宿屋・森
お待たせしました。
俺は今一人宿屋の自室にいる。
奴隷たちにはいつものように森へ魔物退治に行かせてある。
あいつらも2ヶ月のレベル上げの成果で3人とも30近くまでレベルが上がった。
ちなみにゴーレムのお供は付けている、いくらレベルが上がったところで万が一というものはあるからな。
何らかの事で今あいつらを失うのは痛い、事故への予防はしておくに限る。
あと、俺の他に出来る人間がいないので奴隷の健康管理にも気を配っている。
あいつらは価値の高い物だ、ただ生き物であるが故に扱いにも気を使う。
奴隷たちには週休1日制を導入している。
簡単にいえば6日働いて1日休むというやつだ。
奴隷には本来休みなどというものはないらしいが、奴隷を長く使うためには休息というものが必要だと俺は考えている。
まぁ初めてあいつらに今日は休みである程度好きなことして休めと言ったら、部屋の隅で3人固まったままずっと座っていたのには面食らったがな。
どうやら休日の過ごし方というものが分からなかったらしい。
そのあと研ぎ石やちょっとした屋台の食い物を買い与えたら各自装備品の手入れや食事などをしていたので、あんな感じでいいかと納得している。
適度なリフレッシュには丁度良いだろう。
二ヶ月間レベル上げに勤しんだお陰で資金の方もかなり貯まってきている。
毎日コンスタントに15万G程の稼ぎがある。
時間や月日の計算が地球とほぼ同じこの世界では月の稼ぎが約390万G、二ヶ月で780万Gとなる。
もちろんこれから諸経費を引くわけだが誰がどう見ても大幅な黒字である。
ちなみに一ヶ月前から俺自身は奴隷たちのレベル上げに同行していない、いや別の形で同行しているというべきか。
そう、ゴーレムの遠隔操作だ。
これなら安全な位置から奴隷たちとレベル上げが出来る。
素材は奴隷たちに拾わせればいいからな。
ちなみに俺も2ヶ月の間ちょこちょこゴーレムを森に放ってレベル上げさせた結果レベル35に上がった。
この結果通常ゴーレムなら3体同時作成、もしくは3体の内1体を同時に遠隔操作出来るようになった。
これでレベルと最大MPから計算するに通常ゴーレムを1体作成するために必要なMPが100、それプラス遠隔操作に必要なMPが50で合計MP150掛かるということが分かった。
2体操作も出来るかとも思ったがさすがに無理だった、何せ俺の精神は1つしかないし2つに分けるってのが自分でも想像できないしな。
遠隔操作の弱点は操作している間、俺の体が無防備になるということなので街の中にある宿屋の自室ってのがその問題点をある程度クリアにしている。
そのために少し高めの宿屋にしているからな。
まぁそれでも完全に安全というわけではないので対処法はいくつか検討している、必要なのは金だ。
俺はベットの上に座ると目を閉じ意識を集中する。
次に目を開けるとそこは森の中だった。
早速手を開いたり閉じたりして感覚を確認する、たったあれだけの時間で俺のゴーレムへの遠隔操作は完了していた。
客観的な視点で操作しているのではなく主観的視点で動かしてる分、遠隔操作というよりも遠隔憑依といった方が正しいのだろうか。
少し薄暗い森の中に魔物たちが息を潜めている。
気配を探ってみると少し遠くにゴーレムの気配を感じた、おそらく奴隷と行動を共にしているゴーレムの気配だろう。
ちなみにあと1体同時作成することが出来るのだが、今は作成せずに温存している。
3体出してる時に俺本体になにか問題が起きたら対処できない可能性があるからな。
切り札は取っておくべきだ。
ゴーレムを操作して森の中を歩き奴隷たちと合流する。
奴隷たちに3人とも同じフード付きマントを着ており中には軽装の鎧を装着している。
腰のベルトに付けられた長剣は奴隷たちの筋力を考慮し、一般的な他の長剣よりも多少刃の長さが短くなっており扱いやすいようにカスタマイズされている。
またフード付きマントの内側に各自投げナイフを持たせた。
これはゴーレムとの連携を考えてのものだ、誰だってゴーレムが暴れている足下で戦いたくはないだろう。
中距離対応可能な手段を持っているだけで戦術の幅がでるしな。
元々投げナイフなんてものは投げるときにどうしても回転しながら飛んでいくため殺傷率や命中率の観点から見ても確実性に欠けるという評価が一般的なのだが、この世界ではレベルによる身体能力の向上がその評価を変えている。
百発百中とはいかないまでもきちんと狙えば無視できないダメージを相手に与えるだろう。
もっともレベルを更に上げれば百発百中も夢じゃないかもしれないが。
ちなみに短弓も考えたのだかマントの中から放つ奇襲性と持ち運びのしやすさから考え投げナイフを選んだ。
全て俺が買い与えたものだ、こいつらには機動力を重視した戦いをさせるつもりである。
パーティー戦における高火力や盾役といったものはゴーレムで補える、奴隷たちは下手に特化させなくていい分使い勝手が良く育つだろう。
合流したあとは魔物を探して森を歩き回るだけである。
最初の一ヶ月は魔物をゴーレムに押さえさせて止めだけ奴隷たちに刺させていたがレベルが20を越えた辺りからは実践経験も積ませるために普通に魔物と戦わせたりもしている。
もちろん危なくなったら助けに入るし
、戦闘中も辺りを警戒し魔物の奇襲の警戒などはしているが。
俺はレベルの高い木偶を作りたいわけではないからな。
より実践的な戦闘経験は必要不可欠だろう。
今日も奴隷たちが戦っているのをゴーレムを通して眺めている。
相手の魔物の名はたしか痺れスネークだったか、その牙には噛んだ相手の体を神経毒で麻痺させる効果があり、動けなくなった人間を生きたまま丸呑みにする魔物である。
牙の麻痺毒は恐ろしいがそれ以外は脅威というほどでもなく落ち着いて対処すれば中級ランクの冒険者でも手間取らない相手である。
戦闘は全て我流であるがレベルによる身体能力の高さにものを言わせ素早く動き回り相手を翻弄する。
各自投げナイフを投擲し相手の動きを牽制しながら隙をみて長剣で斬りつけダメージを与えていく。
投げナイフに関しては及第点だが、長剣の扱いに関してはまだまだと言えそうか。
程なくして体にナイフを生やし首を跳ねられた状態の痺れスネークが動かなくなる。
死んだのを確認し奴隷たちが投げナイフを回収しながら解体に入る。
朝から夕方まで魔物を探し殺しては素材を剥ぎ取っていく。
毎日がこれの繰り返し。
今日も同じことを繰り返している。
やってることは違えど本質はサラリーマンと変わらないな。
そして夕方になり奴隷たちは街へと撤収していく。
奴隷たちの警護をさせていたゴーレムをカウンター型にして森の奥深くへと向かわせ、俺は遠隔操作しているゴーレムで奴隷たちを街道近くまで安全に送り届ける。
仕事を終えると街道から少し離れた森の中でゴーレムを屈ませ遠隔操作を切る。
こうしておかないと明日ゴーレムを使う場合わざわざ森まで来てゴーレムを作成しやきゃいけないからな。
次に目を開ければ既にそこは見知った宿屋の部屋の中だ。
奴隷たちは帰りにギルドで素材を換金しお金は預けてから宿に戻ってくるためまだ少々時間はある。
本日のお仕事もこれで終わりである、俺は背伸びすると肩をならしながら部屋を後にした。
剣か槍、投げナイフか弓で非常に迷いました。
実際にゴーレムとの連携時の相性を考えると槍ってかなり良いんですよね、更に武芸の初心者ならリーチの差が勝敗にもろに直結するためやはり槍が強い。
ただ、森の中での運用を考えるとどうしても槍の場合、取り回しが不向きなんですよね……
なので剣にしました。
弓は矢の使い回しがしづらい上に作中でも書きましたが奇襲性において投げナイフに劣るため。
あとマントしてたら弓背負い辛そうだなってのもポイントです。
次回は今回より早めに投稿したいと思います。