魔法少女ドゥンケルシュナイダー -Ⅶ-
<Ⅶ>
●せんめつ
俺「あぁ………黙ってて悪かった。そういう事だから、今度こそディーティーと決着をつけようと思う」
ディーティーとの…したくも無い再開を果たした直後。俺はまず、レミに連絡を入れた。
俺「お前は…来るなって言ってもどうせ来るんだろう?あぁ、そうだよな…じゃぁ、先に言って待ってる」
ハルとは別の魔法少女、ユズとの遭遇…その際にカライモンが殺され…その当人である、死んだ筈のカライモンが生きて居た事。
更には、カライモンによる敵討ちの結果…ユズが死んだ事。そして……闇の靴屋が、ディーティーだった事。
…今回の事の顛末をまとめて話したその上で、最後に……ディーティーの所に向かう事を伝えた所で、通話を終えた。
ダークチェイサーで獣の姿を形成して、一気に駆け出す俺。そして、俺の後を追って走り出すカライモン。
闇夜に紛れて突き進む中…不意にカライモンが近付き、俺に問いかけて来る。
カライモン「しかし…ディーティーの居場所は判っているのかね?私なら魔力探知で割り出す事も難しくは無いが…」
そして、その内容は…当然と言えばの疑問。
俺達が遭遇したのは、ディーティーに操られていたユズのみで…痕跡の一つも残さずに消え去ってしまった以上、ディーティー本体の位置を知る事は不可能に近い…
そう考えられて当然な訳だが……
俺「いや、その必要は無い。ディーティーの居場所なら、大体の目処は付いてるからな」
そう………ディーティーの居場所は判っている。理解がある事を認めるのはこの上無い程に遺憾だが…奴の考えそうな事などお見通しだ。
人目を避けて、人通りの少ない路地裏や林の中を突っ切り…以前とは別のルートを通って、辿り着いたその場所は………
廃工場前………始まりの場所にして、前回ディーティーとの決着を付けた場所だ。
……案の定、廃工場の中からはディーティーの…ダークチェイサー化したディーティーの魔力が、嫌と言う程に感じられ…
その中心、発生源の場所に関しても…余程の自信があるのか、隠蔽しようと言う素振りさえ見られない。
そして…ディーティー本体とは別に、廃工場の敷地内…建物の周囲には、地雷原のようにばら撒かれた黒い水溜りが見て取れた訳だが…
俺「成る程な…こいつが黒い靴の正体か」
カライモン「加えて言うなら…魔力量から察するに、ここに在る分が全てとは考え難いね」
その正体を看破するのも、別段難しい事では無かった。
俺「ってー事は…だ」
そして……俺達の嫌な予感も見事に的中。建物の陰から次々と…黒い靴に操られた少女たちが姿を現し……
カライモン「ここは受け負う…」
それに対して、カライモンが自ら相手を買って出る。
俺「任せたい所なんだが……この子達はあくまで被害者だ。ユズの時みたいな手荒な真似は―――」
だが、その事でまず懸念するのは…俺達自身よりも、まず操られている少女の安否。つい先刻のユズの事もあり、カライモンを引き止めようとしたのだが…
そんな俺の制止など気にも留めず、カライモンは少女達のド真ん中に突入。更にそこから、地面に白い魔方陣を展開した。
白い魔方陣…その展開と当時に、地に接していた黒い靴は消滅し……糸が切れたようにその場に倒れ込む、操られていた少女達。
余りに一瞬の出来事で、止める事の叶わなかったその行為。俺は唖然としながら、倒れた少女達に視線を落とす…と……
僅かに…浅くながらも呼吸があり、気を失っているだけ…と言う事が見て取れた。
カライモン「…何か?」
俺「いや、何でも無い……任せた!」
したり顔で問うカライモンに対し…俺は、バツの悪さを誤魔化しながらこの場を任せ……
改めて、廃工場の中……ディーティーの待ち受けるであろう最深部へと突撃する事になった。
余程外の守りに自信があったのか、奥の手でも隠し持っているのか……工場内部においては、特にこれと言ったような妨害工作は無し。
勢いに任せるままに扉を蹴破り、奥へ…奥へと進み………程なくして、前回の決戦の場…その扉の前へと辿り着いた。
俺は小さく息を呑み…扉の取っ手に手をかける。
ギギィ…と重苦しい音を立てながら、扉は開き…隙間から入り込んだ僅かな光だけが輪郭を作り出す、薄暗い室内が目の前に広がり……
そこで俺を待ち構えていたのは………
俺「な……何で…」
初めて出会った時と同じく、羽の生えた猫のマスコットの姿をしたディーティーと………
魔法少女…狩猟者の姿をした………ハル……だった。
●せんりつ
いや……正確には、以前のハルとは微妙に違う。衣装こそあの時のままだが…靴だけは黒く染まっていた。
つまり………
俺「ディーティー…手前ぇ……ハルにもその黒い靴を…!!」
ディーティー「そう、ご覧の通りさ。狩猟者としての力を失っていてくれたお陰で、難なく履かせる事が出来たよ」
本来ならば確認するまでも無いような、ありのまま…見たままの現状。ハルが…黒い靴によって、再びディーティーに操られてしまっている事…
しかし…そんな現状を認める事が出来ずに吐き出した言葉を、ディーティーはわざわざ挑発的に肯定し…俺の神経を逆撫でる。
血管が破裂しそうな程に激しく、血液が体内を駆け巡り……それに乗って、怒りと憎悪が俺の身体中に蔓延して行くような感覚。
だが…そんな中にあっても、腑に落ちない事が一つ残り…それが、辛うじて俺の理性を繋ぎ止めていた。
俺「ってかよぉ…おかしくねぇか?狩猟者になる以前でも、ハルには闇の魔力に対して耐性があった筈だろ?なのに、何でそんな簡単に操られちまってんだよ」
ディーティー「簡単じゃぁ無かったさ…大変だったんだよ、耐性があるハルを侵食するのは…ね。例えば、まず耐性を薄めるために―――」
俺「あぁ、そうか…そー言う事か。そんで…その靴で傀儡にした状態で、改めて無理矢理に魔法少女として契約した…って訳なんだな」
ディーティー「その通りさ。後はまぁ…契約してから、ハルの記憶から大体の状況を把握させて貰ったりもしたかな」
ハルを再び巻き込みたくは無い…魔法少女に戻したくは無いと言う俺の思惑が、完全に裏目に出ていた。
魔法少女…狩猟者としての力を持っているハルならば、容易に抗う事が出来た筈の事。
にも関わらず…魔法少女に戻る事を俺が拒んだばかりに、ディーティーの手に落ち…黒い靴に操られ、あまつさえ魔法少女に戻ってしまってさえ居る始末。
何から何まで最悪…最低最悪の状態を招いてしまった。
いくら悔やんでも悔やみきれない後悔の渦と、ディーティーに対する怒りの渦。
俺の中を駆け回って居た、二つの渦が混ざり合い……理性と言う名の思考を飛び越えて、感情のままに身体を突き動かす。
左手にダークチェイサーのかぎ爪を形成し…前置きも無しに跳躍を行って、ディーティーへと振り下ろす。
ディーティーはおろか、放った俺自身でさえも知覚が間に合わない程の…まさに一瞬の内に繰り出した一撃。にも関わらず……
その一撃は、ハルに…ハルの靴に止められてしまっていた。
俺「くっ……そぉ!」
ハルが俺からディーティーを守る……本来ならばありえないような屈辱的なこの光景と、そこに至るまでの原因…全てに怒り苛立ち、俺は叫んだ。
そして、その大本であるディーティーに至っては…ほんの一瞬焦りを浮かべながらも、またすぐに余裕の笑みを浮かべて見せ……
ディーティー「おぉっと、危ない危ない…危うくまた肉片から再生しなくちゃいけなくなる所だったよ」
その減らず口を叩いた所で…俺の中の疑問の一つに、答えが出た。
肉片?……あぁ、そうか…
ディーティーの言葉でフラッシュバックする、前回の戦いの記憶。
そう……ハルが止めを刺し、ディーティーを消し去る直前………俺はコイツの身体を切り刻み、肉片を四散させた。
そして…俺がダークチェイサーを使って、腹部を再生した時みたいに…ディーティーもまた、肉片から本体を再生した……と言う事。
俺は脳までダークチェイサー化しては居ないが、ディーティーはリミッターを解除するためにダークチェイサー化済み。
再生の際に脳の情報…形状に至るまで再現していたとしても、何ら不思議は無い。
その仕組みに気付いた事で、頭に上り切った血がほんの少しだけ下がり……僅かだが、自分を制御するだけの余裕を取り戻す。
俺「あぁ、そうか…そう言う事か。プラナリアみてーな生き返り方してんじゃねぇよ」
子供の悪口のような減らず口を叩く俺。
ディーティー「キミがそれを言うのかい?まぁ、ある意味これもキミのお陰と言えなくも無いけどね?」
そんな俺の減らず口にさえ、負けじと突っかかって来るディーティー。
つい先程までは、一方的に押し負けていた気迫も立場…今では対等、ほぼ互角。
俺「まぁ、だったら……今度こそ、肉片一つ残らねぇくれーに…殺し尽くしゃぁ良いって事だよなぁ…!」
目的が決まり…と言っても、遠回りしてから同じ場所に戻って来ただけなんだが……ともかく足場は固まった。そして後は、その実行を残すのみとなったのだが…
ディーティー「キミに…それが出来るならね?」
ディーティーがそう言うか否か……最大の問題であるハルが、俺の前に立ち塞がり…俺の行く手を阻む。
そう…ディーティーを倒す前の問題としてハルが居る。
ハルを倒すなんてのはもっての他。だが…記憶が無い今のハルでは、前回と同じ手は仕えない。
………どうする?…どうすれば良い?俺は、脳細胞をフル回転させて考える。
そして…まず始めに思い付くのは、黒い靴の破壊。
操られている他の女の子同様に、靴を破壊すれば支配が解ける…という考えも出来る。だが…それだけでハルが正気に戻る保障は無い。
いや、そもそも…その姿を見ても判るように、他の少女と違いハルに至っては魔法少女としての契約が交わされている筈。
例え靴だけ壊したとしても、大本であるディーティーを何とかしなければ意味が無い…その可能性の方が圧倒的に高い。
そして…ディーティーを倒すためには、ハルを何とかしなければいけない訳で……と言う、無限ループに陥ってしまう。
ディーティー「ふふふのふー。どうだい?解決策は見付かったかい?見付かる訳無いよね?」
俺「っ…黙れ!」
ディーティー「答えを教えてあげようか?ハルを倒せば良いんだよ。そうすれば僕は無防備だよ?あれ?出来ないの?そうだよねー、できないよねぇ?」
あぁくそっ!図星なだけに100倍ウザい!!
だが………こうやってディーティーが慢心して、油断を持ってくれている今は…こちらにとってはこの上無い程の好機でもある。
俺はその好機を逃す事無く…蛇のような狡猾さで、それを狙い撃つ。
ハルが大きく足を振り、ハイキックを放った瞬間…俺はそれを受け止め、軸足を払う。そして…ハルがバランスを崩した所で……八匹の大蛇を背中から形成。
更には、その大蛇の一匹一匹を……殆どためを行わず、一直線に…ディーティーへと向けて放つ。
一匹一匹がディ-ティーを屠るのに十分なだけの質量を持ち、更にそれが八匹同時に襲い掛かる。以前の…ディーティーと戦った時の俺ならば到底出来ない芸当だ。
そして当然ながら…ディーティーに至っても、俺がこんな事を出来るようになっているとは知らない筈で…完全に、不意を突いた筈だったんだが………
ディーティー本人はそれを避ける事も無く………八つの首は、あえなく撃ち落とされてしまった。
ディーティー「危ない危ない…ちょっと見ない内に中々多くの質量を扱えるようになってるじゃないか。正直驚いたよ」
ハルの形成した、光の刃……それが大蛇の首を貫き…落とし、ディーティーを守り抜き…またも俺の前に立ち塞がる。
ディーティー「判ってないなぁ…ハルを倒さない限り、ボクに攻撃は…」
だが………それも想定の内。
俺の奥の手をやり過ごし、出し抜いたつもりでいい気になっているこの時こそ…最大の好機。
そう…未だ好機が逃しておらず、俺の…いや……俺達の攻撃は終わって居ない。
ディーティーが背にした、コンクリートの壁。その壁を突き破り、突如姿を現す…真っ黒な甲殻の足。
ハルもディーティーもその乱入に気付き、迎撃体制に入る……が、もう遅い。
不意を突かれた事による出遅れを埋め合わせて…それでも尚有り余る程の速度で、ハルが光の刃を甲殻に向けるも…それは俺が許さない。
ハルの刃を俺が弾き飛ばしたその隙に、甲殻の切っ先がディーティーに狙い済まし……無防備になったその身体を刺し貫いた。
ディーティー「え……?なっ……」
俺「ナイスタイミングだ。レミ」
レミ「でしょ?」
そう…決め手となったのはレミの存在だった。
レミ「アタシが居ない事…不自然に思わなかったのかなー?」
ディーティー「くっ……」
多少は遅れるとしても、ダークチェイサーの機動力ではそれも誤差。出発地点の差を多めに見積もっても…到着にかかる時差は精々1、2分と言った所。
加えて言うなら…俺もレミも、この部屋で決着を付ける事は予想していた訳で……示し合わせる必要すら無く、この作戦に移る運びとなり……
要は、レミには予め奇襲要員として立ち回って貰って居たと言う事だ。
何かがあった時のための用心で…実際、ハルが操られて居た事等の予想外の展開があった訳だが……用心どころか、問題解決の決定打になってくれた。




