4話目
オレンジに染まる居住区の道をのんびり歩く。
人は行き交うが自転車も自動車も無い。
その人も商業区などよりは格段に少ない。
家々も大小様々ではあるが、庭があり花や木が多くみられる。
「今では野菜も工場生産が普通だし、緑化と言うのも中々難しいようだし、植物にかわる二酸化炭素削減システムも出来てしまったからなぁ… 街中にこんなに緑が有るなんて、本当に素晴らしい」
現実世界では人口増加と気象の問題で人がしっかり管理しなければ植物は上手く育たない。緑溢れる風景など、伝統農業を伝える歴史農業地区か、種の保存と寺社仏閣用の木々を育成する国営の森林地帯くらいしかない。
ジョブを決める時に孫に言われた「家庭菜園」と「盆栽」は私達の住む地域ではあまり"気軽に手を出せる趣味"とは言えない。
今微かに感じる香りはきっと、土や植物の香りなのだろう。
記憶にない香りが「懐かしい」と感じるのも不思議だ。
しばらく歩くと少し開けた辻に出た。
始めに居た広場よりはずっと小さいが、隅に小さなベンチや花壇がある。一見すると小さな公園の様だ。
ぐるりと見回すと、広場にあった掲示板と同じ様な物があった。
近くで見てみるとやはりあの広場の掲示板と同じ様だ。
しかし、この掲示板の依頼人は居住区の住人ばかりらしい。
なぜ分かるか。
それは、掲示板の横に居住区の地図があり、道の名前と番地のような数字が書かれているからだ。
そして依頼書にも道の名前と数字が書かれている。
依頼を受ける時は依頼人に会いに行かなければならないらしいから、分かりやすく表示されているのは有難い。
さらっと読み流して居ると、ルームのある宿屋の三軒隣の家の依頼を見つけた。
依頼内容は『庭の草むしり』
草むしりはやった事がないが、何とか出来そうな気がする。
明日は草むしりの依頼をやってみようと思いながら、夕暮れの道を宿屋に向けて歩く。
日が完全に暮れる前に宿屋に帰りついた。
受付に声をかけてルームに戻る。
ルームに入ったところでふと現実世界の時間を確認してみた。
ずいぶん長く居る気がしたが、設定を始めた時間からまだ2時間も経っていないらしい。
ヘルプを読むとゲームの体感時間は引き伸ばされていて、1日は現実世界の1時間だそうだ。
私のプレイ可能な時間は連続3時間、休み休みでも6時間までとされている。
ゲーム内時間で言えば、連続3日、休み休みで6日分だ。
しかし…
「日帰りか1泊くらいで十分な気がするなぁ。ちゃんと運動もしなくてはいけないし、それに、こんなに本物と遜色無いと時差ボケしそうだ」
明日、草むしりをしたら現実世界に帰ろう、と予定を立ててベッドに横になった。
そういえば、寝間着に着替えてない。
そう思ったが意識はゆっくり落ちていった。
おやすみなさい。