買い物・森・宿屋
お待たせしました。
俺は今、宿屋にいる。
勿論少年奴隷の3人も一緒だ。
奴隷舘の帰りにギルドに寄り、取り急ぎ冒険者登録だけ済ませてきた。
身分証は便利だからな、調べておきたいこともあったし。
3人は俺の奴隷なので各自渡す前にカードをチェックする。
3人ともドングリの背比べでいたって普通の能力だった。
異常に高いレベルや特殊な能力があるわけでもない、まぁあくまでささやかな贈り物だからな。
カードを見て確認した結果がこれだ。
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名前:A
Lv : 1
職業:なし/奴隷
最大HP20
最大MP0
力11
身の守り8
素早さ11
器用さ10
スキル:なし
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レベルは1でステータスは勿論低くスキルも当然ない。
職業がなしになっているので能力の上がり具合や適性を見て神殿へのお布施も検討しないといけないな。
他の2人も似たような能力で特筆すべき点はない。
ただ凡才ならば問題ないが愚図は切り捨てるつもりだ、芽のでないやつにまで金をかける気は俺にはない。
名前に関しては覚えるのが面倒で管理もしづらい、ということで今日からこいつらの名前をA・B・Cとした。
ギルドで自分達の名前が変更されるのを見ていた3人は困惑の表情だったが実際にカードを渡されて自分の名前が全く別のものに変わったのを見るとショックだったみたいだ。
まぁ名前なんて特に意味のないものだし変わったからといってどうでもいい事だろう。
「俺の名はアルス、今日からお前らの奴隷主だ。お前らには冒険者として魔物を殺して金を稼いでもらう、何か質問はあるか?」
ベットに腰掛けながら目の前で立ち尽くす3人に声をかける。
「……あの、俺たち武器や鎧も何も持ってませんし戦ったこともありません。ですから……戦えません」
奴隷Aだったか、最初に発言したのは良かったが声が震えている。
「まず、お前らに戦うかどうかを決める権利はない。戦うことは決定事項だ、ただ武具に関しては必要最低限の物は用意してやろう」
尤も、金はないので本当に必要最低限しか買わないつもりだが。
「食べ物はどうなるんでしょうか……?あと寝る場所は……」
ライフラインの確認か、帰ってきた後の心配をする辺り、奴隷Bは戦う覚悟はあるようだな。
まぁただの馬鹿なのかもしれないが。
食い物も寝床もお前らの出来次第だ。美味い物が食いたかったら敵を殺せ、暖かいベットで眠りたかったら金を稼げ」
「あの……魔物と戦ったことが全くないのですが、僕たちにあの恐ろしい魔物たちを倒す術は本当にあるのでしょうか?」
奴隷Cがおずおずといった感じで聞いてくる。
「心配するな、俺はお前らを無駄死にさせる気はない。ちゃんと術も用意している、あと僕なんて呼び方はやめろ、舐められる」
奴隷Cにとって魔物は余程恐ろしいのだろう。
用心深いやつは嫌いではない、臆病者は周りに悪影響しか与えないが用心深いやつは準備を怠らないからな。
冒険者なんて舐められたら色々ないざこざに巻き込まれる、ましてや一般人でもなく大人になりきれていない少年奴隷などいい標的だろう。
無論俺の目の届く範囲で舐めたことするやつは俺が容赦しないが。
魔物に関してはレベル1の奴隷からしたら勝てるわけないと思うのかもしれないが俺には策がある。
奴隷たちも各自思うところがあるようだな、まぁ一度実戦を経験させるのが一番だろう。
そろそろ話も済んだし武器を買いに行くとするか、奴隷たちに付いてくるよう命じて昨日訪れた武具屋へと顔を出す。
武具屋の親父に挨拶すると安いナイフとベルトを3本買った、奴隷たちに各自ベルトを腰に巻きナイフを付けさせる。
街中をナイフ片手に歩かせる訳にもいかないからな。
よし、買い物終了っと。
ナイフとベルトだけ買って武具屋を出ると奴隷たちが不安な表情をしながら付いてくる。
皮の鎧でも買ってもらえるとでも思ったのか、今こいつらに防具は必要ない。
武具屋を出るとすぐ森へと向かう。
「今から魔物を殺すため森に入る、狙いは牙や角といった金額の高い素材のみだ、肉などかさばる物は棄てていく。森の中では俺の言う通りに動け」
街の門を出て森へ入ると早めにゴーレムを2体作成する。
ゴーレム1体を先頭にし奴隷3人、俺、ゴーレムと挟む形だ。
奴隷たちは突如出現したゴーレムに驚いた様だが事前に声と動きを制限していたので呻き声一つ出せなかったようだ。
少し森を進むと魔物と遭遇した。
確か以前倒したことのある格闘フォックスという魔物だ。2足歩行のキツネで鋭く長い爪を振りかざし襲い掛かってくる。
ただし戦う相手はゴーレムなので勝敗は見えているが。
決着はすぐに着いた。
尚、今回は殺すのではなく生け捕りにさせてある。
ゴーレムの手のひらで地面に押し付けられた格闘フォックスがもがいている。
「よし、お前らナイフでこいつの頭を刺せ」
俺の発言に奴隷たちが固まっている。
「押さえてやってんだから早く殺れって、早く殺んねーとゲーマスんとこの女奴隷と同じ目に遭わすぞ」
俺の言葉が効いたのか奴隷たちがナイフを手に持ち恐る恐る魔物に近付いていく。
一度刺してからは簡単だ、今では鼻息荒くして魔物を滅多刺しにしている。
身動きできない魔物を少年達がナイフで滅多刺しにする、ゲーマスが好きそうな光景だな、いやゲーマスなら魔物に食い殺される少年達の絵の方が好みか。
魔物を殺させると素材を剥ぎ取る。
剥ぎ取り方も難しいことではないので一度見本を見せてあとは奴隷たちにやらせる。
ゴーレムが魔物を押さえつけ、奴隷たちが刺し殺す、素材を剥いだらまた魔物を探して動き出す。
この繰り返しを日が落ちるまで繰り返した。
俺は歩いて付いていくだけでいい。
成果としては上々だろうか、数十体分の魔物の素材を手に入れた。
リュックもパンパンだ。
奴隷たちの目付きがおかしくなってるな。
身体中魔物の返り血で血だらけ、ナイフも刃こぼれしている上に血糊でもう使い物にならないだろう。
まぁ安物だったので問題ないが。
そろそろ日が沈むので街へと帰ることにする。
ゴーレムは1体をカウンター型にして街道を外れるように直進させ俺のレベル上げをさせ、残りの1体は付近の森に隠してきた。
まぁ隠したといっても街道から離れた森の中にゴーレムを体操座りさせたまま機能を停止させてきただけなので、隠してるとは言えないかもしれないがな。
街の門では血だらけの奴隷たちを見た門番がギョッとしていたがギルドカードを見せたらさっさっと通された。
辺りにいた街の人々も少し離れた位置からチラチラとこちらの様子を伺っている。
俺は目深にフードを被り顔を隠している、顔は見られていないだろうが注目されてしまっただろう。
今回は迂闊だった、奴隷たちへの周囲の目も気にしないといけないな。
奴隷達を建物の外の陰で待たせ、ギルドで素早く換金だけ済ませて宿屋へと引っ込む。
今日の稼ぎは諸経費を差し引いて12万Gだった。
初日で昼前からの活動を考えれば中々といった結果だ。
女将に幾らか金を握らせ部屋に湯と食事の用意を頼む。
食事が出来るまで先に奴隷たちに身体を拭かせ血を落とさせる。
その間に奴隷たちのギルドカードをチェックする。
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名前:A
Lv : 7
職業:なし/奴隷
最大HP82
最大MP0
力74
身の守り67
素早さ72
器用さ71
スキル:なし
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名前:B
Lv :8
職業:なし/奴隷
最大HP90
最大MP0
力81
身の守り78
素早さ81
器用さ80
スキル:なし
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名前:C
Lv : 7
職業:なし/奴隷
最大HP81
最大MP0
力70
身の守り69
素早さ73
器用さ72
スキル:なし
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3人でもレベルの違いが出てきた。
気になってギルドの買い取り所のおっさんに聞きに戻った結果どうやら止めを差したやつがその魔物の経験値を得るらしい。
なので他の2人より積極的に魔物を刺していた奴隷Bが結果的に多く経験値を得たのだろう。
結局何でもいいからパーティーを組めばいいってもんじゃないってことだな。
戦闘時の怪我のリスクは減るが考えなしにパーティーを組むと経験値の取得配分に偏りが出る上に報酬も分配とデメリットがある。
俺の場合経験値を得る手段が別にある上に報酬は全取りだから問題ないが、普通の冒険者達では余程弱いやつか、経験値でなく報酬目当てで強敵に挑む場合位しかパーティーなんて組まないだろう。
組んで精々2人〜3人などの少数パーティーか。
奴隷たちのステータスも人間としては平均的なものだな。
ただ、逆を言えばレベルを上げるだけで身体能力が強化されていくのだ。
これほど美味しい戦力アップの仕方はない。
1月以内には奴隷たちのレベルを20台にしたいな。
全員身体を拭き終わったようなので、盛大に飯を振る舞う。
女将が部屋に持ってきた山盛りの料理がテーブルの上に並べられていく。
貪るように食ってるな、奴隷の身としては当たり前だがそれ以前にも普段食ったことがないような食べ物が自分達の前に並べられているのである。
しかも全部自分達の為だけの物だと。
「いいかお前ら、お前らが成果を出せば俺がそれに応えてやる。俺のために働け、俺のために獲物を殺せ!!」
口一杯に食い物を詰め込みながら血走った目で食い入るように俺を見詰めている。
良い顔じゃないか。
お前らは死ぬまで俺が使ってやるよ。
引っ越し&初一人暮らしで色々時間を取られてしまいました。
とりあえず落ち着いたので執筆再開、感想のお返事もしていきたいと思います。
次回明後日か明明後日に上げる予定。