7話目
翌日、現実世界での日課としているウォーキングとストレッチをして、片付けなければいけない用事も済ませ、昼食も食べ終わった。
食料品等の買い出しも孫が荷物持ちをしてくれて終わっている。
その孫は昼食後、友達からメールが来て一足先にあちらに出掛けている。
「カニの身をドロップしないなら直接茹でよう!」
と言う提案がされたそうだ。
私が、「カニは焼いても美味しいよ」と言ったら、
「とりあえず、カニ料理片っ端から試してくるわ!」とイイ笑顔で出掛けていった。
一応モンスターだから、倒しても暫くすればまた出現するらしいが… 合掌。
さて、水分補給もしたし、空調も正常に動いてる。
私も散歩に出掛けるとしよう。
──バイタル正常
──ご安全に。行ってらっしゃいませ。
ルームのベッドで目を覚ました。
軽く伸びをしてゲーム内の時間を確認すると、昼を少し過ぎたあたりだった。
受付の女性に挨拶をして、今日は小広場とは反対方向に歩き始めた。
昨日同様に街の風景を見ながらのんびり歩く。
暫く歩くとほんのり甘い香りのする一軒の壁に『依頼:お届け物』と張り紙が貼られていた。
依頼内容は『クッキーをご近所数件にお届け』報酬は『布製の肩掛けカバン』だそうだ。
クッキーのお届け物なら散歩のついででも出来そうだ。
報酬も肩掛けカバンなら後々重宝するだろう。
と言うことで、中を覗くと椅子に座った依頼主と思われる女性に声をかけた。
「依頼を受けてくれてありがとね!暇にあかせてクッキーを作ったは良いが作りすぎちゃってね!しかも情けない事に腰をやっちゃったもんだから動きまわれないのさ!届けて欲しいクッキーはこれ!このリストの5人に頼むよ!リストの横に受け取りの印をもらっとくれね!家のある場所は地図に赤い印で示されるよ!持ってくのにこの肩掛けカバン使っとくれ!じゃあ、頼んだよ!」
とても元気な女性だった。
5つのクッキーの包みはそれぞれ中々の量で、渡された肩掛けカバンがいっぱいになった。
しかし、物はクッキーなので然程重くはない。
リストを眺めると視界の端の地図に赤い印が5つの表示された。
近い所から順にお届け物を配る。
クッキーを手渡し受け取りの印もちゃんともらい、ついでだからと依頼主へのお見舞いを預かる。
5軒廻り終えて、クッキーの代わりにお見舞いでいっぱいになったカバンを下げて依頼主の家に戻る。
受け取りの印が書き込まれたリストとお見舞いを渡す。
「まぁまぁ!おかえりなさいね!あらイヤだ!こんなにたくさん!気を使わせちゃったわね!依頼の報酬は使ってもらったそのカバンなんだけど、お見舞いまで運ばせちゃって悪かったわねぇ!そうだわ!クッキーと茶葉も貰っとくれ!」
ポンポンと報酬が手渡された。
──依頼:お届け物 を達成しました。
──報酬:肩掛けカバン を入手しました。
──追加報酬:クッキー、缶入り茶葉 を入手しました。
クッキーと茶葉はインベントリに収納して、カバンを肩に掛ける。
改めてカバンを見ると、丈夫そうな厚手の生地に、緑色の糸で植物の刺繍がされていてとても気に入った。
依頼主に挨拶をして、宿屋へ帰る。
宿屋の受付の女性にクッキーと茶葉をお裾分けすると、みんなでお茶にしましょう。と食堂で小さなお茶会が開かれた。
クッキーと、給仕の娘さんが作ったと言うパウンドケーキ、お茶に蜂蜜、甘酸っぱいジャム。
従業員さん達も参加して、途中でお菓子持参の宿泊客も参加して、賑やかで楽しいお茶会になった。
クッキーと楽しい時間のお返しにとパウンドケーキを頂いてしまったので、何だか恐縮だ。
夜になり、食堂は楽しいお茶会から楽しいお酒会に移ったのでルームに帰ってきた。
今日も充実した散歩だった。
明日はどんな散歩になるかな。