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魔法少女DS  作者: 壱壱零五
第一部 魔法少女DS
1/28

魔法少女ダークストーカー -Ⅰ-

ぼやけた視界の中…誰かが何かを呟いている。

女の子…名前は思い出せないけれど、どこかで見た事がある気がする女の子


そう…どこか懐かしくて、どこか儚くて…どこか放っておけない感じの………

手を伸ばしたら消えてしまいそうな、そんな女の子。


消えてしまう…消えてしまうと判っているのに手を伸ばさずに居られない

そして…伸ばした手が少女に触れたと思った、その瞬間…


俺は夢から覚めた



俺「………バイト…行かないとな」



●はじまり


26にもなってアルバイト店員、明日も知れないその日暮らしのフリーター…もといダメ人間。それが俺。

そんな社会の底辺の俺が、いつもの様に仕事帰りの夜道を歩いていた時の事なんだが…


その日は何かがいつもとは違っていた。


バイト先のコンビニを出た辺りからだろうか…何者かに後を尾けられているような、不気味な感覚。

ここ数日、変な気配を感じる事は何度かあったが…今日の気配は、それらとは一線を隔した物。

強張る足を無理矢理動かして、先へ先へと歩く中………遂に、招かざる変化が訪れた。


???「コイ……ツカ……」


身の毛もよだつような気色の悪い声が聞こえ、振り返ると『ヤツ』はそこに居た。


真っ黒な芋虫のような身体の先端から巨大な口が開き、人の手足を何本も取って付けたような奇怪な姿の何か

その正体を考えるよりも早く足が動き、俺は本能の警告に従い一目散に駆け出す。


保健所?警察?自衛隊?どこに連絡すれば良い?いや、それより先にとにかくどこかに逃げ込まないとダメだよな!?


がむしゃらに走って走って、ひたすらに走って………行き着いた先は工事現場。

あちこちに張り巡らされた壁や資材が俺の行く手を阻み、逃避の脚を止めさせる。


逃げ込む先を間違えた…その思慮の浅さを悔やむ暇も無く、迫り来る『ヤツ』

狭い隙間を縫って、逃げた先…壁際に追い詰められた所で、俺は『ヤツ』に両腕を掴まれる。


掴まれた手が焼けるように熱い。いや、多分実際に焼け爛れているんだろうが…

目視で確認しようにも『ヤツ』の身体から溢れる黒い霧のような物が俺の視界をぼやけさせていて、それも叶わない。


掴まれた腕を振り解こうと、無駄な抵抗をする中…『ヤツ』の口が大きく開き、鼻が捩れるような異臭が周囲を覆う。

喉を通り、肺を侵す熱。手だけでは無く、全身が内側から焼かれて行くような感覚を受け…


ヤバい…死ぬ


そう思った次の瞬間『彼女』が現れた。



彼女「貴方は…私が絶対に守ります」


機能性を無視して、フリルやリボンがふんだんにあしらわれた服。

先端にハート型の装飾が付いた杖…瞳の奥から、ハートマークの光が覗く…


いわゆる『魔法少女』の格好をした女の子だ。

そして『彼女』が現れてからは………非常に判りやすい…まるでアニメか何かのような、予定調和の展開だった。


『彼女』の持った杖の先から光の刃が現れ、ものの数秒で…淡々と『ヤツ』を解体。

しかし『ヤツ』の血飛沫を、至近距離で浴びた俺は………

全身に苦痛を感じながら、その痛みで気を失ってフェードアウト。


薄れ行く意識の中…そう言えば、こんな会話が聞こえていた気がする


??????「無理だよ…ダークチェイサーの瘴気に侵食されてしまった人間は助からない。諦めるんだ」

彼女「そんなのダメ!彼は絶対に私が………」



●そのあと


―――という夢を見た


なんてオチを期待していたんだが、現実は非常に非情らしい。

まるで、歯医者で麻酔無しに神経を弄られているような激痛が全身に走り

その痛みが、否が応でもこれが現実だと主張してくる。


???????「たかが人間一人、今まで通り放っておけば良かったんだ。なのに君はどうして…」

彼女「だって…彼は…彼だけは」


そして、耳に入って来る不穏な会話。何だこれ、どういう状況だ?

とりあえず現状を把握するためにも、声の主に問いかけようとするのだが…


俺「…っ!!」

ダメだった、声もまともに出せない。

しかしまぁ、こんな声でも声は声…俺の覚醒を知らしめる事くらいは出来たらしい


彼女「あ…目が覚めましたか!?無理に喋らないで、今少しだけ楽にしますから!」

??????「なっ…ここに来てキミはまた!」

瞼の上からでも判るような暖かい光を感じ、俺眩しさに身を捩る

………と、そこで訪れた変化に気付く。


俺「あれ…?少しだけど痛みが………いや、それより俺……普通に喋れてる?」

完全にとは行かないまでも、大分薄らいで行く身体の痛み。

そして喉の痛みが大分引いた所で、今度は恐る恐る目を開けると……

そこには、声の主…『ヤツ』を解体した魔法少女の女の子と……動物?ぬいぐるみ?何かのマスコットかと思えるような存在が


俺の部屋の中で、俺を見下ろしていた。


彼女「あ…完全に治した訳では無くて、痛みを消しているだけです。まだ無理はしないで下さい」

???????「やれやれ…一命は取り留めたようだね。こうなってしまっては仕方ない、その命は僕達の役に立つよう使って貰うよ」

彼女「ディーティー!そんなのダメ…彼は被害者なのよ!?」


ディーティー…と言うのがこのマスコットの名前らしい。

ここまで定番が過ぎると、否が応でも展開を察せてしまう自分が憎らしい。


俺「よし…じゃぁお互い自己紹介をしよう。俺は…言うまでも無くこの世界の住人だ、そっちの二人はどこの世界から来たんだ?」

彼女&ディーティー「「………」」


二人とも目を合わせて沈黙している。

質問が先走り過ぎていたのだろうか?

………失敗したか?


ディーティー「やっぱりコイツ、事情を知っているみたいだね。消去しておこう」

彼女「ディーティー!!」

失敗したようだ。

………と言うか、大変物騒な事を言われている。


俺「いや、あくまで推測だ。お前みたいなのが普通にこの世界に居てたまるか。と言うか、事情を説明出来ないなら出来ないで良い。諦めるから」

彼女「あ、いえ…私から説明します」


ディーティー「ハル!!」


女の子の方の名前はハルというらしい。

そこから先の話ををディーティーが止めようとするが、ハルの方は説明を続けてくれる。


ハル「かいつまんで言うと…ディーティーは、異世界からさっきの魔物…ダークチェイサー達を追いかけて来たんです」

俺「キミはどっちの世界の子なんだ?」

ハル「私は、こっちの世界の人間です」

良かった、それなら問題なく話が通じそうだ。


俺「それで、キミはディーティーに協力させられている…と」

ハル「はい…そんな所です」

俺「で…その、ダークチェイサーって言うのが人を襲うには何か条件があるのか?ぶっちゃけ…俺、また襲われるのか?」


ディーティー「ハルのような狩猟者を襲うならまだしも、特定の一般人を襲う条件は不明だね。再現性を見出すためにキミを助けたと思っても良いくらいだ」

狩猟者…それがこのタイプの魔法少女の名称か。と言うかお前、さっきは助けるなとか言ってたくせに調子良すぎじゃないか?

いや…それよりも


読みたくない言葉の裏が見えてくる。

未だにって事は何回かあって、それらは再現性を確認できなかった…確認できていないではなく過去形。

ついさっきも『たかが人間一人、今まで通り放っておけば良かったんだ』とか言ってたよな?


つまり…恐らくだが、今まで襲われた被疑者は皆死んだ…そう言う事だろう。


俺「ダメダメじゃねぇか…この無能マスコット。ってか、こんな娘に自分の尻拭いでそんな危ない事をやらせんなよ」

思わず呟いてしまった言葉によりディーティーが押し黙る。

落ち込んでいる…というよりは、俺に対する敵意をどう処理するべきか悩んでいるように見える。

ハル「あの…それに関しては、私の力不足も原因なんです。私がもっと早く駆けつけていれば、貴方がこんな事には…」

が…アブないディーティー対して、ハルはとても良い子のようだ。手が動いたなら、頭でも撫でていただろう。


俺「いや、ハル…ちゃん?は、気にしなくて良い、君が居なければ、今頃俺は死んでただろうしな。命の恩人だ」

ハル「いえ…そんな。あと……ハル…で、良いです」

何とも奥ゆかしい良い子だろう。あっちのダメマスコット、略してダスコットとは大違いだ。


俺「―――で、これから俺はどうすれば良い?勿論この怪我が治るまでは何も出来ないだろうけど…」

ハル「そうですね…あ、私の携帯番号入れておきます。何かあったら連絡して下さい」


俺「何かあったら、か…俺の方から自発的にする事は無い感じか?んじゃ、それ以外は今まで通りの生活でいいのか?」

ハル「はい、ダークチェイサーさえ現れなければ」

俺「現われない事を祈るばかりだな。って言っても…このザマじゃぁ今まで通りってのも怪しいが…」

ハル「あ、怪我の方は心配しないで下さい。明日のシフトまでに間に合うよう、今夜中には治療できると思いますから」


ディーティー「ハル!!またそうやって魔力の無駄遣いを…!!」


ディーティーがまた横槍を入れるが…それを意にも介さず、俺の身体に手を当てるハル。

身体の中の痛みの元が消え、神経に感覚が戻ってくるのを俺は実感する。

よくある回復魔法と言う物なのだろうか…このままハルに任せておけば、明日からは普段通りの生活

何とかありがたい事だろう。


………そうして安心に浸った俺の意識は、自然にまどろみの中へと落ちて行った。



●つぎのひ


俺「で…………」


俺「昨日の今日でこの有様かよ!!」

胴体に目玉が付いた巨大で真っ黒な鳥、疑うまでもない…ダークチェイサーが、今夜も現れた。


バイト帰り…時刻は昨日と同じくらいの、午前2時。

待ち構えていたかのように…昨日もダークチェイサーが現われたその場所で、俺の前に現れるそれ…二体目のダークチェイサー。

俺は、あの後帰り際にディーティーの言っていた言葉を思い出す。


ディーティー『奴等はその名の通り、闇の中から現れて対象を追跡する。精々夜道の一人歩きには注意する事だね』

ディーティー『ま…いっそ襲われてくれれば再現性を確認できて、今後の対策に役立てられるから…僕としてはその方が嬉しいんだけどね』


喜べディーティー、再現性は今この瞬間確認されたぞ。

………いや、そんな事を考えている暇があったら、ハルに連絡しろよって話だよな…

俺はすぐさま携帯を手に取り、電話帳を開く。そして登録されたばかりのハルの番号を選び、決定を押―――


…しまった、携帯をダークチェイサーに弾き飛ばされてしまった。押せたか?押せなかったか?

ヤバい、非常に不味い。

昨日と違い、逃げ回るだけの距離はある…だが、スピードで絶対に追い付かれる。今度こそ詰む…


そう思った、まさにその瞬間


ハル「はぁぁぁぁぁ―――!!!」


上空から現れたハルの一撃が、ダークチェイサーに命中した!

光の刃がダークチェイサーの翼を屠って、その機動力を奪うが…惜しくも致命傷には至らない。


ハル「大丈夫ですか!?」

俺「お陰様で大丈夫だ。それより気を付けろ、まだ生きてるぞ!」

ハル「はい!」


そこから始まるハルの猛攻。光の刃を展開してジャベリンのような形状になった杖は、光の刃で敵を切り刻み…瞬く間にその命を削いで行く。

だが…そんな敵さんも、一方的にはやられっ放しで黙っては居ないようだ。


俺「危ない!避けろ!」


関節の無い首が大きくしなり、その凶暴な嘴をハルの腹部へと突き刺した

………かのように見えたのだが、ハルに外傷は見られない。


俺「大丈夫…なのか?」

ディーティー「彼女のような狩猟者は、奴らへの耐性を持っているからね。奴らが放つ瘴気は勿論。魔力によって物理的干渉もある程度軽減できるのさ」

と、いつの間にか現れたディーティーが解説する。

なるほどそういう事か…と納得できてしまう俺もどうかと思うが

そもそも魔法だの魔物だのが目の前に存在して居る以上は、そんな細かい事にまで疑問を持っても仕方の無い事だった。



と…そうしている間に、ついに絶命するダークチェイサー。

単純に発見から殲滅までの時間から考えてだが、どうやら昨日よりも大分手強い相手だったようだ。


俺「お疲れ様、ハル」

ハル「あ…ありがとうございます」

労いの言葉を向ける俺、心なしか嬉しそうな顔をするハル。


俺「あ、この後はどうするんだ?何か事後処理とか…」

ハル「いえ、特にする事はありません。倒せば自然消滅するみたいですから」

俺「そっか…んじゃ、改めてこの後はどうする?何なら飯でも食いながら作戦会議でも…」

ハル「あ…いえ…一応まだ見回りをした方が良いと思うので、その…また今度」

俺「そっか、残念。それじゃ頑張れよ」


上手く行けば変身前のハルの姿を見れるかも知れない…と思ったのだが、そこまで上手く事は運ばないようだ。

夜空に向かって飛び去るハルを見送った後、俺は弾き飛ばされた携帯を拾い上げる。

俺「駄目だな、案の定壊れて………ん?」


携帯を掲げて、月光に翳しながら安否の確認。割れたケースの隙間から、中身を覗き見るのだが…

ふと、視界の端……ビルの上辺りに映る『何か』

目の錯覚かと思い、瞬きしてからもう一度そこを見ると…案の定、その場所には何も無かった。


俺「………疲れてんだな、俺」

口にする事で痛感した疲労感に襲われ…壊れた携帯の修理代の事なんかを考えながら、俺は帰路に着く。

そう…二回目のダークチェイサーの襲撃を無事にやり過ごし

無事に帰る事が出来る…その事で頭がいっぱいで、他の事を考える余裕なんて持ち合わせてはいなかった。


ハルの行動………そしてハル自身に起きた事…気付かなければいけない筈だった事全てを、見逃してしまっていた。

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