プロローグ
Idea ―― 雪水晶の歌姫 ――
Prologue
雪が舞う。 何もかも、包み込むかのように。
あなたが私の敵となっても、あなたのことを、忘れない……。
埃っぽい砂交じりの空気の匂い。 足元には伸び放題の草と天にはそれなりに早く流される雲の白と青色。
「えーと、ここ、かな」
僕は誰も居ない遺跡郡を前にしてちょっと心が折れそうだった。
「魔物に出会いませんように。 買ったお守りがちゃんと機能しますように……」
石を組み合わせて作ったらしいそこへ足を踏み入れる。 扉もなく、外の光も届く範囲には何も無い。 その先には光の届かぬ闇が息を潜めるように横たわっている。
「よし。 行こう」
何年も付き合ってくれている革靴の底に遺跡の床の感触を感じながら、僕は蓄光灯のランプをかざして足を踏み入れた。
僕はこの時、思いもしていなかったんだ。 この日、僕とあの子の運命が、音を立てて回り始め、それがやがて世界を巻き込むことになるなんて。 この時は、微塵も知らなかった。
雪が溶けて季節が移ろうように、君の心が変わっても、僕は君を忘れない。
君と一緒に手をとって歩ける日が再び訪れるとの時まで、僕は……、
「あきらめない」