大丈夫じゃねぇよ!?何?俺一気にそんな危ない立場に立たされたのか!?」


レミ「その危ない事態にならないようにすれば良いのよ。頑張って」

と、無責任に言い切るレミ。そして俺の動揺など気に留める事無く、衣服を元の制服へと戻し…

レミ「じゃ、アタシは急用ができたから先に帰るわ。アンタはしばらくしてから出てきてね?」

最後にそう言い残して…マイペースを貫き通したまま部屋を出て行った。


そして、その後の俺はと言うと…



ハル「どうしたんですか!?ずっと探していたんですよ!家にも居ないし、探知魔法からもいきなり消えるし…もしかしたらって…」

物凄い勢いで、ハルに心配されてしまった。


そして当然ならが、起きた事をそのままハルとディーティーに伝える訳には行かず…

レミという少女に会った事、ホテルに行った事はぼかし

伝えるように言われた内容だけを、ハルとディーティーに伝える事になった……のだが



●げきへん


ハル「ありました…そこにあるのが前提で見なければ、気付けない程僅かな欠片ですが…」


俺「やっぱりアイツの言ってた通りか。何とかしてそれを駆除する事は出来無いか?」

ハル「ここまで小さい物だと………それに、今は下手に刺激するとどうなるかも判りません」

俺「打つ手無し…か」


ディーティー「成る程…それは由々しき事態だね。彼の命が係っているとなれば下手な行動は起こせない」

俺が落胆の溜息を吐く中、交わされるディーティーとハルの会話。

だが…おかしい、明らかにおかしい。俺の知っているディーティーからは出てくる筈の無い…ありえない言葉が飛び出して居る。

しかも、俺に向かって声を出しているにも関わらず視線はハルを向き、アイコンタクト…いや、まるでテレパシーでも送っているような様子。


………正直、嫌な予感しかしない。


ハル「うん…判ったわ、仕方ないわね」

ディーティー「判って貰えて嬉しいよ。もしこちらの動向まで知られているんだとしたら、大問題だからね」


あぁ、やっぱり微妙にずれた受け答えが発生してる。これは間違い無く水面下の会話があって…

更に言えばディーティーの意見に、ハルが同調を見せていて………うん…俺の生存が脅かされているのが、否が応でも判った。


となると問題は、一体どこが妥協点になったのかと言う事。

ただ見殺しにされるのか、それとも……


ハル「………」


いや、どうやら今処分されてしまう方向らしく…ハルの手には光の刃が発生した杖が握られている。

どうする?どうすればハルから逃げられる?…いや、逃げるべきなのか?


逃げた結果どうなる?それで安全になるのか?いや、違う。俺の中に爆弾は残ったままだ

ハルを巻き込む可能性どころか、下手したら俺が侵食されてダークチェイサーになってしまう可能性だってある。

足手まとい…いや、障害になるくらいなら、いっそこのまま大人しく殺されてしまった方がハルのためになるのかも知れない―――


そんな考えが頭を過ぎった時……


ディーティー「馬鹿な………念話で嘘を吐くなんて……」

ハルが形成した光の刃が、俺では無く…ディーティーの腹部に深々と突き刺さった。

予想外の光景…予想外の事態を飲み込めず、ただ息を飲む俺。


ハル「ごめんねディーティー…仕方ないの、こうするしか無いみたいだから…」

ディーティー「こんな…まさか……契約を破るのかい…?いいさ…それなら僕にも…考えがある。彼に全ての真じ…」


ハル「黙って」


次々とディーティーに突き刺さる、光の刃……傷口から毀れ出る深紅の鮮血。

断面から臓器のような物は見られない…つまりダメージの程は定かでは無いが…

言葉さえマトモに発する事も出来くなっている様子から、確実に内部に損傷を受け…生命としての機能を脅かされている事は見て取れる。

俺にとっては良い意味での予想外の事態…辛うじて首の皮一枚繋がった好機、僅かに見えた光明だった……

にも関わらず、俺の中では命知らずの好奇心がけたたましく暴れだす。


俺「どういう事だ…?俺に全ての真実って……?」


つい…口から飛び出てしまう、その疑問。

好奇心猫を殺す、とは言うが…今回は逆に、猫を殺め損なう要因となってしまった。


ハル「それ……は……あっ?!」

俺の質問に対して言葉を詰まらせ、動揺を隠せないハル。

ディーティーはその隙を突いて、片足で大きく跳ね……手負いとは思えない程の速さで窓から飛び出して、夜の闇へと消えて行った。


俺「………」

ハル「………」


訪れる沈黙…そして静寂。それに耐え切れなくなった俺は再び口を開き、問いかける。

俺「俺には言えない事なのか?」


保身のための嘘もあれば、相手の事を思えばこその嘘もある。

現に俺は保身のために、レミの事を隠していて…恐らくはそれが原因で今の状態に陥っている。

だから、ハルの事を責める事は出来ない。いや…それどころか、ハルが俺のためを思って黙っているのかも知れない。


結局…疑問の答えは紡がれる事無く、ハルが頷く事でその話題は打ち切られた。



俺「ディーティーは…あれで良かったのか?その、契約とか言ってたが…魔法が使えなくなるとか…」

ハル「それは…魔法は、まだ使えます。ディ-ティーは…見つけて、ちゃんと決着を付けないといけませんけど」


契約の事はやはり話さない、だからそれ以上の事は俺からも聞かない。

それで良いと思っていた………そう、この時はそれで良いのだと思い込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ