5話目
目が覚めた。
覚めたのだが…全く眠った気がしない。
「意識が沈む感覚はあった気がするが、睡眠自体は瞬きの間に終わってしまうのか…」
よく寝たとか、体の疲れがとれたとか、爽快な目覚めという感覚は無かった。
起き上がり窓の外を見てみる。
朝の爽やかな光が射し込み、どこからか小鳥の鳴き声が聞こえる。
そういえば、現実世界では街路樹は災害時の倒木や火災の危険性から数が減って、小鳥の鳴き声もあまり聞こえなくなった。
しばらくボーッととりとめも無い思考に浸ってから、今日の予定を思い出す。
「さて、そろそろ行動しようか。…はぁ、どっこいしょっ」
ルームを出て鍵をかけ階下に下りると、いつも受付に居る女性に挨拶をした。
すると、泊まりのお客さんには朝食がついてるから食堂にどうぞ。と促された。
食堂に行くと他にも泊まり客が居たのか、小さな食堂は満席に近かった。何とか隅に空いていた席に座る。
するとすぐに給仕の娘さんが大きなトレイで朝食を運んで来た。
大きめに切った野菜がゴロゴロ入った具だくさんのスープ、瑞々しい葉野菜のサラダ、溶かしバターと刻んだパセリがかけられたマッシュポテト、カリッと焼いたベーコンと半熟の目玉焼き、カゴに山積みのロールパン。フレッシュジュースと良い香りのするお茶。
困った。普段の食事の倍以上ある。これは確実に残してしまう。
勿体ないが、どうしたって食べきれる量ではない。
仕方がないので給仕の娘さんに声をかける事にした。
「すまないが、この量を食べきれそうに無いのだが、包んで持っていっても良いだろうか」
すると娘さんは快く了承してくれた。
しかも、包むためのナプキンも用意してくれた。
ありがたく頂き、山積みロールパンを葉野菜とポテト、葉野菜とベーコン、葉野菜と目玉焼きのサンドイッチに仕立て直しナプキンに包んだ。
それをテーブルに置くと、隣の席で食事をしてしていた客がパンを頬張りながら話しかけてきた。
「おじいちゃん、食べ物は早めにインベントリに収納した方が良いよ。インベントリん中なら劣化しないから」
「おはようございます。ご親切にありがとう。インベントリは… 確か便利な収納機能でしたよね… はて、どうやって使うのだったかな… 確かヘルプに…」
昨日覚えたはずの操作も端から忘れてしまい、もたつく私を見かねたのか、助言をくれた。
「おじいちゃん初心者?インベントリは入れたいモノに触りながら"収納"って言えば収納出きるよ。そんで、出したい時はメニューの"持ち物"の項目から選択したら出せるよ」
言われた通りに包みを手に取り「収納」と言ってみる。すると手の中にあった包みが消え、
──ポテトのサンドイッチを入手しました。
──ベーコンのサンドイッチを入手しました。
──玉子のサンドイッチを入手しました。
という、ゲームを始めた時と同じ声が聞こえた。
そして、確認のためにメニューを開いて持ち物からポテトのサンドイッチを選択する。
無事、手の中にナプキンに包まれたサンドイッチが出現した。
もう一度収納して、隣の席の客にお礼を言う。
今は収納のしようがない、しかし自分では食べきれない具だくさんのスープ半分とフレッシュジュースは隣の客に手伝って貰った。
先に食事を終えた隣の客は笑顔で手を振りながら去っていった。
具だくさんのスープ(半分)でお腹がいっぱいになってしまったので、給仕の娘さんに器を下げてもらい、お茶を飲みながら少しゆっくり食休みする事にした。
今日は草むしりに行く予定だが、もうちょっとだけゆっくりしよう。
はぁ、お茶が美味しい。