8話目
昨日の楽しいお酒会は明け方近くまで続いたらしい。
食堂の一角には片付け途中の酒瓶と一緒に死屍が累々している。
給仕の娘さんも今朝は体調が優れないらしく、朝食は厨房を預かる旦那さんが持ってきてくれた。
とても美味しそうだがやはり、とても多い。
今回も包ませて貰おう。
サンドイッチを作成していると、旦那さんが屍の皆さんに「慈悲だ」と言って深緑に蛍光ピンクが混ざる飲み物(?)を丼で配っていた。
屍の皆さんは、丼を手に取ると、青ざめたまま目に涙を浮かべ、鼻をつまみ、意を決して丼の中身を一気に飲み干した。
『%£*◎#*◇●◆▼』
口を押さえて悶える屍の皆さん。
そのうち机や床に伏せたまま動かなくなった。
慈悲とは介錯の事だったのだろうか?
屍の皆さんを見ていたら、旦那さんが、
「一時間程寝て、起きた頃にはスッキリ酒が抜けてる」
と言っていた。
味はともかく、かなり良く効く状態異常回復薬で二日酔いにも効果があるそうだ。
感心していたら小瓶に入れて数本頂いた。
本来は小瓶一本で十分な効果が得られるそうだ。
──厨房の主の慈悲 を入手しました。
(私自身はお酒はそんなに飲まないし、良く効く薬なら、今度孫にあげよう)
死屍累々の食堂を後にして、小広場の掲示板を見に行く事にする。
家々の壁の貼り紙は見あたらない。
程なく目的地に着き掲示板を眺める。
しかし今日の依頼は『○○の素材集め』や『△△の退治』など自分では出来そうにないものばかりだった。
「それなら今日は少し遠くまで歩いてみようか…。そうだ、水筒の様な入れ物って何処かに売ってないかな?商業区に行けば有るかな?」
考え事をしながら大体の方角に歩く。
石畳の模様が変わって商業区に入った事はわかるが、水筒を売っていそうな店は見えない。
(まあ、急ぐ訳でもないし、散歩のついでに良さそうな物があったら買えば良いか)
商業区の風景を見ながらのんびり歩く。
たまに見かける貼り紙は居住区と同じ様式だった。
何件かお店を覗きつつ散歩をして、少し休憩しようかと煉瓦作りの花壇の淵に腰をおろした時、少し変わった依頼を見つけた。
『依頼:お腹がす きま した 』
何だかヨレヨレの文字で貼り紙も壁の下の方に斜めに貼られている。
依頼内容はもっとヨレヨレの文字で『たべもの』とだけ書かれていて、報酬は判読出来ない。
貼り紙のすぐ横に少し開いた扉。
そっと中を覗くと、床に倒れた人。
普通なら何事かと思う所だが、ひっきりなしに聞こえるお腹の虫の鳴き声が事件性無しと確信付けた。
インベントリからサンドイッチを一つ取り出してそっと口許に近づける。
鼻がピクリと動いたかと思うと、目を閉じたままサンドイッチにパクりと食いついた。
そのままモグモグとサンドイッチを食べつくす。
しかし、まだ目は開かないしお腹の虫も「おかわり」と言わんばかりに鳴いている。
もう一つ取り出して同じ様にすると、また食いついた。
モグモグと食べていき、最後の一口でようやっと目をパッチリ開いた。
驚いたように目を見開いてこちらを見るがサンドイッチを飲み込んで言ったセリフは、
「お、おかわり…下さい…」
だった。